アートな取り組みで
地域の未来をクリエイターに。

〜thincなこと・四国芸術運動会 × 徳島県〜

前回インタビューの 石原佑さんが立ち上げられたNPO「Arts Shikoku」。そこにはアートを通してイノベーティブな産業を生み出しデザインしてゆく真意がありました。ここでは、ひとつの活動として今春より開かれた「四国芸術運動会」の紹介、そしてArts Shikoku の今後のビジョンについてを石原さんとNPO副理事長の樫原敏之(かしはら としゆき)さんにもご参加いただき、伺いました。


ケーブルテレビ局代表とアントレプレナー教育者の出会いと融合

徳島大学特任助教となった石原さんは地元ケーブルTV局代表であり市内のアート活動もされている樫原さんと出会う。年齢も境遇もまったく違って見える2人は意気投合しNPOを立ち上げることに。

Q.石原さんと樫原さん、一見面白いお二人が出会ったきっかけは?

樫原:出会いはですね、古事記なんですよ(笑)。ディープな世界。日本古代史の世界の方から入っていったんです。私はケーブルテレビで古事記の番組を作ってましたしね。彼も非常に関心があるというので、とある会で出会うことになりました。その会で話し合って、古事記の話以外にアートやデザインの話でいろいろ盛り上がって、私は実はこういう思いがあると伝えたところ、彼から地元でアーティストを一人でも多く育てたいという話をしてくれて。自分たち民間ベースでできることはもう限られますが、少しでもそういったチャンスの場を作れればなと。お互いに一緒にできることはないだろうかと話していました。アートを核にした若い人たちの教育だったり、子どもさんとか地元の方との交流ですね。そういうことをやって、徳島にアートの土壌がなかったんで、まずそれを作ろうと。

Q.樫原さんがアートに対する思いが強まったきっかけは?

樫原:もともとデザインやアートには興味があったのですが、近年は特にSTEAM教育が海外では非常に盛んになっていることに興味を引かれていて、最初STEMだったのがSTEMではやっぱり具合悪いという形でA(アート)が入ってSTEAM教育になって、今根付いてきているという状態で、じゃあなんでアートが入ったのかっていうところと繋がってくると思うんですけれども、やはり技術で全部ロジックだけで組み立てるっていうのがやっぱり人間の生活に合わないんじゃないかなと。それからイノベーションにアートは重要というふうに思っていたので、普通にアートがみんなに広まって、それをきちんと消化できる軸っていうのを個人個人が持つことっていうのが大事なんじゃないかなと。そんな思いもありSTEAM教育がひとつのきっかけとして、アートに対する思いが強まりました。

STEAM教育に関心を持つきっかけがケーブルテレビで、地元でいろんな取り組みで頑張っている個人や団体を紹介するオーバーザレインボーという番組を作ることからでした。ちょうど小学校でプログラミング教育が始まるというタイミングだったので、一回目の番組企画として取り上げようとなったんです。当時はコロナで子どもが学校に通えなくなり、1年生の子どもさんは先生の顔を見たことがないと。友達の顔を見たことがないと。友達の顔はどうできるかわからないけど、せめて先生の顔ぐらいは子どもさんに見せることができないだろうか、先生方にケーブルテレビに出演してもらって、子どもたちに向けて話しませんかと教育委員会に言っていたんです。しかしながら、話が前に進まなかった。

プログラミングとか先生方は今までそういう経験が薄いでしょうから、ぜひ民間の力を使ってくださいと。民間は、製造業であればCADを使ったり、いろんなパソコン使ったり、そういうふうなことをやっている技術者もいますし、そうした活力をぜひ活用してくださいよと言ったんですけれども、それでも前に進まないと。最終的には、市の教育委員会に教育委員というのがいるんですけど、その1人はぜひ産業界から入れてくださいと。ぜひ産業界の声も教育の中に反映されるような形でお願いできませんかと、言ったんです。それすらも実現できずとなってしまいまして、STEAM教育の理想とは離れていると感じました。ならば、これはもう我々がやらなきゃいけないぞと。

そんな折に、石原君と出会い話をする中で、アートの会話で盛り上がり、アーティストに対する想いが更に強まったんです。




Q.そんなお二人が出会って立ち上げられたNPO「Arts Shikoku」ではどんな活動を?

