鳥取県米子市にある、元町通り商店街の振興組合理事に就任した亀井智子(かめいともこ)さん。最初に手がけたイベントは10年前に継続開催が途絶えていた『土曜夜市』の復活でした。初めての挑戦とあって、手探りの状態。課題が次々と発生したそうです。そうした中でも、亀井さんがまい進できたのは「子供たちに思い出を作ってあげたい」との強い願いです。いかにして、地元の愛されていたイベントをよみがえらせたのか。具体的なエピソードを交えてお聞きしました。
子どもたちに思い出を
米子の土曜夜市は全国に先駆け、1951年にスタートしました。昭和の時代は非常に店舗数が多く、元町通り商店街には約80店舗もありました。そうした店舗が協力し、土曜夜市を継続開催していたのですが、時代の流れとともに店舗数は減っていき、2009年に継続開催を終了。2011年、2012年に開催されましたが、その後は開催が途絶えていました。店舗数が減るということは土曜夜市のために動ける人たちも減るということになり、途絶えてしまったんです。
私自身、商店街のすぐ近くに住んでいて、幼少期の通学路でもありました。夏休みには本屋さんに寄って立ち読みをしたり。当時はアーケードも残っていて、お店がたくさん開いていることもあり、とても涼しかったのを覚えています。暑い日にはよく涼みに商店街へ足を運んだものです。
夏になると毎週土曜日に土曜夜市が開かれていて、夏休みの朝は図書館、夜はお小遣いをもらって土曜夜市へ向かう、という生活パターンでした。すごい楽しかった、という記憶があります。そう感じているのは私だけでなはなく、他にも多くの人が土曜夜市の思い出を心に刻んでいるんです。しかし、今の子どもたちにはそのような体験がありません。すごくもったいないし、子どもたちに楽しい思い出を作ってあげられないか、ということが土曜夜市を復活させる一番のきっかけになっています。
私が商店街に関わりはじめた頃はイベントもなくなり、店舗数も少なくなっていて、本当に寂しい状態。私の中ではすべて「もったいない」なんです。なんでやらないの、なんで活かさないの、活かせるはずなのに。そういった想いが強くありました。
2019年4月、理事になってからはじめての理事会で、「土曜夜市をやりたいです!」と宣言しました。何か新しいことをやりましょうと言うと、問題や課題が持ち上がることが多いものです。しかし、実際に土曜夜市は過去に開催されていて、盛り上がっていて、地域の人たちにも楽しかったという記憶があったんです。だからこそ、提案をした際にはやりましょう、という流れがすんなり進みました。共通の思い出だったり、実績だったり、土曜夜市の価値というものが人々の中に残っていたからこそ、動き出せたのだと思います。
ただ、イベントを主催するのははじめてなので、どのような流れで進めていくべきか、どのように動いていいのか、まったく分からない状態でした。そこで、実行委員会を立ち上げることになり、協力者を募ることにしました。実行委員会を立ち上げるということは、当然、実行委員長が必要となり、私がその役を任されることに。商店街理事の時もそうでしたが、これも実行委員長の重さや大変さを知らないまま、私が言い出したことなので「はい、やります!」と引き受けました。そこから、商店街でイベントを開催するということは簡単ではないのだと実感していくことになります。たとえば、商店街の通りは市道なので、米子市や警察に許可を取らなければなりません。さらに、飲食店を集めるのであれば、保健所への申請も必要です。開催するために必要なルールを一つひとつ学んでいきました。
復活へ向けて取り組みはじめた当初、私の中では過去に開催していたものを再現するというイメージが強くありました。「あのイベントではこれがあったよね」「こういうことをしていたよね」と思い返しながら、それをできる限り実現可能にしていきたいとのモチベーションでした。ただ、思い描いている形に持っていくまではすごく大変でしたね。まず復活を試みたのは、子どもの頃の思い出のひとつである「ふわふわコアラ」。空気で膨らませた、中で遊べるコアラの大型遊具ですが、それを運ぶには大変な人手がかかるとか。ほかにも、「花氷」といって、氷柱の中に花が飾られた観賞用のモニュメントを復活させようとしたのですが、花氷を作るのには何カ月もかかるとか。そうした中でも諦めず、いかに実現するかを目標に動き続けた結果、「ここならば協力できるよ」という人たちが集まり、なんとか実現ができました。大変なことは多かったのですが、その分、こんなにも助けてくれる人がいるんだということを感じました。
4月に実行委員会が立ち上がってから開催の7月まで、週に1回の会議を重ねました。3カ月の準備期間で1,000人規模でのイベントとなりました。商店街のイベントに携わるのははじめてでしたので、その数字が多いか少ないかということはわかりません。けれども、感覚的に想像以上の人が来てくれたなとの印象がありました。来てくれた人の数自体もそうですが、「懐かしい」という声や、「土曜夜市があってこその商店街だよね」など、開催後にいただいた声の多さに、こんなにも土曜夜市に対する想いがある人たちがいたということに驚かされました。
5,000人集客を実現したアプローチ
2019年に復活はしましたが、次の年は新型コロナウイルスの影響で、開催できませんでした。それでも、2021年から開催を続けることができました。開催ごとに1,000人ずつ集客数も増えていて、2024年は約5,000人が来てくれるまでに成長したんです。開催を重ねる中で見つかった課題は、絶対に次回には持ち越さない、その年のうちに解決することを心がけています。
