絶景が導く地域の未来
<大切なのは外からの視点>

〜 thincな人・絶景プロデューサー 詩歩さん ✕ 全国各地の風景 〜

詩歩(しほ)さんは絶景プロデューサーとして、地域の魅力の発掘に取り組んできました。今回は茨城県、愛媛県などでの取り組みについて語ってもらい、その仕事のスタイルに迫りました。

視点を変えて見つかる絶景

私は地方自治体さんとの仕事が多いです。活動をしていて気づいたのですが、日本人の多くは、「自分の地元にはなんにもない」という風に言うんですね。それはどうなんだろうと思います。海外の人と話をすると「僕の地元はすごい綺麗だから、おいでよ」と言われることが多いんです。実際に行ってみると、川などの自然が綺麗ですけれど特に目立つものがあるわけじゃない。でも、地元の人はそれをすごく誇りにしています。それはすごく素晴らしいことだなと思っていて。私は静岡県浜松市の出身ですが、住んでいた頃には「浜松ってなんにもない」という風に見ていたんですね。「東京にはなんでもある」と思って上京しましたが、いざ10年ほど住んでみると「東京もなんにもない」と思ってしまっている自分がいる。

それが自治体さんと仕事をしていくと、どの地域にもやはり眠っている景色だったり、魅力だったりがあるなと思えてきます。なので、そうした地域に眠っているお宝みたいなものを、ちゃんと地域の人たちが気づけるようなきっかけ作りができたらいいなって。そんな気持ちをどんどんと自分の中に築いてきました。2018年に浜松市の観光大使に任命されたので、自分の地元をいろいろと振り返ってみたんです。新しい景色を探してみると意外なことに星空が綺麗に見えるところがあったりして、灯台下暗しと思いました。灯台の光に照らされていない隠れた地域の良さに気がついてもらえるような、そんなきっかけ作りの活動をしたいということを強く感じています。

どうやって旅先を選んでいるのか、どうやって絶景を探しているのか、よく質問をいただきます。私は0を1にするというより、1を100にする発信をしています。0を1にするということは探検隊みたいに藪を切り開いて、誰も見たことがない秘境にある絶景を探すということです。そうではなく、誰でも安全に見に行けるように整備されて、それほどは秘境ではない場所を紹介することがポリシーです。もちろん、すごい秘境にある本当に探検家しか見られない壮大な景色も、絶景だとは思うんです。けれども、私が紹介している絶景は「死ぬまでに行きたい」ということで、死ぬまでに行くことができる場所に限り紹介をしていきたなと。私みたいな女性1人でも行ける場所ですし、ぜひ真似をして同じような写真を撮ってほしい。そういう想いで伝えたい場所をご紹介しています。

じゃあ、どうやって見つけるのか。実は、実際に現地に行くのは全体の労力の1割ぐらいで、下調べに9割ぐらいの時間を占めています。基本的にはSNSをツールに使って、リサーチをすることが多いです。例えばバイクのライダーさんの投稿などを参考にしています。上手な写真ではなかったりするけれど、あちこちに訪れたりしている。例えば「ここへ来ました」みたいな写真を見て、「秋の夕日の時間帯に行ったら、ちょうど岩と岩の間に太陽が沈んで、きっと綺麗に撮れるだろうな」と想像します。いろいろな人のアップしている写真を参考に条件を変えて、私だったらこういう風に撮れるだろうなと予測を立てるんです。実際に足を運ぶと撮れる場合もありますが、全然思っていた風景とは違う場合もあります。そうした経験を重ねていき、新しい景色を見つけています。

フォトコンテストで広がる
茨城の新しい絶景スポット

初めての自治体さんとの仕事は茨城県庁さんからの依頼でした。Facebookで活動していた時、茨城県の国営ひたち海浜公園のネモフィラ畑の光景を紹介したことがあったんです。今では結構人気なので、「あの青い小さな花畑が青空に続いている光景」というと、「あれね」みたいな感じで思い浮かぶと思います。

その絶景を12年ぐらい前に紹介した時、結構バズったんです。いろいろな人が知るようになり、「ひたち海浜公園 ネモフィラ・コキアの絶景」が茨城県の2014年度いばらきイメージアップ大賞に選ばれました。



