走りながら考える。デザイナー起点で、育つ街づくりの新たなカタチ。<前編>

〜 thincな人・MIKAZUKI.Design 佐藤さん ✕ 市川市・鬼越 〜

結婚を機に千葉県市川市鬼越に転居したMIKAZUKI.Design 佐藤さんご夫妻。
幼少期に自分たちが感じた「地元の良さや愛着」が薄れていく危機感を強く感じたのはお子さんが生まれてから。子供の遊べる場所やイベントもなく、隣の人の顔がなかなか浮かばない街。そんな街にしないため、夫婦デザイナーの発想は「デザインの力」でそれを変え、人とのつながりをもっとつくれないか、愛着ある街にできないかといった挑戦に。鬼越の名物を作ろうとしてはじめた「Onigo」ブランドから始まり、鬼越から入って市川市へとしたシナリオを打ち立て、町ぐるみから市ぐるみへ。行政にたよらず、行動力で突破したその手法に迫ります。

鬼越のおもしろいデザイナー夫婦はノリでいける!と思ったら走り出していた。

「地名に“鬼”がついてるってなんか面白いよね」と転居先の検討時に話していたという佐藤さんご夫妻。家の中では、アイデアが浮かぶといつも「こんなのどう?」と盛り上がっているそうです。その最中にお子様から話しかけられても、ちょっと待っててと遮ることすらあるとか(笑)。そんなお二人だからこそ生まれた鬼なムーブメントについて、お伺いしました。

Q.鬼越でブランドを立ち上げた経緯や発想を教えてください。

遡れば二人が出会った頃からずっと、街を舞台としたデザイン活動には興味があって話題にしていました。そんな折、市川市の起業支援セミナーに参加する機会があり、その中に街づくりのリーダーを育成する講座があることを知って参加してみたんです。そこには社会人の方やセミリタイアの方など幅広い方がいて、背中を押されるきっかけとなりました。「自分達だけでやらなくても助けてもらえそう」「とにかくまずはやってみよう!」と気持ちが入りましたね。この「Onigo」という鬼越ブランドも、その講座の中に街づくりを具体化する企画を考えてプレゼンテーションする課題があり、そこから生まれました。妻が元々アクセサリーをつくっていたこともあり「鬼をモチーフにしたブランドをつくったら面白いよね!」と夫婦で意気投合、あっという間にブランドネームとロゴが出来上がっていました(笑)。

鬼って調べてみると興味深くて、例えば最初はカタチのない概念的なものだったそうです。現在のような鬼のイメージは室町時代にできたもので、江戸時代になると昔話に出てくるような滑稽な鬼も登場してくる。こうして時代にあわせて姿を変える鬼って、まるで(時代の風潮などに合わせて作られる)デザインのようなものだと思ったのと同時に、みんなが共通して赤くて角のある姿を思い出せるという基盤のある、アイデア素材としてとても力強い存在だとその時に改めて感じました。そんな鬼の新しいモデルを自分たちで生み出したら楽しいのではないか。こうして「Onigo」が出来上がったわけです。


「Onigo」のハンドメイドアクセサリー(上)とモーテルキータグ(下段左)、フライトタグ(下段右)。オシャレに楽しく鬼を身につけてもらうことで、鬼に対してポジティブな印象を持ってもらい、アイテムを通して佐藤さんご夫妻の住む鬼越を知ってもらう機会を提供している。アクセサリー・アパレル・雑貨を中心に鬼をイメージしたブレンドコーヒーなど幅広く展開されている。


「Onigo」は講座での課題発表だけに留まらず、実際に商品化をすることになります。まずはハンドメイドのアクセサリー商品を販売するマーケットプレイスでネット販売を開始。併せてInstagramで試験的に、笑えるネタのような内容を切り口に発信をしてみたところ、早速共感を得ることができました。そうしているうちに、「Have A Good DAY Motoyawata(ニューボロイチ)」というハンドメイドマルシェを主催している方とお会いする機会があり、出店してみようとなったんです。Instagramの投稿をみてご来場下さった方がいたり、マルシェに出店されていた他の作家さんや飲食店の方などと繋がったりと、出店がきっかけで次第に街づくりが共通話題になる仲間が増えていきました。こうして、鬼越に住む方々も喜んでくれるし「遠くからこられた方にも面白いよね」となってくれました。これらの出会いには本当に感謝しています。

「Onigo」の商品は入り口は鬼越・鬼でも、誰でも身につけてもらえることを意識して作っています。ネット販売についても、最初はオンラインで本当に売れるのかを試したいというところから始めました。鬼越を知らなくても買ってもらえて、商品が届いてみたら「市川の鬼越の、鬼をモチーフにしたものだったのか」と後から分かってもらえるようなストーリー設計。買って下さる方が北海道にいたり大阪にいたり、日本中にいて、その人たちが鬼越を知ってくれたらいいよねと。「Onigo」とデザインされていても持ちたいと思ってくれる方が、違う地域にも増えていけば何より嬉しいです。

