伝統と技術を見つめ、育て、そして世界へ
<ブランドの魅力の引き出し方>

〜 thincな人・shokolatt 鶴本さん ✕ 日本のものづくり〜

独自のメソッドで日本のものづくりを世界へ発信している鶴本さん。ブランドを築く際に重要視しているポイントについて、実際の事例をご紹介いただきながらお話いただきました。


独自のブランドを築くコツ

ブランディングには、ビジョン(=コンセプト)があって、リサーチがあって、アクションがあると思っています。アクションというのは、大きな面で社会から見られている、会社であり、工場であり、今の姿なんです。「展示会に出ろと言われたから、適当に出よう」というように、アクションのためのアクションをすることは多いのではないでしょうか。アクションはブランドが社会とタッチする場所なのですが、その前にリサーチが必要です。展示会に出展するのであれば、どんな展示会なのか、新商品を発売するのであれば、会社の状況を踏まえてどんな商品を発売するかなど、アクションの前にリサーチをすることが大切です。当たり前と言えば当たり前なのですが、アクションのためのアクションをしている会社はすごく多いと感じています。

リサーチとアクションがあり、その上でビジョンがしっかりと磨き上げられていることを、私は「ダイヤモンドビジョン」と呼んでいます。他のブランド(競合)とは異なるビジョンの光がアクションにまで届いていれば、他のブランドとは違うものとして認識されると思います。なので「TikTokやらなきゃ」とか「展示会にとりあえず出なきゃ」とかではなく、ビジョンをきっちりと磨いて「今年1年はリサーチする時間を持とう」など考えることが重要です。私がブランドコンサルティングをする時には「このブランドは他とは違う」と思われるところまできっちりやる、というのが私のやり方です。

講演会などでは「ちゃんとビジョンを磨きましょう」とお話をしています。揺るぎないそのブランド独自のビジョンを磨くということがすごく大事だと思います。

ストーリーが織り成すブランドの輝き

ストーリーがなければブランドは成り立たないと思っています。例えば、この箔一のグラス。実は先日、Alain Ducasse(アラン・デュカス)さんが金沢を訪れた際に、このグラスを100個、ヴェルサイユ宮殿のレストランにご注文くださったんです。


箔一 : STARDUSTシリーズ
世界最古の天文図と言われるキトラ古墳の石室に描かれた星々を金箔で表現しています。一つ一つ職人が伝統のちらし技法で仕上げ、世界にひとつとして同じものはありません。
(Photo : Takato Yokoyama)

日本で最古の金箔がどこに使われているかご存知ですか?実は、明日香村のキトラ古墳なんです。太古の昔からキトラ古墳の天文図は金箔で彩られていて、それに見立てて作ったものがこのグラスなんです。「金箔をただ貼りました」ではない職人の高い技術というのはもちろんですが、金箔がキトラ古墳の天文図をイメージしたものだと聞いた時に、見え方が変わりませんか?ストーリーがあるのとないのとではやっぱり違うというように思っています。

箔一の創業者である浅野邦子氏は箔職人に嫁ぎ、江戸期から続く箔産業の完全な分業体制に疑問を抱いたことで、製造から販売までを一気通貫で行う箔の総合メーカーを立ち上げ、「金沢箔生活工芸品」という生活を輝かせる箔のブランドをスタートしました。箔屋で一番に金沢箔工芸品を製造したことから、「箔一」には「1」という数字が入っています。

世界の人々の生活を輝かせるブランド創りでは、そこにストーリーがないと、創る側も受け取る側の生活者の方々も楽しくないと思っています。私はストーリーを見つけて、新しい製品を創っていくということが、本当に楽しくて仕方がないです。ストーリーはブランドにとっても商品開発にとっても、デザインにとっても、不可欠なものだと思っています。

ブランドが社会とタッチする部分で、ストーリーを表現していなければいけないと思っています。ストーリーが伝わるように、最前線にいる販売員さんの伝え方であったり、ホームページでの表現であったり、ビジュアルの写真やコピーもすごく重要だと思っています。そこでストーリーや、先ほどのビジョンがきちんと伝わるように、ブランドディレクターとしてアクションの最前線を創り上げていくことを意識しています。


