八ヶ岳が教えてくれた、仕事の価値を変えるヒント<前編>

〜 thincな人・Route Design 津田さん ✕ 長野県 富士見町 〜

フリーランスとして仕事をするということは、孤独なことでしょうか?時代の変化によって、仕事の仕方や働く場所、どういった組織やコミュニティに属するかも自分で決められる時代になってきました。
Route Design合同会社代表の津田賀央(つだ よしお)さんは、東京の会社員時代に八ヶ岳の麓、長野県富士見町に移住。3年間の二拠点生活を経て独立し、現在は自らのクライアントワークと並行してコワーキングスペース「富士見 森のオフィス」を運営し、地域の雇用創出や創業支援を行っています。「仕事も住む場所も、その価値は自分でデザインできる」という津田さんに、組織のカタチにとらわれず仕事やつながりを生み出し、価値をつくり出していくためのヒントを教えてもらいました。

人や本との出会いが人生を変えてくれた

広告代理店から大手メーカーに転職した会社員時代。そこで出会った人と一冊の本が、津田さんの考え方にシフトを起こしました。そして「働き方を変えたい」という想いがふつふつと湧き上がってくる要因になったそうです。

Q. 組織に属さずに働きたいと考えたきっかけを教えてください。

メーカーに勤めていた頃は、サンフランシスコのチームとよく仕事をしていたのですが、チームリーダーが週末はユタの自宅に帰り、スキーを楽しみ、月曜にサンフランシスコに戻る二拠点生活をしていました。また、東京のとある制作会社の社長は、平日は会社近くの1Rマンションで寝泊まりして、金曜に小渕沢に帰る生活をしていて、そんな働き方に憧れていました。
仕事はとても面白かったですが、30代になり10年後の自分を想像した時に、会社員のままでは個人としての能力は落ちていく一方なんじゃないかという漠然とした不安もあり。そんな時に、リンダ・グラットンの「ワーク・シフト」という本と出会いました。この本には、3つのシフトということが提案されていました。1つ目は、ゼネラリストからスペシャリストへのシフト。2つ目は、他人との競争から協力し合うイノベーションへのシフト。3つ目は、稼ぐための仕事から価値と経験をつくる意味のある仕事へのシフトです。この、2025年にはプロジェクト型の働き方にシフトする、という話を読んでからは、「働き方を変えたい」という想いがふつふつと湧き上がってきて、行動に移すことにしました。

Q. 富士見町を選ばれたのはどのような経緯がありましたか?

登山で八ヶ岳を訪れた時に、妻の「こんなところに住んでみたい」という一言が後押しになりました。山が好きだったので山で暮らせたらいいなって。周辺のまちを探し、友人に富士見町に面白い人がいると聞き、実際に訪れてみました。そこで同世代の人たちと交流を持ち、「ここなら住めそう」と直感しました。帰りに町役場のWebサイトでテレワークタウン構想が書かれていた計画書を見つけました。その30分後には「企画を僕に書き直させてほしい」と町役場にメールしていましたね(笑)。そこからとんとん拍子で町役場のプロジェクトに加わることになり、1年後には移住していました。
上司に直談判して、会社は辞めずに火曜から木曜までは東京で働き、残りは自分で会社を立ち上げ町役場とプロジェクトを進めました。当時はリモートワークの仕組みもなく、品川のオフィスに出社するために横浜の実家に泊まり、木曜に富士見町に帰る二拠点生活に。最初の3か月は標高差が1,000m以上もあるせいで、体調を崩したりもしましたが、徐々に移動の時間が良いスイッチになるようになりました。仕事を両立するのは大変でしたが、広告代理店時代に数多くのクライアントワークをハードにこなしたおかげで、マルチタスクには慣れていましたね。

様々な人・モノとの出会いによって、引き寄せられるように富士見町に移住し、二拠点生活を始めた津田さん。2015年に自らの会社「Route Design」を立ち上げ、プロジェクトデザイナー/サービスデザイナーとして、コミュニティー・スペース立ち上げのコンサルティングや、地域商品の企画開発、ブランドのクリエイティブディレクション、イベントの企画運営など、東京と地方地域を行き来しながら様々なプロジェクトに携わっています。そして2015年末には富士見町からの運営委託でコワーキングスペース「富士見 森のオフィス」をオープンしました。




Q. 「森のオフィス」とはどのような場所ですか?

「富士見 森のオフィス」は、広々としたコワーキングスペースのほか、キッチン・食堂、キャンプサイト、宿泊棟まで備えています。富士見町の行政プロジェクトのひとつで、移住を促進するための場です。働く場所を提供するだけでなく、富士見町で様々な人の仕事の相談に乗り、助けになりそうな人を紹介することで、仕事の悩みから創業まで、色々な支援をしています。
移住したエリアで自立して働くには地域との関わりが不可欠ですが、私自身が新参者です。好奇心で訪れてくれる住民の方の相談に乗り、最初はボランティアで問題解決のお手伝いをしていきました。そうこうしていると、商店街の人とも仲良くなり、様々なつながりができていきました。
森のオフィスの運営は、立ち上げ当初は私を含めて4人で始め、いまは8人になっています。みんな森のオフィスのコンセプトに共感して集まったフリーランスで、それぞれデザイン、事業コンサルティング、ワークショップに強みがあり、フラットな関係です。コワーキングスペースは1,240人の会員がいて、年間会員はその中の190人ほどですが、ほとんどの方の名前を覚えていますし、それぞれの仕事内容や得意分野、どんなことに困っているかも把握しています。その人のためにできることを探して、人を紹介したり、一緒になにかに取り組むことで仕事になっていくのです。




ー おわりに ー

森のオフィスでは、移住したフリーランスやリモートワーカーを中心に、地域内外から様々なスキルや背景を持つ人々が集い、これまでに150以上のプロジェクトが生まれています。後編では、こうしたコミュニティをつくることで、どのように働くことをシフトさせてきたのかを紹介するとともに津田さんの今後の展望について伺います。

後編はこちらから

PROFILE

津田 賀央(つだ よしお)

Route Design合同会社 代表/プロジェクトデザイナー/サービスデザイナー

2001年より広告会社にて、デジタル領域のプランナーとして様々な広告主の広告企画に携わる。約10年の勤務の末、メーカーへ転職。サービスデザイナーとしてクラウド技術を用いた新規サービスやプロトタイプの企画開発、UXデザインなどを手がける。

これからの新しいワークスタイル/ライフスタイルを考え、2015年に長野県富士見町へ移住。コワーキングスペース『富士見 森のオフィス』を運営しながら、コミュニティ・スペース立ち上げのコンサルティングや、地域商品の企画開発、ブランドのクリエイティブディレクション、イベントの企画運営など、東京と地方地域を行き来しながら様々なプロジェクトに携わっている。

Route Design:
https://routedesign.net/
富士見 森のオフィス:
https://www.morino-office.com/

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