あの鮮烈な想いを残したい
<祭りすべてを応援したい>
〜thinc なひと・オマツリジャパン代表 加藤優子さん×全国各地の祭り〜
ビジネスプランコンテストで数々の受賞を果たし、満を持して株式会社オマツリジャパンを立ち上げた加藤優子(かとうゆうこ)さん。しかし、コンテストで支持を受けた事業も、そう簡単にうまくいったわけではありません。現在のオマツリジャパンが手掛ける事業や事例、今後の展望について、お話を伺いました。
寄せられた悩みごとを事業化
オマツリジャパンでは現在、広告協賛事業、イベントコーディネート事業、体験造成・販売事業、調査・支援事業と大きく4つの事業を展開しています。前編で祭りの支援は「求められた先に行く」とお話しましたが、これらの事業も「困りごとをベースに作り上げていったもの」といった側面が強いです。
広告協賛事業は、祭りで最も多く寄せられる課題「お金の問題」を解決することを目指しています。それまで、祭りの資金は自治体からの補助のほか、その神社の氏子さんや地域の方、または周辺企業が寄付や協賛を行い、名前を提灯や看板、パンフレットに掲載するといった形が主流でした。たとえば商店街の祭りでは、地元の商店街がお金を出すことが大半なのですが、最近では商店街の中のお店自体が減っていて資金が集まりづらくなっています。そんな地域から「オマツリジャパンさん、どうしたらいいでしょう」と相談を受け、どうしたものかと思っていました。最初は「私がどこかでアルバイトをして、自分でお金を出す」くらいしか思いつかなかったですね。
事業化のきっかけは、企業からの「自社の商品を花火大会で配れないだろうか」といった問い合わせでした。汗拭きシートや、お酒を飲む前に飲用するドリンクなど、いろいろなメーカーからいくつか問い合わせがあり、「これを支援につなげられるのでは」と思ったんです。
2023年頃からは、大東建託グループさんが全国の祭りを「地域貢献活動」として協賛してくださるようになりました。全国各地に支店がある会社さんで、支店のある地域の祭りを地域の方々と共に盛り上げたいという想いをお持ちでした。その想いに共感し、全国の祭り主催者と企業をつなぐお手伝いをしました。各祭りにブース出店していただき、プロモーションに活かしていただいています。ファミリー層に喜ばれるような、ゆるキャラも参加したりしているんですよ。

あと、プロモーションの一環として「オリジナル盆踊り」を制作することもあります。たとえば、「クリアアサヒ」のCMソングを使った盆踊りを制作し、日本各地の盆踊り大会で実際に踊ってもらうなどの事例ですね。毎年新しい依頼があり、私たちも楽しみながら取り組んでいます。興味がある方がいれば、ぜひ私たちと一緒につくりましょう。
イベントコーディネート事業は、踊り手の方からの「踊りを披露したいけれど、場がない」という声から生まれた事業です。阿波踊りやよさこいは、毎週練習をしていても披露する場が年に数回しかないので、モチベーション維持のためにも披露できる場がほしいというお話でした。ただ、彼らもお金儲けのために踊っているわけではないので、お金のかかるやり方では続きません。
こうしたお声も、「じゃあ、こうしましょう」とすぐには答えられませんでした。「踊れる場所なんて知らないな」と思い、「そうなんですね、わかりました」と答えながら胸に留めていたんです。しかし、そんなあるとき、歌舞伎町にオープン予定の商業施設「東急歌舞伎町タワー」で、祭りをテーマとした飲食フロアが設けられる話を聞き、そこに毎週土曜日、踊り手の方々を派遣して踊っていただけるようになったのです。

