デザイン、アート、そしてAI。好奇心の赴くまま楽しむ

〜thincなひと・岡村しんしさん×福岡県福岡市&大牟田市〜

福岡県福岡市を拠点に活動する株式会社RANDOM代表取締役 岡村(おかむら)しんしさん。デザイナーとして企業の依頼を受けて仕事をするかたわら、アーティストとしてのアート活動も精力的に行われています。出身地である福岡県大牟田(おおむた)市に関連する仕事を幅広く手掛けたり、平日毎朝9時にInstagramでラジオ体操のライブ配信を行ったりと、印象に残る活動も多い岡村さんに、デザイナーを志した理由や独立初期の仕事の取り方、AIが台頭するこれからの時代に対する想いなど、たっぷりとお話を伺いました。

独立ブームに乗って決めた法人化

小学生のころから絵を描くのが好きで、高1のときにMacを買い、Photoshopやillustratorでデザインするようになりました。中3からやっていたストリートダンスのイベント用フライヤーを作って対価をもらうなど、デザインでお金をもらう経験をはじめてしたのも高校生のころです。ガラケー用の絵文字や待ち受け画像の制作依頼をネット上で募り、無償で作ったりもしていました。

高校卒業後はデザイン専門学校に入り、本格的にデザインの勉強をしたのですが、卒業してすぐクリエイティブ職に就けたわけではありません。就職が決まらず、半ばフリーターのような時期を過ごし、「とりあえず仕事をしないと」とアパレル販売員になりました。せっかく専門学校を出させてもらったのだからと、デザインがらみの仕事への転職を模索しはじめ、ガラケーのモバイルコンテンツ、デコメールを作っている会社で働くことに。8年ほど経験を積んだのち、会社を立ち上げて独立。社名の「RANDOM」は、私がリーダーをしていたストリートダンスチーム名が由来です。

独立のきっかけは、モバイルコンテンツ会社の同僚の独立でした。その方を含め、当時の福岡県のベンチャー界隈には会社設立ブームみたいなものがあったんですよね。同じ時期に会社を立ち上げる人が何人かいて、「岡村さんも独立するなら行政書士を紹介できるよ」と言われるなど、独立しやすい流れがありまして。そうした環境もあって、個人事業主ではなく法人化を選びました。

会社設立がスムーズな環境にあっただけで、お客さんのツテがある状態から独立したわけではありません。副業としてアフィリエイトサイトの運営などをしていたので、当面はそちらの収入で食いつなげるかなと考えていました。現在、会社は15期目になりますが、営業という営業をしたことはありません。当時、福岡市では経営者やベンチャー界隈の交流会やトークイベントが多く、そうした場に積極的に足を運んで人とのつながりを増やしていきました。今もその縁が活き、仕事にもつながっている感じですね。

(Photo:CURBON)

あと、当時やったことといえばホームページに制作物を載せること。とはいえ、サイトを作っただけで見てもらえるわけではありませんから、やはり人とのつながりが大きいなと思います。順風満帆できたわけではなく、仕事量には浮き沈みがあり、「来月はどうしよう」と思ったこともありました。集まりに顔を出したり、知人に「何かないですか?」と連絡してみたりしながら乗り越え、今に至っています。

人が集まる場に行くと、不思議と何かしらのキーパーソンに出会え、新たな仕事の話をいただいていました。その仕事が終わるころには、ニーズに応えるようにSNS動画広告の事業にスライド。「これ、できる?」の言葉に合わせて事業内容を変えてきました。動画を作ったことはなかったのですが、「できます」と返して独学で対応したことで、今ではナショナルクライアントの動画制作にも携われるようになりました。今は調べる手段も豊富ですし、やったことがなくても挑戦することはできるでしょう。今後も時代と共に仕事内容が変わっていくのだろうと思っています。

