モデル、俳優から表現者としてのキャリアをスタートさせたのち、実業家としての顔も持つようになった伊勢谷友介(いせやゆうすけ)さん。現在力を入れているのが、アクションブランド「Happy Sauce(ハッピーソース)」でのライフスタイルの提案です。忙しい日々を過ごす傍ら、大事にされている趣味のお話、地域に携わる活動をされている方へのメッセージなど、たっぷりとお話を伺いました。
アドレナリンを出す時間が大好き
僕にはいろいろな趣味があります。たとえば、モトクロス、サーキット、スノーボード、サーフィン。これらのスポーツには共通点があるのですが、わかりますか?答えは、アドレナリン系のスポーツであるということ。僕にとって、幸せを得るにはアドレナリンが必要で、数ある幸せ物質のなかでも、アドレナリンが1番好きだと気づいたんです。
種の存続のために生きているはずが、その人生を全うしたと言い切ることが非常に困難になったとき、どうすればひとりの人間として幸せだったと感じられるのか。僕は、1番原始的な部分、つまり脳内物質を出している時間がどれだけ人生にあるかではないかと思ったんです。逆に言えば、今の日本人にはその時間があまりにも少ないからこそ、これほどまでに自殺率が高いのではないかと思うのです。
目的が見えない状態でも幸せに生きていくためには、脳内物質をきちんと出す時間をつくることが必要です。おそらくそれは120%「今」だけに集中している状態を指すことだと思っています。それはドーパミンに限らず、ほとんど全ての脳内物質に共通することだといえるでしょう。人間の脳には、神経伝達物質は200種類ほどあると言われていますが、自分の好きな脳内物質をコンスタントに出せる生活を送っていたら、たぶん日本はこれほど自殺率の高い国にはなっていなかったはずです。
でも、日本では仕事以外で脳内物質が出る瞬間があまりにも少ない。研究が進んでいる神経伝達物質は200種類のうち、7種類程度。そのなかで仕事の達成感によって分泌されるのはノルアドレナリンです。でも、ノルアドレナリンを出せるときにも、未来のことを心配し、過去を悔いながら、現在で成果を出すことを考えなければならない。特に経営者やCEOといった立場の人たちは、自ら脳内物質が出にくい人生を選んでしまっているとも言えるんですね。
これは僕にも当てはまります。自分が何に命を燃やし、何に取り組んでいるのか。そのありようが、会社の活動となり、数字となり、お金になり、関わった人の数になっていく。脳内物質を出せる人生をどう担保するかが、僕が生き続けるために必要な時間なんだと、リバースプロジェクトから離れた44歳ごろに気付きました。
これは僕の行動の基準になるひとつのルールなのではないかと思っています。ルールというよりも、人類が生きていくうえで絶対に外してはいけない本質のようなものですかね。だとしたら、自殺率が高い今の日本に、何かしら提供できるものがあるのではないか。そんな想いからはじめたのが、現在手掛けているHappy Sauceというアクションブランドです。