また、「東京で東北六大祭り(青森ねぶた祭・秋田竿燈まつり・盛岡さんさ踊り・山形花笠まつり・仙台七夕まつり・福島わらじまつり)の人たちに来てもらって、祭りのPRのために踊ってもらう」といった事例にも発展しました。必要な控室やお水の手配、姿見の設置、荷物置き場の確保など、経験を重ねる中でコーディネート力も徐々に身についてきました。
体験造成・販売事業も、青森県からのご相談を機に生まれた事業です。青森ねぶた祭で、プレミアム観覧席の設置を一緒に企画しました。当時の価格設定は、1ブース(8人まで)100万円。祭りの観覧席としては異例の高額ということでメディアから注目されました。
まずは試しに数ブース用意してみたのですが、これが好評で。「青森出身の高齢の母に、もう一度ふるさとの祭りをゆったりと見せてあげたい」と購入していただいたお客様もいて、さまざまな想いに寄り添える企画になったと思います。のちに祭り翌日の昼間に、ねぶた小屋をねぶたの専門家やねぶた師さんの話を聞きながら見学できるツアーも行いました。また、嬉しいことに、「別の祭りにも、プレミアム観覧席があればいいのに」というお声もいただきました。2025年にはねぶた祭と同時期にやる秋田竿燈まつりでもプレミアム観覧体験事業を実施したんですよ。

調査・支援事業は官公庁や自治体の案件、祭りの調査などを通じて祭りの支援を行っています。たとえば、子どもたちに自分たちの地域を好きになって応援してもらうため、祭りを活用するという自治体の取り組みへの関わりです。東京都文京区の取り組みが募集していたプロポーザルに採択され、2023年から3年間、観光協会と共に祭りを軸にした地域交流・人材育成プロジェクトを進めてきました。

祭りを自分事化することで
支援できる仕組みづくりを
「オマツリジャパン」という社名を掲げ、ホームページを作ったことで、いろいろなところから問い合わせが入り、タイミングを得て事業になっていく。実績が事業の経験値や広報の材料となり、できることが増えていく。その繰り返しで、今のオマツリジャパンがあると思っています。
2025年9月には、新たに「おきもち」という新サービスの提供をはじめました。広告協賛事業を通じて、大規模な祭りでプロモーション活動をしたい企業がいることはわかりましたが、それでは地域の小さな規模の祭りをサポートできないと思っていました。規模の小さな盆踊りには、青森ねぶた祭のようにプレミアム観覧席で収益を得ることも難しいですし、どうしたらいいのか思案していました。そこで、いわゆる投げ銭システムで地域の人が感謝の気持ちを行動に移せるようにしたいと思ったのです。スマホで簡単に支援できることで、「あって当たり前」とどこか他人事の祭りを自分事化できないかと考えています。
2025年の祭りシーズンを終えたあとにはじめたので、実際の効果を見られるのはこれから。祭りは1年に1度しかないため、PDCAのサイクルがゆっくりという難しさがあります。1度やってみて見えてきた課題や、「もっとこうしたらいいのでは」というアイデアを試せるのが1年後なので、そのスピード感の差に悩まされることもしばしばです。
求められたら出向くのがオマツリジャパンのスタイルですが、祭りを守りたい気持ち、守るべきところがありながら、運営の資金も人手も限られている。その分わたしたちもより深く考え、工夫を凝らす必要があります。来られる方に「おきもち」という仕組みを通じて、自然と投げ銭したくなるような仕掛けをどうつくるか。そうした試行錯誤を重ね、地域にあったサポートの形を模索しています。
企業などから声がかかれば、新しい祭りのプロデュースにも対応しています。コーディネート業と少し近いですね。経験を重ねたことで、どういうものが必要なのか、どうプロモーションするのがいいのかの引き出しが増えたため、たとえば「会社イベントとして祭りをしたい」といったご相談に対し、支えることができるようになりました。