地元や世の中が良くなる活動を

私は福岡県大牟田市出身で、デザイン専門学校に進学する際に福岡市に出てきました。そのまま福岡市で就職し、今も拠点としています。福岡市が夫婦の出身地の中間地点に位置するマチという事情もありますが、そもそも福岡県を離れようと思ったことはありません。

福岡市に拠点を置きつつ、大牟田市の仕事も受けています。デザインの仕事をするのであれば、世の中を良くしていくことにつながる活動をしなければならないと思っているんです。こう思うようになったのは、私が大牟田市出身だからかもしれません。大牟田市は石炭産業で発展し、産業の衰退と共に人口が減っていったマチです。福岡市は九州中から人が集まるマチですから、福岡市に来た人たちに「外におもしろいところがあるよ」と大牟田市などを紹介できたらいいなと思っています。

マチづくり活動を行っている友人が企画するトークイベントへの参加もしています。そうした場では社会貢献に関心のある人と出会えますから、自然と周りに「世の中を良くしていきたい」という人が増えたのかなと。彼らの存在も、「デザインの仕事をするなら、世の中を良くしていける活動をしないと」という想いに大きな影響を与えたのかもしれません。母が大牟田市で犬猫の保護活動を長らくやっているので、母からの影響も少なからずあるのかもしれないですね。

福岡県や大牟田市に関わる仕事をするのは、自分自身の気持ちにとっても良いことなんです。オペレーター状態になってしまうと、だんだんと仕事が楽しくなくなってしまう気がしていまして。やっぱり、おもしろい仕事をしていたいんですよね。大牟田市の仕事ですと、商工会議所と組んで地域の商品のパッケージデザインを考えたり、展示会のブースデザインを考えたりと、企画段階から入れることが多いのが楽しい。知り合いからの紹介で、物産振興協会のスイーツ発表会のプロデュースを実績がない状態で担当したこともあります。新しい挑戦はおもしろいですし、やりがいも感じられます。

(Photo:CURBON)

地元関連の仕事は、「大牟田出身です」と言っていることで声をかけていただくことが多いです。あとは、思いつきではじめた「大牟田デザインTシャツ」も依頼のきっかけになってくれています。売上の一部を町おこしに使っていけたらなと思い、開始した取り組みでした。

大牟田デザインTシャツは、企画だけではなくデザインも思いつきです。たとえば「世界四大都市Tシャツ」と銘打って、ニューヨーク、パリ、ロンドンに大牟田市を加えたもの、市庁舎をデザインしたものなどがあります。

これらのTシャツは地域貢献にも役立つプロジェクトになりました。令和2年7月、大牟田市で大雨による水害が起きたとき、何か役に立てないかと思い、当時持っていたTシャツの在庫を販売して寄付金にしようと試みたんです。結果、100万円分の在庫が売り切れ、追加生産も行い、利益分を寄付することができました。最終的に200万円くらい寄付できたのではないでしょうか。メディアにもかなり取り上げていただきましたし、被災後に立ち上げられたボランティアグループの運営費としてスピーディーに寄付でき、「やって良かった」と思いました。大牟田デザインTシャツを通じて知っていただいた方も多いのです。

(提供:岡村しんしさん)

大牟田市関連の仕事をする流れで大牟田市の商工会議所には入ったのですが、福岡市のほうには今のところ入っていません。ただ、商工会議所に入れば福岡市でのクリエイターマッチングサービスもあるようなので、福岡市でも入ろうかなと検討しているところです。

「楽しい」と思える余裕が大事

会社は妻とふたりでやっていて、妻はイラストを描いたり私のデザインのダメ出しをしたりと一緒にモノづくりを行っています。そのため、会社の代表とはいえ自分が手を動かす仕事が多いです。仕事がなくなるときのことを考えると不安があるので、人を雇うことなく経営してきました。

先ほどお話した大牟田デザインTシャツが具体例のひとつですが、会社設立時から「思いついたものを形にしてみよう」をモットーにしてきました。当時はSNSのなかでもFacebookをメインに使っていたので、そこに「こういうのをやります」と投稿して反応を見るようにしていました。クラウドファンディングを使って、ソーシャルアカウントだけが記載されているガム型の名刺サービスを出してみたこともあります。

