「四方よし」なビジネスを
<共感を得て広がる取り組み>

〜thincなこと・SHIMA DENIM WORKS 山本直人さん~

沖縄県でSHIMA DENIM PROJECTを立ち上げ、さとうきびの残さであるバガスからデニムづくりをはじめた山本直人さん。その取り組みはさとうきび・沖縄県から、他の残さ・他地域へと広がっていきます。実際の事例、コラボレーションする際のこだわりについてお聞きしました。

「環境に良い」のエビデンスを明示

さとうきびは、世界で最も生産されている農作物です。つまり、最も多くCO2を吸収している農作物だと言い換えられると思うんですね。バガスはボイラー燃料としても使われていますが、燃やすとCO2を排出します。つまり、吸収したCO2を再び放出するため、プラスマイナスゼロとなる。ただ、せっかくさとうきびは環境への貢献度が高いわけですから、すぐに燃やしてCO2を排出させるよりも、そこまでに至る時間をより長くしようという発想が、環境への貢献につながるのではないかと考えています。

それがLCA(ライフサイクルアセスメント)*を活用し、CO2排出量を可視化することでした。ただ、当時の私はLCAについての知識はなく、「アップサイクル」や「サーキュラーエコノミー(循環経済)」「循環型社会」といった概念に共感し、それを実現する循環型経済をつくろうというのが、当初から考えていた形です。

しかし、「意識をしていますよ」だけでは、周囲に説得力を持って伝えられません。じゃあ、どうすれば良いのかと考えたとき、トレーサビリティ*とLCAが効果的だと気づきました。透明性を担保したエビデンスがあれば、周囲にきちんと伝えていけるかなと。LCAによる数字を公表する以前より、SHIMA DENIM WORKSでは綿以外の原料の調達はほぼ日本でしています。製造地もオープンにし、メイドインジャパン、日本品質の日本のデニムとして評価されています。デニム製品は完成するまでに地球を1.6周するほどの距離を移動していると言われており、移動するということは、その分、燃料によるCO2の排出があるということになります。できる限り国内で置き換えれば移動距離を減らし、CO2の排出量の削減に貢献できるということなんです。

当時、東京都市大学に勤められていた先生に問い合わせ、LCAの算出を行ったところ、2023年には共同研究の結果を学会に出したり、10.78kgのCO2削減を公表できたりするようになりました。

透明性は非常に大事ですね。「これは環境に良いものです」と謳っていても、どこでつくっているのかについては公表していないところがたくさんあります。「さとうきびでつくった○○です」と謳っていても、その多くは国産品ではないのが現状です。経済合理性を優先するのがビジネスの基本であるためこうした状況になっているのでしょうが、私はそれが嫌で。どうせ同じだけのCO2が出ているなら、国内の資源を活用すべきだと考えているんですよね。試作段階ではタイ産の素材を使うことはありますが、日本で販売するものに関しては、日本のさとうきび、バガスを使うことにこだわっています。

※LCA(ライフサイクルアセスメント)
製品やサービスのライフサイクルを通じた環境負荷に着目し、それを定量的に評価する手法。製品に使われる資源の採取、原材料の調達、製造、加工、組み立て、流通、製品の使用、破棄に至るまでを「ライフサイクル」とし、科学的、定量的、客観的に算出する。

※トレーサビリティ
製品の原材料の調達から生産、消費、破棄に至るまでの流れを追跡できる状態にすること。トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語。

裏方としてコラボを推進

SHIMA DENIM の「SHIMA」は、沖縄県のことであり、また島国である日本のことも指しています。循環型経済をつくろうというのが私のスタート地点ですから、対象はさとうきびのバガスだけではありません。今では、さまざまな地域の残さを活用し、素材の開発、商品づくりに取り組んでいます。食物繊維が含まれていれば、バガスと同様に糸、布素材へと加工することが可能なので、いろいろな残さに可能性があるんですよ。

そうした中で、大手企業さんとのコラボレーションも行えるようになりました。たとえば、ビールの製造時に出る麦芽の残さを利用し、『黒ラベル』にちなんだ黒いデニムをつくるサッポロビールさんとのお取り組み。明治さんとは、カカオの残さであるカカオハスクをアップサイクルしたお取り組みを行いました。さらに、沖縄県を拠点とするSHIMA DENIM WORKSにとって外せないのが、オリオンビールさんとのコラボですね。オリオンビールさんとは、もうずっと一緒に取り組ませていただいています。

(Photo:CURBON)

地域との連携も広がっています。市の協力もいただきながら進めているのが、広島県福山市で2025年に開かれるバラ会議の販促品づくり。今年は山形県庁と連携し、さくらんぼの残さを活用する取り組みも進めています。さくらんぼの植樹150年を迎える記念の年だそうで、地場の会社さんも一緒に取り組んでいるところです。