担い手の皆さんも
笑顔になれる世界を目指して
オマツリジャパンは、本当は困っている祭りすべてを応援したいと思っています。「規模が小さいから」など、対象外をつくりたくないのです。たとえ同じ規模であっても悩みごとが異なることが、この事業の難しさを上げていると思いますね。ただでさえPDCAのサイクルがゆっくりなのに、ひとつ型を作って、それを広げれば良しという話ではないのです。今は根幹の事業をしっかり固めることが、将来他にも手を広げていける力を蓄えることにつながると思っています。
あとは、祭りの担い手の方たちがつながるコミュニティもつくりたいですね。担い手の方たちって、どこか重い空気をまとっているように感じることがあるんです。「もうダメだ」と思うかたわら、自分たちの手でなくすわけにはいかないという重圧を感じながら、とにかくがんばっている方がとても多い。「僕、実は祭りが嫌いなんです」とおっしゃられる方もいて、それはすごく寂しいことだと思っています。
もし担い手の方たちがつながり、悩みを吐露したり、成功体験を知ることができたりするようになれば、自分たちでは「全然ダメだ」と思っていることが、外から見ると「すごい!」と思われることなのだと気付けるかもしれません。今その祭りが残っているのは、時代に合わせてうまく変わってこられたからだと思うんですよね。でも、当事者はそこに気付く余裕もない。横のつながりを持てるようにすることで、担い手の方たちが明るい顔になれる世界をつくれないかな、と思っています。祭りサミットとか、開催できたらいいですよね。「今年も俺たち、がんばった!」と担い手の皆さんが互いを称え合えるような場をつくりたいです。
共感し合えること、応援してもらえること、感謝してもらえることは大きな力になります。コロナ禍で祭りが開けなかったときには、祭り開催のためのガイドライン作成などできることを全力でやりました。当時は、「まだコロナ感染の不安が拭えていないのでは。」「地域外から反発があるのではないか」と言っているという事例もありました。そうした現場で、オマツリジャパンの社員がガイドラインを持って地域をまわり、感染防止へのしっかりした取り組みをご理解いただいて無事に開催にこぎ着けた祭りもあります。終えたあと、その社員は担い手の方に「君のおかげだよ、ありがとう」と言っていただけたそうです。私ひとりでやっていたら決して得られなかった経験、会社という形にしてみんなで進んできて良かったと思ったエピソードです。
オマツリジャパンは、まだまだ順調とは言えず、みんなで力を合わせて突き進んでいる最中です。祭りは決して当たり前に存在しているものではないということ、当たり前に行けることはありがたいことなのだと知ってもらえたら嬉しいです。行くこと自体が支援になります。地域で祭りが開催されていたら、ぜひ足を運んでみてください。他人事ではなく自分事として祭りを考えてくれる方が、ひとりでも増えてくれると嬉しいです。

ー おわりに ー
「祭りを守るということは時代に合わせて変えていくこと」と言葉を寄せてくださった加藤さん。祭りを守るというと、全く何も変えないで残していくようなイメージを持たれるかもしれませんが、今ある祭りは全て時代に合わせてきたから残っているそうです。一方で担い手の方に対し、「そう言うと大胆に変えないといけない、と思っていらっしゃるかもしれないですが、焦らなくてもいいですよとも伝えたい」と語ってくださいました。日本の風物詩である祭りは、当たり前に享受できるものではない。参加者側のひとりとして、胸に留めておきたい言葉です。
PROFILE
加藤優子(かとうゆうこ)
株式会社オマツリジャパン代表取締役
1987年生まれ。東京都練馬区出身。武蔵野美術大学油絵科卒業後、株式会社ピックルスコーポレーションに入社。商品開発とデザインを担当。震災直後の⻘森ねぶた祭に行った際、地元の人が心の底から楽しんでいる様子を見て、祭りの持つ力に気付く。同時に多くの祭りが課題を抱えていることを知り、2014年に全国の祭りを多面的にサポートする団体「オマツリジャパン」を創業。2児の母。Forbes JAPAN「カルチャープレナー」選出(2023)。第7回ビジネス創造コンテスト優秀賞(2016)。
株式会社オマツリジャパン:https://omatsurijapan.com/