それをきっかけに海浜公園以外の場所ももっと世界に発信していくこととなり、県庁さんのプロジェクトをご一緒する形で、5年ほど仕事をさせていただきました。2014年頃はまだInstagramなどのSNSを活用したフォトコンテストの開催はほとんどない時代でした。しかし、私は写真を通じて新しい景色がどんどん広まっていき、そうしたことがこれからはどんどん重要になっていくだろうなと考えていました。そこで、絶景を投稿してシェアできるようなウェブサイトを立ち上げ、そのプラットフォームを使った絶景のフォトコンテストを5年ほど開催させていただきました。私は茨城県の絶景を結構知っているつもりだったのですが、投稿されてきた写真の中には全く未知の新しいスポットがたくさんあったんです。そこで、応募いただいた作品を撮影した方に許可をいただいて、バスのラッピングに使ったり、観光ポスターに使ったり。茨城県にはまだまだ観光地としてのイメージが少ない中で、新しいこんな絶景があるということをPRしました。 。

独立当初は書籍を出版したり、旅行会社さんの依頼でパンフレットの商品を一緒に作ったり、1対1のお仕事がほとんどだったんです。それが茨城県庁さんとの活動を通じて、自分1人だけではなくて、どうすればみんなを巻き込んで、絶景を盛り上げていけるのか、という仕事の仕方を知るきっかけになりました。

地元の人さえも知らない
絶景の瞬間を捉える

最近は愛媛県庁さんと仕事をしており、現在4年目。愛媛県内では道後温泉が最も有名ですが、それ以外にどんな観光的、魅力的なスポットがあるのか、私目線で発見していくというプロジェクトです。1年目は計4回ほど県内を訪れて、東から西からいろいろと、各地域を夜だったり、朝だったりと条件を変えて撮影。自分のメディアや愛媛県の観光ホームページを通じて発信をしていきました。そういう私が切り取った場所は結構、写真を撮る人の中では知られているような場所でしたが、県庁さんはほとんど知らなかったんです。地元の人がほとんど認識していない場所があるということをすごく、感じました。県庁さんからは「こんなに綺麗な場所があるなんて知らなかった」とたくさん言っていただいて、プロジェクトは継続して次の年度、次の年度という風に繋がっているんです。

そんな中で、私が見つけた風景を1つ、ご紹介できたらと思います。県庁所在地の松山市にあるモンチッチ海岸という海水浴場です。ちょっと可愛い名前ですけれども、そこで見ることができる景色がすごく美しいんです。「これほんとに松山なんですか?」と、近所の人でもびっくりするような写真を撮ることができました。似たようなイメージで言うとボリビアにあるウユニ塩湖。空が水面に反射する鏡張りのような世界をモンチッチ海岸でも条件があえば見ることができる、ということを私なりに発掘させていただきました。

愛媛県は香川県と地続きですけれども、実は香川県三豊市の父母ヶ浜という海水浴場で、そういう景色を見ることができると10年弱ぐらい前から結構話題になっていました。なので、新しい景色を見つけようとした時、瀬戸内海は同じような地形が続いているのだから、愛媛県でも父母ヶ浜と似たような海水浴場を探せばいいんじゃないか、という推測を立てました。遠浅の海岸にあって、砂地で、引き潮の時に海水浴場に大きな水溜まりができる。そういう条件が揃えば、父母ヶ浜と同じような景色がきっと見れるぞ。そう考えて下調べをし、モンチッチ海岸を見つけましたが、1回目は空振り。2回目は潮の条件、風の条件は良かったんですけれど、肝心の天気が良くありませんでした。なんとか一瞬でもいいから太陽が出てくれないかなと5時間ほどずっと待っていて、最後の夕日の時間帯だけ、こう、雲の切れ間からぱっと太陽が差し込んで、美しく輝く黄金色の光景を見ることができました。ギリギリまで粘って待って、良かったなって思いましたね。それもやはり、県庁さんも地元の人も知らないような光景で、その後は実際に足を運んでくれる人も多くなりました。そのような形でまだ気づかれていなかった地元の魅力を発見し、地元の人に喜んでもらえたことはすごく嬉しいです。



