鳥取県米子市で、土曜夜市に続く新たなイベント『サンロードマーケット』の開催や、『Goods&Cafe みっくす』のオープンと縦横無尽に活動の場を広げてきた亀井智子(かめいともこ)さん。シャッター街と呼ばれてきた故郷を、どのように再び活気のある場所へと変えてきたのでしょうか。元町通り商店街振興組合の理事就任から5年間が過ぎた今では、亀井さんの心には「バトンを次の人に繫げる」という想いが芽生えているようです。その真意を語っていただきました。
日常的に賑わう商店街へ
2020年、新型コロナウイルスの影響によって、あらゆるイベントが中止になりました。その秋頃に「GoTo商店街事業*」という国の補助事業がはじまり、商店街という土地柄を活かさない手はないということで、補助金を使ったサンロードマーケットというイベントを企画しました。地元の魅力的な店舗を集め、市を開くという企画です。単発のイベントとなる予定でしたが、それではもったいないよねということになり、月1回のマーケットに発展したんです。土曜夜市をきっかけに、商店街を活用したイベントのアイデアが広がったり、お誘いの声をいただくことが増えたり、できそうなことはとりあえず全部やってみようと、他の企画も積極的に行うようになりました。しっかりと情報を届けることができれば人は集まるということを、イベントを重ねるごとに実感しています。
イベントを開くことで人は集められるとわかったのですが、やはり日常的な賑わいがもっと必要だと感じ、2022年4月にはGoods&Cafe みっくすを商店街にオープンしました。商店街は空き店舗の問題も抱えていて、この場所も築130年の元薬局を活用しています。デザイナーの経験を活かし、行動を促すきっかけになるデザインを追求したい。お客さんに自分のデザインが喜んでもらえるものだと証明したい。それを自身のカフェで実現していきたいと考えています。
商店街に来てもらうためには、強い目的が必要です。もちろんカフェを目的に来店してほしいですが、カフェだけではない目的も持ってもらいたくて、グッズ販売を掛け合わています。そのグッズは、駅やデパートなどで売られているようなものではなく、1点1点が手作りで、ここに来ないと買えないようなものだったり、こだわりの品々を揃えています。たとえば、サンロードマーケットで出会った作家さんのアクセサリーや、個人経営をされている店のお菓子など。すごく美味しいですし、オリジナリティもあります。販売することで、作家さんたちが多くの人に認知されることを願っています。
また、カフェをオープンしたのは、若い人との関わりを増やしたいという想いもあります。今では、授業の一環で学生さんが訪れてくれるお店にもなりました。演劇部の学生さんたちの提案で、カフェのスペースを使い、劇を演じてくれたこともあります。この場所を通じて、若い人たちとの繋がりを創り出すことを目指しています。
これまで、シャッター街と言われて、活性化は無理だろう、といったマイナスな雰囲気がありました。しかし、活動を進めていくにつれてイベントも、店舗も増えてきました。私自身もカフェをオープンしましたし、他の空き店舗にもバーが入ったり、美容室が入ったりしています。最近では、商店街で店を開きたいという問い合わせが増えています。店をやりたい、チャレンジしたいという人がたくさんいて、この商店街に興味を持ってくれているんだということをすごく感じています。今では、これから変わりそうというワクワク感に変化してきているんです。
商店街の持続的な発展を目指して
理事になってから、5年が経ちました。思いついたアイデアはとりあえずやろう、全力で実行しようという思いで、この5年間を走り続けてきました。その中で、関わってくださる人が増えましたし、できることも増えました。しかし、ひとりの人間がずっと走り続けていても、やはりどこかで限界が来てしまい、それでは活性化や継続的な賑わいには繋がらないと最近は強く考えています。だからこそ、自分が身につけてきたスキル、考え方、マインドなどを次の世代に繋げたい。そうして新しい考え方や視点が加わることで、商店街の持続的な発展に繋がると考えています。「こんなことをやりたい」とちょっとでも思っている人たちが実現できるためのフィールド作りを、これからは力を入れていきたいです。
地域に関わっていきたいーー。そうした相談もたくさん受けますし、そうした人がすごく増えています。口だけの人には誰もついてきてくれません。実際にそのエリアで活動してきたからこそ、見えてきたものがあるし、実績として残してきたものがあります。やはり失敗もしますし、叱られもしてきましたが、それでも動き続けたからこそ、人がついてきてくれました。最終的には信頼とか、信用が大事だと思います。それを築くための動きがいかにできるのか。気持ちの強さだったり、継続力だったりも関わってきます。私は誰にも負けないぐらい商店街に対しての想いを持ち、動いてきた自信がすごくあります。多少は挫折などがあると思いますが、想いがあれば地域の人も、行政の人もついてきてくれます。「想いのある人」は諦めずに、どんどんと頑張っていってほしいです。
ー おわりに ー
「有言実行」をモットーとする亀井さんにとって、尊敬する人物はファッション誌『VOGUE US』の編集長を務めたアナ・ウィンターさんです。その理由は仕事に対する真剣さ、真摯さ。「きちんと発言できる人になりたい」と亀井さんは語ります。好きな映画も当然ながら、彼女をモデルにしたとされる『プラダを着た悪魔』だそうです。
商店街というフィールドで多くの人々を巻き込み、再び活気のある場所へと変えてきた亀井さん。かつて「シャッター街」と呼ばれた商店街に新たな息吹を吹き込み、変革をリードする姿には、映画に描かれる強い意志とリーダーシップが重なるようにも感じます。アナ・ウィンターさんが若い編集者を育て、導いたように、亀井さんも強い信念と行動力をもって、次世代へのバトンをしっかりと繋ぎ、未来へと商店街を育んでいくことでしょう。
PROFILE
亀井智子(かめいともこ)
株式会社GOOD GROW代表
元町通り商店街振興組合 理事
2015年にフリーランスデザイナーとして活動を開始。2019年に元町通り商店街振興組合理事に就任し、商店街の風物詩であった土曜夜市を復活させる。2024年の開催では約5,000人の集客に成功。株式会社GOOD GROWは2020年に設立。Webデザイン・広告・動画制作やSNSの運用サポートなどを行なっている。デザイン思考を取り入れた商店街活性化への取り組みや地域イベントの企画・運営などを通してまちづくり事業も展開中。2022年4月には、市や鳥取銀行、米子信用金庫が設立したまちづくりファンドの活用の第一号として、「Goods&Cafe みっくす」をオープン。
株式会社GOOD GROW:https://good-grow.jp/
元町通り商店街:https://motomachi-yonago.com/