日常的に「何か組み合わせられないかな」と考えるのがクセです。ドライブ中に「この看板はここをもっとこうしたら良くなる」と改善案を考えたり、団らん中に最近おもしろいと思ったCMを見せ合ったりするのが家族の日常風景でもあります。そうした習慣が、自然と自分の引き出しになっているのかもしれません。

独立後、仕事がないときが一番しんどいと思っていたんですが、もしかすると極端に仕事がありすぎるときのほうがキツかったかもしれません。仕事がありすぎると、心臓のあたりが痛くなるんですよ。3年ほど前に「ここが自分のこなせる量の限界なんだな」と感じ、健康を害してしまうと思ったことがありました。仕事がないとき、ありすぎるときの両方を経験してみて、どちらもキツさはあるものの、健康面ではありすぎるときのほうがしんどかったかなと思います。過労でうつ病になる人がいるように、本当に忙しすぎると何も楽しくなくなってきてしまうんですよね。当時は脳がずっと休まらない感じでした。

このところは対応できる限界値の仕事がきている状態が続いています。必要に応じて納期を調整していただきながら、良い仕事量を保てています。ありがたいことです。

(Photo:CURBON)

デザイナーとアーティスト
相乗効果で仕事の幅が広がった

クライアントワークと並行して、自分のキャラクター性を活かしたアート活動も続けてきました。デザイナーとしての仕事では仕事上求められるキャラクター性しか見せられないので、アート活動から覚えてもらえることもあるのではと思っています。

クラブイベントでライブペイントをやってほしいという依頼を受けたときには、普通に絵を描くのではなく、身の回りのものを使って絵を描いてみました。これを機に、付箋紙を貼って作品を作るなど、アーティスト活動が発展。2018年、福岡県田川市の廃校を使った乳がんの啓もう活動「おっぱい展」のアーティスト募集に出会いました。手を挙げたところ、チャンスをいただけて、教室ひとつを作品で埋めるというアート活動に取り組めたのです。おっぱい展は、数年後にニューヨークでの開催が決まり、私もニューヨークへ。「やり続けるとニューヨークに行けるチャンスを得られるんだ」と思いました。

デザイナーとアーティスト、双方やっていることで覚えてもらえるチャンスが増えますし、広がりもできます。相乗効果がかなりあると思いますね。デザインとアートの間に位置するような仕事依頼を受けることもあります。最近ですと、地元のイオンモール大牟田の出入口の巨大パネルデザインを手がけました。こうした仕事も、双方の仕事を受け、その実績を公開しているために声をかけていただけているのではないかと思います。

(Photo:CURBON)

あと、ユニークなところでいくと、ラジオ体操のライブ配信でしょうか。これも思いつきです。最初は夏休み期間に限定して、Facebookでライブ配信をしていたんです。朝にラジオ体操をすると、子どもに戻ったような気持ちになれますし、夏休みのバイトに行くときのような気軽な心持ちで仕事に向かえるのではないかなと思って。

配信頻度を平日毎朝にしたきっかけは、コロナ禍でした。在宅勤務が増え、運動不足が課題とされるなかで、平日朝9時から毎日やろうと。ラジオ体操をただやるだけではなく、最後に最近あったことや気付いたこと、新商品の紹介など、ちょっとしたこぼれ話をする時間も設けています。これが、会社の朝礼みたいな役割を担ってくれているんです。話をするためにはインプットが必要なので、日常的なインプットアウトプットの仕組みづくりにもつながっていて、かなり良いなと。

平日毎朝の配信を妻と一緒にはじめ、もう4、5年になります。毎日顔を出すことで親近感を抱いてもらえるという営業的なメリットもありますし、継続している事実から信頼してもらえる材料にもなっているのではないかと思います。自分の健康維持のためにも良い習慣です。

ちなみに、私は2級ラジオ体操指導士の資格保有者でもあります。NHKでラジオ体操を教えている方が、春と秋に地域を回って講習会をしており、それを受けると認定指導員の資格をもらえるんですよ。それを取得したうえで、筆記試験と実技試験を経てもらえる1級2級があり、2級に合格しました。ラジオ体操の歴史にも詳しくなりましたし、正しく効果的な体操の指導ができるようになったんです。ラジオ体操が2028年で100周年を迎えることを、皆さんはご存知でしたか?