アートにメッセージを託し、
想いを広く伝える
Happy Sauceは、僕が次の活動の形を考える中で生まれたブランドです。僕には人とは少し違った形で物事を進めていく癖があります。だからこそ、表現という形のフォーマットをつくろうと思ったんですよね。それが、いろいろな商品にメッセージを載せることなのです。
今は洋服が中心なのですが、それは僕がファッション業界で長く過ごしてきたから。けれど、本質的には洋服に限らず、商品とメッセージを掛け合わせてアートとして世に提供していきたいと思っています。大きくいえば、マンションにメッセージが書かれてあるとか、飛行機や、国会議事堂がキャンバスになるかもしれない。やっていくこととしては小売業なんですが、僕のメッセージをのせた製品をアートとして提案するというのが、Happy Sauceの取り組みです。
社会変革を直接的に実現する存在といえば政治家ですが、政治家は「こうでなければならない」を実行する立場の人だと思っています。僕にはそれができないからこそ、メッセージを加えた製品をアートとして提案する形を選びました。
アートの語源は、ラテン語の「アルス」で、その意味するところには「技術」も含まれています。なお、技術でイメージされるテクノロジーやテクニックは、ギリシャ語の「テクネ」が語源です。テーマのない絵は社会のなかでアートとされていますが、アートの語源には技術という意味がある。僕は技術は根本的に人の生活や社会の形を変えるものだと思うんですね。
僕のなかには、社会の変革を考えていないものはアートではなくお絵かきごっこだという考え方があります。とはいえ、現代の多くのアートとされているものは、僕がお絵かきごっこだと感じる側のものなのです。テーマ性がなく、チャレンジングでもなく、ただかわいいとか。僕としてはそうではなく、もっと強い意味づけをしていきたい。映画で伝えたものは忘れられてしまうかもしれないけれど、メッセージを載せた服であれば、着る度に思い出してもらえる。そんな風に、生活のなかで想いに触れるきっかけをつくれたら、それはきっと意味のあることなのではないかと感じています。
今、僕が着ている服には「God's Eye View(神の視点で)」、という今年のテーマが書かれています。今の時代は、AIが外部頭脳として相当発達してきていて、たとえば「日本の環境で1番効率的なエネルギー源は何か」といったような人間がすぐ答えを出せないものも、AIなら今時点での答えを出してくれるでしょう。人間より優れた部分が、どんどん大きくなってきています。
そうなると、我々が考えなければならないのは、「映画『マトリックス』のような世界が訪れてもいいのか?」という問いかけです。要は、AIやマシンの栄養源として、人間がたくさん生かされている世界。しかも、実際にはほぼ死んだ状態なのに、脳内に与えられたイメージのなかで生きていると思わせているような状況です。
仮にAIが「地球上で最も多く存在しているのは小麦だから、それが1番成功している」と判断するならば、人間がイメージのなかで生きている状態を「最も成功している形」と定義する可能性もある。AIが怖いと言っている人たちがいるのも、たとえばAIが武器に搭載されれば、本当に人を殺しに行くと思っているからでしょう。
そうならないためにも、人類が考えなければならないのはプロトコル、つまり何のためにどういうものを目指すのかというビジョンと、どんな道程を辿るのか、どう生きたいのかということなのです。そして、「どう生きたいのか」を考えるには、神の視点が必要です。
宇宙人のような遠い視点から人類を眺めて考えることと、人類の有史以来の長尺のなかで進化を捉えて、次の進化を想定すること。この2つの神の視点があることで、おそらく人類はAIに「こういう未来の星にするんだ」と言えるようになるでしょう。そうすれば、AIが最大限の力を発揮してくれると思います。でも、今はまだ人間が未来の地球について考えることができていません。だから、アパレルに「God's Eye View」と書いているのです。ちょっとちぐはぐなことをしていると思えるかもしれませんが、その違和感をおもしろがってもらえたらいいなと思っています。

地域の変化が、国を変える
地域創生については、負けた記憶のほうが強いとお話しました。今、地域創生に取り組んでいる方にも、成功事例を数値化して伝えることよりも、失敗の体験から伝えられることが多いように感じます。
地域創生において一番大事なのは、そこに住む方々の意思です。そのため、そこがずれてしまうと、どんな取り組みも難しくなります。きっと、大変なことが連続して起こるだろうと思います。でも、誰かがやらないとはじまらないということは、絶対に忘れないでいてほしいんですよね。
政治でカバーしきれないところを草の根的にカバーしていらっしゃる方、大きな枠組みで新しい事業を生み出そうとしている方、さまざまな形で奮闘されている方がいると思います。でも、経験者として「やってよかった」と思えるところにつながるかどうかというと、僕はすごく難しいと思うのです。
志を持って、道程を守って、ビジョンを何とか体現しようとすることは、生き様としてめちゃくちゃ格好いいことです。でも、それを評価してくれる人は、本当に一握りしかいない。結果もなかなかついてこない。そうしたなかで進むのは、本当に苦しいことだと思いますが、この社会のなかで1番格好いいことをやっているのだということを、取り組んでいる人たちに忘れないでいてもらいたいです。
地域からの変化が中央を変えていく。地域創生なくして、国に本当の変化は生まれません。皆さんがその礎になっているということを忘れず、自分たちの人生に価値を見出してもらいたいというのが、僕の願いです。

ー おわりに ー
視点を変えることで見える視野を変え、自由自在に身近なことから社会や地球といった大きな範囲のことまでを考えていらっしゃる印象を抱いた本インタビュー。最後は、自身も取り組んだ経験があるからこそ言える、地域で活動している方へのメッセージで締めくくってくださいました。どのような規模であっても、変革は簡単なことではないでしょう。しかし、その行動は立派なものであることに間違いはない。その活動にも人生にも、価値はあると感じさせていただけるメッセージでした。
PROFILE
伊勢谷友介(いせやゆうすけ)
モデル・俳優・監督・実業家・アーティスト
1976年、東京都生まれ。 東京藝術大学美術学部修士課程修了。
1996年にモデルとして活動、その後、1998年より俳優として活動。
2002年、初監督作品『カクト』公開。
2009年、様々な才能を持ったアーティスト・プロデューサーが集結し、「人類が地球に生き残るために」をテーマに、新たな価値とモノの創造、社会貢献活動を行う株式会社リバースプロジェクトを設立。等、モデル、俳優、映画監督、実業家、アーティストとして幅広く活動。
最近では、映画『ペナルティループ』(2024年3月公開)出演。
また自身が主宰するアクションブランド「Happy Sauce」にてアパレル、ジュエリーをはじめ、様々なデザイン、企画、制作をするなどアーティスト活動を通して、多様な表現活動に取り組んでいる。
Happy Sauce:https://happysauce.theshop.jp/
Instagram:iseya_yusuke