愛媛県は東西南北に広く、移動にも時間がかかります。撮影をする日は朝日、夕日、星空と写真を撮り続けるので2、3時間の睡眠。体力的な厳しさはありますが、絶景を満遍なく、いろんな地域から見つけたいと思っています。自治体さんの仕事は財源が税金なので、地元の方のお金をいただいている以上、それ以上の還元をしたいという気持ちを強く持っているんです。与えられた時間で、できる限りの新しいものを発見し、紹介することを第一に考えています。

新しいものを紹介すると、SNSの場合はフォロワーの人たちが「地元にこんな景色があるって、知らなかったです!」と驚いてくれたり、「紹介されていた場所に行ってみて、とっても楽しかったです」と喜んでもらえたりします。そんなリアクションをくれて、楽しみにしてくれる人たちの期待に応えられるよう、絶景プロデューサーという名前で活動している限りは頑張っていきたいと思っています。

地域プロモーションで重要なこと

私みたいな仕事をしたい。どうしたらなれますか。そういうメッセージもたくさんいただいたりしますが、特別なスキルや資格は必要ないと思っています。ただ、同じような旅の仕事を目指している人を見て、外からの視点が足りないかなと感じることも。旅を続けているとどうしても、旅についてすごく詳しくなり、知識が深くなります。一方で、その情報を発信する先、情報を受け取る側の人たちの多くは、そこまでのレベルではないんですね。旅に限らず地域の情報発信でもそうですが、まだ知らない人たちがどう思うのかという「外からの視点」を持って、紹介をできたらいいんじゃないかなと感じています。

例えばInstagramで「○○温泉××宿のアカウントです」みたいに書いたとしても、そこが何県かは書いていないんですよね。その地域の人が見たら、どの地域にあるか分かるのは当然のことです。けれども、離れた地域の人にとってはどこそれ、となってしまいます。「素敵だな」と思ってもきっとそこで閉じてしまうと思うんですよね。どこにあるかをわざわざ調べるため、もう1歩進んで、Google検索をするところまではいかないと思います。魅力的な情報は他にも溢れていますから。そうした機会損失をSNS、特にローカルのアカウントを見ていると強く感じます。

子どもが見ても分かるように、と私はいつも言っています。誰もが理解できるような情報の発信の仕方、目線の持ち方は意外と難しいのですが、私はそこを忘れないようにしていきたいと思っています。旅の情報を発信していくなら、たくさんの人が来てほしいのなら、やはり外からどのように見られているかという視点はすごく必要ですね。


ー おわりに ー

詩歩さんはカメラがそれほど得意ではなかったそう。現在の愛機は小型・軽量のSONYα7Cですが、最初に一眼レフカメラを購入したのは独立した年の2014年でした。技術力がどんどんと上達したのはやはり、「絶景を届けたい」との熱意だったのでしょうか。 ただし、ため息が出るほどの絶景写真を撮りながらも、詩歩さんは「フォトグラファーではないので」と控えめです。

リラックスするための私的な旅行にも愛機は持参するそうですが、楽しむための旅行だと決めたものに関しては、できる限りカメラをしまっておくことを心がけているそうです。記録用の縦横写真を撮ってしまえば、あとは観光客同様にスマートフォンでパシャパシャ。「割り切って持っていかないという風にできたらいいのですが・・」と笑いながら、プライベートと仕事の切り分けの難しさについて語られました。

 

〜次回、『風景に自然の変化を感じて』はこちら〜


PROFILE

詩歩(しほ)

絶景プロデューサー
静岡県「ふじのくに観光公使」、静岡県浜松市「やらまいか大使」、愛媛県「愛媛・伊予観光大使」

静岡県浜松市出身。早稲田大学人間科学部卒。
広告代理店の新人研修時に「絶景」に着目し、制作したFacebookページが人気を呼ぶ。
著書『死ぬまでに行きたい! 世界の絶景』はシリーズ累計63万部を突破した。
2014年に独立。自治体の地域振興、旅行商品のアドバイザーなどを務めている。
SNSのフォロワーは100万人を超える。
トレードマークはニット帽で、遺跡好き。

公式サイト「Shiho and...」:https://shiho.me/

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