モデル、俳優、そして実業家。多彩な活動に精力的に取り組む表現者、伊勢谷友介(いせやゆうすけ)さん。その原点はどこにあるのでしょうか。表現者としてのキャリアを歩み出したきっかけ、俳優・監督という映像の世界を志した理由について伺いました。
映画監督になりたくて、俳優へ
僕は東京藝術大学の出身なのですが、昔から特別クリエイティブに興味があったというわけではありません。昔から絵を描いたりモノづくりをしたりすることが人よりも得意だったことに加え、観察力があったからなのか、クラスでは少し飛び抜けた存在だったと思います。そうした流れで、藝術分野の頂点とも言える東京藝術大学を目指しました。絵を描くことが好きで藝大を志す人が多いのかもしれませんが、僕の場合、得意ではあるものの、実はそれほど好きではなかったという、少し変わったタイプだったのです。
僕が当時目指していたのはファッションデザイナーでした。「トップの学校に行きたい」と進路を選びましたが、ファッションデザイナーになることを考えると、入るべき学校は東京藝術大学のデザイン科ではなかったんです。入学後、周りに「入る学校を間違えた」と冗談交じりに口にしていました。
ファッションデザイナーになりたかったのは、高校生時代からハイファッションが好きだったからです。子どもの頃って、大人たちから「目標を持つことが大事」と言われるじゃないですか。それで自分なりに考えて志したのが、好きなファッションに携われるファッションデザイナーだったんです。
ところが、実際に進学した東京藝術大学のデザイン科では、現代美術を中心に学ぶことになります。現代美術では表現のメディアを各々が自由に決めていくところがあり、1番自分が楽しんでいる芸術分野を考えた結果、思い浮かんだのが映画でした。自分の訴えたいことを1番表現して伝えられるメディアは、テレビより映画なのかなと。今思うと、ちょっと読みが甘いなと思うんですけどね。
映画の世界を志そうかと考えはじめた頃、モデルとしても活動をしており、その流れで俳優の仕事にも挑戦するようになりました。俳優になろうと思ったのは、監督の演出を間近に受けられるポジションだったからなんです。人にメッセージを伝えたり社会を変革したりすることを考えると、求められる表現をするモデルや俳優より、自分のイメージした世界を具現化する監督が適しているなと考えまして。そのため、監督になりたいという気持ちが先にあり、その勉強ができると考えて俳優を目指しました。モデルをやりながら俳優のオーディションを少しずつ受けるようになり、やがて「監督至上主義」の俳優ができあがっていきました。

1番格好いい在り方が、
社会に変革を起こすことだった
先ほど「社会の変革」という言葉を使いましたが、別に社会のために身を粉にしてやっていくべきだと思っているわけではありません。そもそも、そういった想いは生まれながらに備わっているものでもないと思います。ただ僕は、自分や人類の存在を客観視するのが少し早かったタイプなのかもしれません。
客観視しなければ、ただ生まれ、楽しいことだけを追いかけて人生を終えてしまうでしょう。客観視するという行為は、地球上の生物の中で、人間だけが持っている力だと思うのです。この人間特有の機能を最大化していくことは、ひとつの生命を全うする方法として1番優れているのと同時に、真面目な答えだと思いました。
地球上のひとつの生物として人類を客観視する。宇宙人や神の視点で、人類を評価してみる。そうして、他の生物にはできない、人間にしかできないことをちゃんとやっていく。客観視する中から「自分はどういう人間でありたいんだろう」という在り方をつくっていく。そんな時間を過ごすことが多くあり、今になってみれば、これが僕のデザイン思考の基礎になっていったのだと思います。
善意から社会に対して何か改善できることをしようと思ったというよりも、自分が生物として1番格好いい在り方が、社会の変革だったという感じです。1番イカレていて、1番狂っているけれど、1番格好いい生き方でしょう?
個は種の存続のためにあり、そのために行動する。数を増やすことが生物の成功の論理だとすれば、今で言うと、たとえば小麦がその代表ですよね。人がたくさん栽培して食べるから、生物として増えて成功していると。人類も生物なので、この論理でいくと増えることが是なのですが、気候変動も含めて環境に影響を及ぼしはじめている今、ただただ子どもを生み子孫を増やすことだけが生物として良い在り方の答えではなくなってきているのかもしれません。地球の再生能力を超えない分量を、自分たちの生活で消費していく生物になることが、地球上の生物として人類が進むべき方向だと思っています。
そんな考えにたどり着いてから、では僕は何をやっていくべきなのかを考えました。人より少し上手く絵が描けて、藝大を出て、映像をつくりたくて……そうした自分の特性を踏まえると、僕がやっていくべきことは「社会の仕組みを変化させていくこと」であり、今の世代にとっても最も価値ある行動のベースなのではないかと思ったのです。
24時間365日あるなかで、1番社会に影響を与えている時間は何の時間でしょうか。遊ぶ時間、寝る時間、仕事の時間があるとして、たぶん仕事の時間ではないでしょうか。であれば、その仕事の時間を活用して、社会貢献や次のビジョンをつくれる人類のための教育機関をつくれたらいいんじゃないかと思い、教育業界に携わったこともあります。
辿る道は人それぞれでしょうし、それでいいというのが僕の価値観なのですが、何かを追求し、やろうとしてきた人が最終的に行き着く先は案外同じなのではないでしょうか。たぶん、これは僕だけの答えではない。そんな気がしています。
最初の目的はファッションデザイナーだったわけですが、途中から考える視点を上げ、宇宙人の目線まで引いてみることができるようになった瞬間に、いろいろな物事がひとつにつながり、ひとつの個としての生物としてありたい姿が見えてきました。今の社会は資本主義社会ですから、「じゃあ、株式会社だ」と、進む道がだんだん見えてきたところがありますね。

ー おわりに ー
「僕の思考はぐるぐるしているんですよ」と前置いて、お話してくださった伊勢谷さん。いきなり宇宙人や神の視点で物事を俯瞰して見て考えると言われても、どうすればいいのかわからないという方もいるでしょう。この客観視は、伊勢谷さんの取り組みすべてにおいて重要な要素です。次回「企業理念が仲間を呼ぶ」では、今回の最後に出てきた「株式会社」立ち上げについて伺います。
PROFILE
伊勢谷友介(いせやゆうすけ)
モデル・俳優・監督・実業家・アーティスト
1976年、東京都生まれ。 東京藝術大学美術学部修士課程修了。
1996年にモデルとして活動、その後、1998年より俳優として活動。
2002年、初監督作品『カクト』公開。
2009年、さまざまな才能を持ったアーティスト・プロデューサーが集結し、「人類が地球に生き残るために」をテーマに、新たな価値とモノの創造、社会貢献活動を行う株式会社リバースプロジェクトを設立。等、モデル、俳優、映画監督、実業家、アーティストとして幅広く活動。
最近では、映画『ペナルティループ』(2024年3月公開)出演。
また自身が主宰するアクションブランド「HAPPY SAUCE」にてアパレル、ジュエリーをはじめ、さまざまなデザイン、企画、制作をするなどアーティスト活動を通して、多様な表現活動に取り組んでいる。
HAPPY SAUCE:https://happysauce.theshop.jp/