石原:これから地域を語っていく上で、アートやアーティストは必要になってきます。アーティストだったりクリエイターが多い街にしなければいけない。クリエイターには様々なクリエイターさんがいて、広告であったりとか普通にグラフィックデザインでパッケージの販促物作ったりとか、ウェブデザインとかもそうですし、普通にシンプルにお金を払って対価を得るっていう、普通に産業の構造に絶対必要なのがクリエイター。それに対して、アーティストってあんまり必要ではなく思われがちですよね。アーティストでこういう作品とか作っても、結構なんかわからない作品があるなみたいな。何なんだろうみたいなのがあるんですけど、それって実は思考といろんなものの土地の哲学の塊なんです。

─ クリエイティブの重要性を感じますね。



そうした教育の理想や哲学的な想いが重なりNPO法人Arts Shikokuを立ち上げることになりました。昨年2月に登記ができて、スペースとして開放する他にオープニングセレモニーとして東京から移住された方の作品展示をおこなったり、子育て支援団体との企画展などを開いたりしています。ここのスペースは最初から一気に作り込んでいないのを結構ミソにしてまして。まず1つつくって、2つつくって、徐々にというのを結構してるんですよね。アートってぼやっとしてるんで、目的をはっきり解像度高く決めないようにしています。最初からここに3Dプリンター何台とりあえず置いてみたいな、そういうのはないんですよね。ここに来てくれる人が必要なものを揃えていくっていうのを徐々にやっていってまして。これからは中学生とか高校生とかにも参加してもらって、この団体からアーティストが生まれて、さらに徳島で根付いて活動してくれていて、この団体に所属してもらっていて、この団体がその人のアートを世界に広めるような活動をしていきたいですね。徳島にアーティストを移住させることに限らず、いろんな分脈で考えてます。行政と一緒に我々も活動していますので、行政の方としたら、やはり交流人口を増やしたいという大きな目標といいますか、テーマがありますので、ではどういう人間に来てもらった方がいいのかという課題を持つ中で、我々がやってる活動に非常に興味を持ってくれて、アーティストやデザイナー、いろんな活動をしている人間がこの場に集まってくるというのは、非常に喜んでくれていると思います。

アートハッカソンをやりたいというのがずっとあって、それをNPOの一番大きいメインイベントとして年間の行事予定の中に当初から位置づけてました。そうしてこの2月に開いたのが四国芸術運動会です。

Q.四国芸術運動会について教えてください

樫原:アートシーンを動かす試みとして、アートハッカソンがよく取り入れられているのですが、もともとIT技術者や起業などで行われるハッカソンをアートに応用したものです。四国芸術運動会はまさにそれです。テーマに対して決められた時間内で自分の持つスキルを出し合って作品を生み出す参加型イベントを開催しました。アーティストばかりではなく、いろんな方が参加してくれたんです。職人、教職、ビデオグラファー、有機栽培農業をやってるとか、DJやってるとか、ドライフラワー作ってる男の子とか、それから離島で森の中で食べて生きれる生活をクリエイトしてる人とか、フードコーディネーターとか、それこそ本当にいろんな方が参加してくれたんですよ。それで、彼らが今回の創作活動をやる中で、二日間に渡っておこなったアートハッカソンは本当に頭が焦げ付く体験だったと思います。普段使ってない頭をめちゃめちゃ使ったと思うんですよ。我々生活している中では脳をそんなに使わないように考えるんですよ。楽になるように楽になるようにって脳は考えるんですよ。でも全然違う。例えば今まで使ったことない筋肉使ったら筋肉痛になるように、全然使ったことない脳をめちゃくちゃ使って、これこそ脳がものすごく汗かくようなことをやったわけなんですよね。
これはね、私はまさしくアートだと思うんですよ。

すごい遠い未来の話ではなく、徳島の人にアートっていうものを知ってもらおうという単純な気持ちで、知ってもらうには別に香川の芸術祭など色々あるので、現代アートの作品はいっぱい世の中に美術館とかってあるんですけど、作品見るだけでもなくて、やはりアートは作らなきゃわからないんですよね。なので参加者はアーティストだけでなく広く募集して、普通の人を集めて、普通に徳島県民を集めて、みんなでチームになって作品を作ろうって。中には本物のアーティスト活動をされている方も来られたりしたのですが、基本的には農家さんだったり、市役所の職員さんも来られたりとか、大工さんとか、色んな人が集まって、3つのチームで作品を作りました。

─ 実際にアートを体験させるということですか。



まず初日はアートとは何かについてレクチャーして、本当にとても有名なアーティストの方にも来ていただいて、その人の制作のプロセスを話してもらったり、インプットトークをしっかりした上で、それぞれファシリテーターとしてアーティストやデザイナーの活動されている方がチームごとにテーブルについて、それからコンセプトをめちゃめちゃ練るんですよね。そこを初日に時間をかけて、議論して。そのまま議論が鳴り止まなかったですね(笑)。

2日目は哲学者に来てもらって初日に時間をかけて決まりかかってきたコンセプトをぶち壊すっていうのをやったんですよ。ワークショップでやったらあまりよくないやつですよね。決して壊すって。