地域の会社を通して農家の方とつながるので、残さの処理に困っている農家さんから直接お話を伺う機会は多くはないのですが、「これまで燃やすしか手立てのなかった枝から、こんなものがつくれるなんてうれしい」と喜んでくれているとお聞きしたことはあります。純粋にうれしいですね。

こうした取り組みは、SHIMA DENIM PROJECTの事業を見て問い合わせがきたり、紹介してもらったりしてはじまることが多いです。一緒にやるかどうかは、私たちの取り組みに共感してもらえているのかどうか、責任を持って取り組んでくれるのかどうかで決めています。

わかりやすい例として、「儲かりますか?」から話がはじまる場合は、スタンスが異なるためご一緒するのが難しいですね。儲からないとやらないスタンスは、自己都合だからです。ものづくりに携わる工場は、ハイエンドブランドの生地もファストファッションブランドの生地も、同じように製造しています。安易に「金額を安くしたい」と考えるのは、そうした工場などどこかに無理を強いることになります。それは無責任であり、産業の衰退にもつながります。そうした背景を理解せず、ブランドの論理だけで進めようとする企業とは一緒に仕事はできないと考えています。

一緒にやりましょうとなったあとに意識しているのは、サプライチェーンをできるだけ小さくすること。メイドインジャパンだけではなく、メイドイン沖縄、ハンドメイドイン沖縄と、近くでつくったものを近くで売ることにこだわっています。また、地域で売ることも考えています。SHIMA DENIM WORKSが実店舗で販売しているものは、かりゆしウェアや紅型(びんがた)など、沖縄らしさを感じられるものが多いですし、他地域と連携しているものも、どんどんその地域の色が出てきているなと。あとは、高品質であることにもこだわっていて、製品寿命の長いものづくりを目指しています。

さらに意識しているのは、私たちが主役でやらないということですね。先ほどご紹介したように、企業や地域との連携事例が増えてきていて、各地域に沖縄県のさとうきびのバガスのような課題、ニーズがあると実感し、一定の手ごたえを感じています。そこで私たちが前面に出るのではなく、あくまでも地域のパートナーを間に挟んでやるようにしています。たとえ商品が「売れる」とわかっていても全国チェーン化は行いません。販管費をかけて収益を最大化するような事業展開は、目指す方向とは異なります。

私たちの取り組みを通して産業や会社にとってプラスに働くようになることがサステナビリティにつながっていくと思っています。ひとつの取り組みが次の紹介につながったり、「うちでも何かやってみようよ」という話になったりと、いろいろな可能性が生まれ、良い循環ができていると思いますね。

アイデアの引き出しは
自分の「ほしい」想い

いろいろなアイデアを出せるのは、前職で培った提案力、発想力が活きているからかもしれません。残さについてお話を伺った後、「こういうのができたら面白いですよね」という軽いアイデアからはじまることが多いです。たとえば、サッポロビールさんとの取り組みは、黒ラベルを愛飲しているのは私たちの世代であり、そんな私たちは同時にジーンズ世代であることから、「黒ラベルだから、黒いデニムじゃない?」という、半ばノリのような提案が実現しました(笑)。

あとは、自分自身が純粋にほしいと思うかどうかですね。そもそも、私はひとりの消費者でもありますから。アパレルに特に詳しいわけではないのですが、いろいろなところにアンテナを張っていて、もの選びには自分なりのこだわりがあります。少なくとも「安いから」という理由で買った記憶はありません。男性寄りの商品が多いのは、私が女性向けの商品を十分に理解できてないないからです。アパレル業界では女性向けが狙いやすいと言われるのですが、私の場合、「自分だったら買う」という判断が成立しないので。

デザインにもこだわっているのは、「ほしい」と思えるものづくりをしたいからですね。デザイナーではないのでゼロイチでつくることはできないのですが、「もっとこうしたい」という指摘はできるので、その取り組みで協力してもらっている人の力を借りながら、より良いものを目指しています。

ビジネス的に考えるなら、本来はマーケットインのほうが良いでしょう。でも、私は「良いものは良い」と信じています。大量生産をするのではなく、責任を持って売れる範囲でつくるのであれば、それが間違った方法ではないと考えています。だからこそ、小売りでビジネスを成立させようと当初から考えず、それ以外でのプラスアルファを意識したビジネスモデルを追求してきました。「どうしたら良いんだろう」と模索し、いろいろな人に相談して、現在の形に収まってきたのかなと。

多くの会社は人や事業ドメインが明確にあり、それを増やしていくことが一般的ですよね。ただ、その方法では成長性はあっても、可能性の広がりは少ない気がするんです。そのやり方をスタートアップで今更やってもしょうがないなと。長らく会社員をやってきて、そこから独立起業したのなら、自分が楽しくないとダメだと思っています。

見てくれた人が「良いな」と思ってくれたらいいですよね。別に、若い世代のアクションを変えようとは思っていないんです。年配の方よりも若い方のほうが、これからの時間が長いわけですから、10代が「良いよね」と思ってくれるものをつくることがサスティナブルにつながる。