マスミ鞄嚢 : shokolatt×toyookakaban Travel mobile wear シリーズ
「旅・移動」をコンセプトにした、快適に美しく旅するように毎日を過ごすためのウエアです。
(Photo : Takato Yokoyama)

豊岡市は、日本最古の鞄の聖地だと言われており「韓国(新羅)から王子(神)が来て、美しい湿地帯の柳から柳行李を作ることを伝えた」という伝説があります。未だに、日本の中でも鞄の生産量が非常に多い場所で、マスミ鞄嚢株式会社さんと「shokolatt × toyookakaban」というバッグを作りました。マスミ鞄嚢さんは、1984年の皇太子様(当時)のご外遊の際の船タンスを作ったというストーリーも持っており、船タンスや重厚なスーツケースの生産を得意としています。その工場の社長さんと「これからの未来の鞄ってどうなるんだろう」とお話をして、ペーパーレス化など物を持つことがすごく軽量化してきた中で、今の時代に合った、軽やかに持ち運べる鞄の未来を標榜するウエアのブランドを創りましょうとなったんです。それは、旅するように生活をしている人たちが軽やかに持ち運べるウエアです。

美しい背景があるからこそ、生活を輝かせるものを作ることで、鞄の聖地をこれからも生き生きと発展させていきたい。それも、素晴らしいブランドストーリーなのかなと思っています。韓国から来た王子様が伝えた鞄なんて聞いたら、本当にロマンティックというか、ワクワクするというか。そういった地域の素晴らしい歴史を持っている会社さんと、人々のこれからの生活を輝かせながら、産地としても発展していくということが、本当に重要なことだと思っています。ものづくりは、それぞれのスタイルがあってストーリーを創っていくことだと思うので、それは小説家に少し似ているかもしれないですね。

ブランディングの鍵は
「ダイヤモンドビジョン」「ストーリー」


ブランドを築くためには「ダイヤモンドビジョン」と「ストーリー」の存在が不可欠だと言う鶴本さん。「ダイヤモンドビジョン」を磨くことでブランドの方向性が示され、その結果、独自のブランドとして他と差別化されます。

また、「ストーリー」は製品やサービスに感情とアイデンティティを与え、消費者との共感を生み出し、心に残るものとなるのだと感じました。箔一のグラスや、マスミ鞄嚢のエピソードからもわかるように、企業の歴史や想いに限らず、地域の特性や歴史について深く理解し、親身に寄り添うことが重要ですね。鶴本さんの手法によって、新たな視点でブランドや商品を知るきっかけとなるでしょう。製品やサービスを企画・開発される際の参考にしてみてはいかがでしょうか。

次回、『オリジナルをつくるヒント』では、鶴本さんのインスピレーションの得方や発想力を育む方法についてお話を伺います。

 

『オリジナルをつくるヒント』はこちら

 

PROFILE

鶴本 晶子(つるもと しょうこ)

ブランドディレクター
金沢箔一ブランドディレクター
shokolatt 代表

大分県湯布院出身、女子美術短期大学卒業。

1992年〜
現代美術家コラボレーターとして東京、NYを拠点に世界的に活動。
2007年〜
新潟燕三条のチタンテーブルウエアブランドSUSgalleryマネージング、クリエイティブディレクター
2010年
APEC20ヶ国首脳のギフトに選出。
2015年〜
富山県高岡 NAGAE+取締役ブランドディレクター、
プロデュースした錫製品がトランプ大統領夫人へのギフトに選出。
2016年
経済産業省クールジャパン「The wonder 500」プロデューサー就任。
2020年〜
石川県金沢市 株式会社箔一ブランドディレクター、
慶應義塾大学経済研究所、インバウンド観光研究センター
一般社団法人インバウンド観光総研顧問に就任。
2022年〜
ものづくりを巡るラグジュアリーツアーの造成に着手、
企業のブランディングコンサルタント、経産省、観光庁、行政などのアドバイザー、
プロデューサーなどを務めながらジャパンブランドのプロデューサーとして活動。

[受賞歴]
2016年
ナガエプリュス ティンブレス グッドデザイン賞受賞 デザイン、クリエイティブデレクション
2017年
SUSgallery コレド室町 EuroShop//JAPAN SHOP Award 第3回ショップデザインアワード
最優秀賞受賞クリエイティブデレクション

shokolatt:https://www.shokolatt.jp/

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