(Photo:CURBON)

AIと仲良くすることを楽しみたい

今後は、AIと仲良くやっていかなければいけないなと思っています。AIがなくても10年で大きく変わってきたのに、ここにAIが加わると、加速度的に時代が変わるのではないかなと。好奇心を持って、常に新しい技術にアンテナを張っておかないといけないでしょうね。私は好きでなければやれないので、新たな技術に関心を持ち、使ってみることを好きでい続けなければとも思っています。

仕事のやり方も、AIの普及により変わってくるでしょう。最終的には、「では、どこにデザイナーが必要とされるのか」を考えていかなければ残っていけないと感じています。そうした危機感を良い意味で持つ一方、過度に不安を抱いてはいません。不安に飲み込まれにくい性格なのかなとも思いますし、ラジオ体操のような運動や、趣味のサウナがリラックスや気分転換に一役買ってくれているのかもしれません。

人間が毎日幸せに生きることを、ずっと考えていかなければという想いもあります。老後につながっていく趣味をいっぱい見つけておいたほうが、未来の自分が楽しくなりそうですよね。コロナ禍に入ってからキャンプをはじめまして、最近ではガンプラ(ガンダムのプラモデル)にオリジナルアレンジを加えることも楽しんでいます。少し前にエレキギターも買いました。まだあまり触れていないので、これから練習してもっと弾けるようになりたいです。

「人生は暇つぶし」みたいな言葉が好きなんですよ。いかに楽しく、暇をつぶして生きるかをずっと考えてやっている感じがあります。最近SNSで見かけて気に入った言葉があります。それは「ネガティブの反対はポジティブではなく没頭」。没頭することでネガティブを打ち消すことができるという考え方で、いいなと思ったんですよね。やりたいことを見つけて集中できれば、不安を乗り越えていける。これからもいろいろなことをやってみて、没頭できる自分でいたいです。

(Photo:CURBON)

ー おわりに ー

デザイナーかつアーティスト、さらに2級ラジオ体操指導士というユニークな肩書きを持ち、まるでNHKの子ども番組の出演者のようなプロフィール写真が印象的な岡村さん。新たな発想を生み出すためのインプットも、毎朝やっているラジオ体操の配信も、心から楽しいと感じられているからこそ習慣化させることができ、それがまたご自身の飛躍に一役買っているのだなと感じました。社会が変化するスピードが速いなか、漠然とした不安がある方もいるでしょう。何かに没頭することを大切に、不安に飲み込まれず歩み続けたいと感じたインタビューでした。

PROFILE

岡村しんし(おかむらしんし)
株式会社RANDOM 代表取締役
デザイナー
アーティスト
2級ラジオ体操指導士

福岡県大牟田市出身。中学から独学でダンスをはじめ、高校からフライヤーデザインなど各種デザインの仕事を開始。 有明高専機械工学科→九州デザイナー学院 グラフィックデザイン学科卒業→アパレル・雑貨販売→ガラケー時代のモバイルコンテンツ業界で制作を8年ほど→ 2011年〜株式会社RANDOMとして独立。WEB・グラフィック・動画広告など幅広くデザイン業務を行う。 弊社事業として、大牟田を盛り上げる「大牟田デザインTシャツ」をデザイン企画・運営。 アート作品制作や個展などのアーティスト活動から、2級のラジオ体操指導士として平日毎朝9時〜Instagramにて、ラジオ体操をライブ配信中!

株式会社RANDOM:https://random-product.com/

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