集客には、非常に力を入れています。イベントを成功させるために大切なのは、やはり集客数です。参加してくれている出店者さんにもしっかりと稼いでもらいたい、売上を立てられるイベントにしたいのです。そのため、リーチ数を意識しています。リーチ数というのはイベントを知ってもらうことであり、土曜夜市の存在をいかにたくさんの人に知ってもらうかが鍵です。復活した当初は、ポスターやチラシが広報戦略のメインだったのですが、最近はSNSにも力を入れています。さらに、土曜夜市は子どもの思い出作りの場所にしたいという想いからスタートしたので、ターゲットとなる小学生へのアプーチも行なっています。市内の小学校にチラシを配布し、約8,000人の子どもたちに届けました。ハイブリッドな作戦で、広報戦略を進めています。
また、集客のために、企画の内容は、毎年ブラッシュアップをしています。どれだけ情報発信をしても、行きたいと思ってもらえる魅力やコンテンツがなければ足を運んでもらえません。子どもたちに楽しんでもらえるもの、喜んでもらえるものは何かを戦略的に考えています。それにはやはり、「その昔」にヒントが隠されていると思うのです。自分が楽しかったと思い出に残っているものは、当時の人たちが企画したコンテンツです。それを今の時代に取り入れたらいいのではないかとのアイデアが浮かびました。去年から取り入れるようになったのは、ビンゴ大会。すごくベタですけれど、子どもが一番喜ぶんですよね。昔は「ビンゴでスーパーファミコンが当たる!」という企画でしたが、現代版では1位の商品をNintendo Switchに変えました。子どもたちが目の色を変え、「参加したい、ビンゴしたい!」という声が集まるようになりました。また、ビンゴ大会は開催時間が決まっているので、参加券を配布した後も一定の時間、会場に滞在してくれるという効果が生まれます。集客人数を増やして、店舗の収益向上にも貢献するという昔の企画をブラッシュアップし、新しい形で活かすようにしています。
まったく新しい企画としては、「市長と子どもたちのジャンケン大会」を取り入れました。普段、子どもたちは市長を見る機会や直接会う機会がほとんどありません。そこで、「市長に会えるのは土曜夜市」というように馴染んでもらえたらいいなと思い、土曜夜市復活当初から現在も継続して実施しています。最初の参加人数に比べ、今年は広場いっぱいを埋め尽くすほどの子どもたちが集まりました。このジャンケン大会に参加した子どもたちの中から、将来、土曜夜市で市長と一緒に何かの企画をする人が現れてくれることを夢見ています。
行政と民間は、それぞれ得意分野が異なります。官民連携という言葉をよく耳にしますが、それは書類の上だけの関わりではなく、互いに本気で地域を盛り上げたいという気持ちや、互いに持っている武器をいかに駆使して協力できるかが、マチを盛り上げる上で非常に重要だと感じています。これまでイベントの開催を通して、一緒に積み上げてきたからこそ、大変な時でも支え合い、「頑張りましょう」と言える関係を築くことができました。どちらかに仕事が偏ることなく、大変な時間も嬉しい時間も共有できるようになり、互いの強みを活かせる戦友のような形で連携できるようになってきました。
ー おわりに ー
米子市のある鳥取県・島根県の県境地域には日本一の日本庭園がある足立美術館(安来市)、水木しげるロード(境港市)、百名山の大山(大山町など)、松江城(松江市)、出雲大社(出雲市)などの観光名所が目白押しです。境港にはクルーズ船が寄港しており、インバウンドを含めた観光需要には地元振興の大きな期待がかかっているそうです。一方で、関東・東海・関西圏からのアクセスが難しいという課題は依然として残っています。米子市にも立派な石垣を持つ米子城跡がありますが、元町通り商店街は「シャッター商店街」と呼ばれていた時期もありました。
そうした中で、亀井さんは生まれ育った商店街に再び活気を取り戻そうと、積極的に取り組んでいます。土曜夜市は多くの人々を巻き込み、協力を得ながら実現されました。地域に残る思い出や歴史が、今の時代においても大きな力となることを感じました。亀井さんの熱意と行動力、そして過去のイベントを現代に合う形でよみがえらせる柔軟なアプローチが、5,000人規模のイベントへ成長させたのでしょう。
PROFILE
亀井智子(かめいともこ)
株式会社GOOD GROW代表
元町通り商店街振興組合 理事
2015年にフリーランスデザイナーとして活動を開始。2019年に元町通り商店街振興組合理事に就任し、商店街の風物詩であった土曜夜市を復活させる。2024年の開催では約5,000人の集客に成功。株式会社GOOD GROWは2020年に設立。Webデザイン・広告・動画制作やSNSの運用サポートなどを行なっている。デザイン思考を取り入れた商店街活性化への取り組みや地域イベントの企画・運営などを通してまちづくり事業も展開中。2022年4月には、市や鳥取銀行、米子信用金庫が設立したまちづくりファンドの活用の第一号として、「Goods&Cafe みっくす」をオープン。
株式会社GOOD GROW:https://good-grow.jp/
元町通り商店街:https://motomachi-yonago.com/