その哲学者さんはアーティストでもあり、バックボーンはガッチリな哲学な方で、各テーブルを程よく壊していってもらいました。そこからまたさらにアイデアを煮詰めるという作業でした。とにかくみんなは作り上げないといけないという気持ちがものすごくあるんですよ。アートなんかやったことないけど、なんとか自分たちで作品を作り上げないといけないという思いがあるから、当初のコンセプトよりも完成形に寄っていってたのを崩して、もう一回コンセプトに戻るみたいな。普通に考えると、アートブートの落とし所にどんどん行っていて、いい具合にその方が崩してくれたのかなと思いました。そうしてコンセプトが決まったら、あとは作るだけなので、それぞれ作ってもらってと。

そこから2週間で作品を作りあげるのですが、その間はリモートで会議をやってもらったりとか、これこそフィールドワークをやってもらってもいいんですけれども、1月22日が作品発表審査会と決めてましたので、年始は大変なことになっていましたね(笑)


3チームに別れて作り上げられた作品。(左下)『おとし穴』Team:ひかり, NARUMI FARM/高橋花蓮/入交智之/ふじこ(右)『Ubuntu / ウブントゥ』Team:森, ゆき/ともエル/Alex/佐藤/Miica(左上)『border』team:白・笹・福・松, 白桃さと美/ささゆり/福田遼子/松田真魚。


Q.今後のビジョンは?

石原:計画としては、やっぱりまず移住してくれるアーティスト、街にアーティストを増やしたいというのが大前提です。地元でアーティストになりたい子供とかを育てるというのと、アートを学んで、何か新しい産業を生み出すとか、そういった学校の教育ではカバーできないような話をすること。高校生などにアートを学んでもらって、起業してもらうことも一つ出口ですし、アーティストになってもらうことも出口ですし。あとやっぱり外から人も呼んできていきたいなというのがあって、来年度はアーティストインレジデンスを考えてます。都内、世界から美大生やアーティストを募集して小松島に宿泊してもらい作品を作ってもらうという構想です。レジデンスのプログラムを通じて、技術をもつ大学と一緒に授業や、いろんなことをやっていく中で将来的にはサテライトキャンパスを呼びたいなとも。教育の中で結構アートって足りてないんですよね。徳島もサイエンスやテクノロジーが学べる場は多くあるんですけど、アートが学べる場というのは結構なくて、そこでやっぱりそこの教育機関として、アート系の教育機関っていうのを誘致したいですね。どこか賛同してくれるとすごい嬉しいですけどね。世界のどこでも限らず。世界の例えばアメリカの優秀な芸大が小松島にサテライトキャンパスとか出してくれたら話題もすごいと思います。

─ 徳島ならではの良いところもありますか?



樫原:私自身は都会に出て働いたことはないんです。大学に出て3年間は家業を継ぐために大阪の岸和田に行って、同じ木材関係の会社に丁稚奉公みたいな形で住み込みで働いたのが唯一の都会で働いた経験なんですけれども。都会の方っていうのは一本足打法じゃないかなと思ってるんですよ。一本足がものすごく地方に比べて太いんです。

これは仕事という意味において稼ぎの面であったりとか、大部分のリソースをそっちの方に突っ込んでいると。自分の生活や地域の方を見るとですね一本足じゃないんですよ。三本足もあったり四本足もあったりする。仕事においてもお付き合いだったりとか、それから町のいろんな役だったりとか、子ども関係の教育の繋がりだったりとか、趣味の世界だったりとか、いろんな足で細いながら立っているんですよね。これは一つのライフスタイルでメリットじゃないかなって私は思っていてですね。やっぱり一本が折れたら全部ダメっていう感じでもないんですよ。

自分が壊れてしまうということは地方は少ないんじゃないかなって。切羽詰まってないっていうかこれはね良いところなんじゃないかなと。

プレイ、遊びがしっかりととれるライフサイクル。徳島にはそんな良さがあります。
ぜひ、一度、Arts Shikokuにも訪れてみてください。





PROFILE

石原 佑(いしはら ゆう)
徳島大学 特任助教、NPO法人Arts Shikoku 代表理事
東京造形大学卒業後、都内及び海外でデザイナーとして活動、2018年より生まれ故郷の徳島県にてデザイン会社BLUEを創業。現在、地元企業を中心にデザインコンサルティングを行う。専門はビジネス、テクノロジー、デザインと幅広く、特に社会課題を見据えたデザインの提案を得意としている。

樫原 敏之(かしはら ひろゆき)
株式会社東阿波ケーブルテレビ 代表取締役、NPO法人 Arts Shikoku 副代表理事
徳島大学卒業後、地元徳島で木材商やケーブルテレビ局ほか、数多くの事業を展開。ウォールアートプロジェクトを三十代の頃から行い続け、アートによる街づくりを手掛けている。

Arts Shikoku:https://www.arts-shikoku.com/
四国芸術運動会:https://www.arts-shikoku.com/?p=400

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