もちろん最初のうちは不安もありましたが、マルシェやオンラインでの実績を通じて、自分たちの方向性は間違っていないんだなと確認できました。また初めからこれに全てをかけていたわけではなかったというのも良かったと捉えています。まずは「自分たちが楽しむ」ことをベースに少しずつ小さく試していったこと、気負いはせずに作りながら試しながら、良い意味でマイペースでやっています。このようにして、私たちが面白いと思って始めたことに周囲も共感してくれ、次第に大きくなっていったのを実感しています。

Q.MIKAZUKI.Designではどのような地域のお仕事をされていますか?

MIKAZUKI.Designは私たち夫婦で立ち上げました。いつかは独立したいと思ってはいたけど、会社にいたほうが安定するし、どうしようと思ってはいましたが、一歩踏み出すと道筋が見えてきて、妻が先に独立するカタチで思い切ってやってみたんです。なんでもノリで面白いと思えたことはやってみる。走りながら考える。これが私たちのモットーです。他方でデザイナー二人なので、作ることに不自由はしない反面、営業やお金の計算は苦労しています(笑)

地域に関係するお仕事は全体の3〜4割程度とまだまだで、セミナーで知り合った方からお仕事をいただいたり、またその繋がりでと、実績をみてお仕事をいただくというよりも評価がクチコミで広がってきていると感じています。今では市川市を飛び越えてお隣の船橋市の方からのお仕事もいただいており、目標として私たちのデザインで、ブランディングや様々な地域のお仕事が増えたらいいなと。今は実績をつくらせてもらっている感覚です。

一点、地域の仕事で難しいのは料金体系だと感じています。都内でやる仕事の金額だと予算が合わず、それに気をつかって安くすると疲弊してしまう。なんとか地域でもちゃんとお金・対価をいただいてやっていこうと考えています。見た目をオシャレにして終わりとなりやすいけれども、その前のコンセプトやストーリー、展望などをしっかりと考慮して、工数をかけてアウトプットするようにしています。「ここまで考えてくれているMIKAZUKI.Designさんならこの金額を払ってもいいよ」と言ってもらえるように、少しずつシフトしているところです。デザインをこういうものだとわかってもらえたら嬉しいですね。現状はクチコミでお仕事をいただいていますが、仕事のやり方だとか、それだけ時間をかけるからこれだけお金がかかるんだと、料金体型にしても納得感のあるものにしていきたいと思っています。





「自ら楽しむこと」から広がるムーブメント

お二人のお話を伺っていて、まず第一に「ビジネスパートナーとしての相性の良さ」を感じました。日常の中にアイデアが溢れていて、それを自由に言い合える環境、かつ、時には聞き役側が後押し係になったり、慎重にいこうと助言する立場になったり。これはプロジェクトなどでデザイナー同士がコラボレーションする際にとても重要なことで、佐藤さんご夫妻は“家族”という「チーム」でそれを体現していらっしゃいます。
そして何よりも、「自分たちが面白い」と思う事象に着目してアウトプットしていく姿勢。地方創生や街づくりのデザインにおいては「課題解決」の視点から入っていく場合も多いですが、今回の事例では「デザイナーならではの好奇心によって生み出されたユニークなアイデア」が周囲の人々の興味関心を生み、実際にその人たちが行動してくれたり、仲間になってくれたりした。
行政とデザイナーという“縦”の繋がり/商店街や観光地などとデザイナーという“横”の繋がり、そのどちらでもない「これって面白いね」という“共感”が点と点・人と人を結び、ムーブメントが広がっていった。続く後編では、鬼越を飛び越えて市川市まで広がったMIKAZUKI.Designの次のプロジェクト、「市川まちガチャ」についてお話をお聞きします。

後編はこちらから

PROFILE

MIKAZUKI.Design

佐藤 宏昭(さとう ひろあき)
山形県出身。テーマパークの話題となった広告クリエイティブに出会いデザインの道へ。美術大卒業後、都内の広告代理店でデザイナーとして勤務。現在はアートディレクター・デザイナーとして活躍する中、MIKAZUKI.Desginとして地域の街づくりも手掛けている。

佐藤 弥生(さとう やよい)
静岡県出身。WEBデザイナーとして都内の制作会社での勤務を経て独立。アートディレクター・デザイナーとしてロゴやパッケージ・WEBデザインのほかアクセサリーやアパレルなど幅広く手掛ける。

MIKAZUKI.Design https://mikazukidesign.com/
Onigo https://onigo.official.ec/
市川まちガチャ https://www.ichikawamachigacha.com/

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