ただ、10代の方がうちのデニムをすぐに購入できるかというと、なかなか難しいでしょう。それでも、「今は買えないけど良いな」と思ってもらえる取り組みは未来につながると思っています。これからの未来を考え、教育機関からの依頼は断らずに全て受け入れています。京都芸術大学の先生が共感してくれて、学生との取り組みも行っているんですよ。

環境に配慮したものだけではなく、こだわったものは相応の価格になります。「高い」と感じるものもあるでしょう。しかし私は、「これが良い」と思ったものを買うために稼いだり貯めたりするのだと思っています。簡単にものを捨ててしまうのは、愛着がないからでしょう。大切に使い続けたいもの、着なくなったものは捨てるのではなく、誰かにあげたいと思えるもの。そんな選び方や買い方をしたいです。

「どれだけ高くても環境に配慮したもの選びをしないとダメだ」と言いたいわけではありません。ただ、大量生産、大量消費の積み重ねが現在の環境問題を招いていることを意識する必要はあると思っています。私には10歳と8歳の子どもがいまして、彼らがこれから長い未来を生きていくことを考えると、私たち年長者は悪化する未来に目を背けてはいけないのです。ビジネスも同様で、自分の会社のことだけを考える姿勢が、新たな問題を生む可能性があります。きれいごとは言えませんが、自分の選択が未来につながることを考えて行動していきたいですね。

(Photo:CURBON)

自分の「良い」を信じて

あまりブランドをつくっている意識はありません。取り組みそのものが啓蒙につながるのが理想論ですね。ただ、前提としてビジネスでありボランティアではないことも念頭に置いておかなければなりません。

「三方よし」という言葉があります。売り手、買い手、世間の三方を考える、近江商人の考え方ですね。私はここに「将来よし」を加えた「四方よし」がこれからの時代のビジネスに必要なのではないかと思っています。目の前の利益や選択肢にとらわれず、将来を見据えた判断が求められる時代です。

たとえば、石油由来の資源を使い果たしてしまっても、自分のことだけを考えればそれほど問題にはならないかもしれません。自分が生きている間に地球が完全に壊れることはないかもしれないからです。しかし、未来を見据えると壊れてしまう日はいずれくるでしょう。それを根本から変えることはできなくとも、意識を持ち、それを発信することは、小さな一歩だけど誰にでもできることだと思っています。

これからも、一歩ずつ地域創生につながる環境貢献を実行していきたいですね。それが自分以外の人の共感を得て広がっていけば良いなと思っています。さらに言えば、競合が生まれたら良いなとも思いますね。同じような取り組みをする企業が増えることで、結果として世の中のためになっていくのであれば、それは素晴らしいことだなと。

これまで続けてこられたのは、上手くいったからという結果論にすぎません。やらなかったら何も生まれないので、まずは動いてみることが大切です。その際、周りにネガティブなことを言われたら、それは気づきの瞬間だとプラスに捉えればいい。共感して、「良い」と思ってくれる人だけが買ってくれれば、関わってくれればそれで良いと思うようにしてきました。

人が「良い」と思う価値を示すのは難しいものです。分析すれば表せるのでしょうが、根底にあるのは「良いものは良い」という直感でしょう。良いと思ったこと、やりたいと思ったことを実現できる世の中が理想ですよね。良い意味での指摘には耳を傾けつつ、悪意を持った言葉は何の役にもなりません。行動してみてはじめて得られるものがあるので、ぜひ行動してみてほしいです。

やってみた結果、上手くいかなかったとしても、それは無駄ではありません。何かに影響を与えられれば、それだけで意味があるんです。過去を批判しても未来には何もつながりません。大切なのは、過去から学び、それを未来に生かすことです。

ー おわりに ー

「今やっていることを続けて増やしていきたい。国内外でいろいろな話があるので、連携先を増やし、できる限り多くのアップサイクルをして経済効果を生み出したい」と未来の展望について語ってくださった山本さん。独創的なアイデアが山本さんの持ち味ですが、ご本人は「誰にでも欲はあるもの。自分が良いと思ったものをつくれる人を探し、相談してきただけなんですよ」と語ります。三方よしから、将来のことを考えた四方よしへ。仕事や消費について考えるとき、心に留めておきたい言葉です。

PROFILE

山本直人(やまもとなおと)
株式会社Rinnovation代表取締役
Curelabo株式会社代表取締役

1977年東京都生まれ。広告代理店で企画立案や商品開発、ブランディングなどの事業に携わったのち、2018年に退社、同社を立ち上げ「SHIMA DENIM PROJECT」を始動。東京都と沖縄県の他、支社のある京都府や各拠点を飛び回る日々を送る。

SHIMA DENIM WORKS:https://shimadenim.com/
株式会社Rinnovation:https://www.rinnovation.co.jp/
Curelabo株式会社:https://curelabo.co.jp/

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