新庄村が目指す、地域共生社会

~thincなひと・新庄村村長 小倉博俊さん×岡山県 新庄村~

古くは出雲街道の宿場町「新庄宿」として栄え、毛無山を主峰とする1000メートル級の美しい連山に囲まれた新庄村は、岡山県の西北端に位置する、人口約800人、370世帯の小さな村です。 1990年より30年近くに渡って村長を務めてきた小倉博俊(おぐらひろとし)さんに、特別編として新庄村が取り組む村づくりについて、より詳しいお話を伺いました。

村民が最期まで
幸せに暮らせる村づくり

私が村長に就任した当初から、福祉や医療、教育や文化をひとつ屋根の下で取り組んできました。それぞれの施策には個別の名称があるものの、大きな枠組みとしては「自主自立のための村づくり」と、ひとくくりにできます。

たとえば、健康づくりに関する取り組みもそのひとつです。新庄村では、単なる健康づくりではなく、地域共生社会のモデルづくりに力を入れており、地域包括ケアシステムの構築に取り組んでまいりました。

私が目指してきたのは、子どもから高齢者、そして障がいのある方も含めて誰もが安心して暮らせる、新庄村が終の棲家になるような福祉の村づくりです。最期まで健康で長生きし、幸福感を持った人生を送っていただきたい。その想いは今も変わらず、今後はより一層、その充実を目指していくつもりです。

では、よく言われる「地域共生社会」とは何なのか。私は悩んだり困ったりしたときに助け合う関係だけではなく、喜んだり笑ったりも互いにし合えるような関係が築かれている村こそが、真の地域共生といえるのではないかと思っています。

その実現に向け、今考えているのは、福祉施設の在り方です。就任当初に整備した福祉施設も、建設から30年近くが経ち、だいぶ古びてきましたし、その他、新庄村には昭和中頃につくられた保育園や公民館など、老朽化が課題となっている施設が数多くあります。

従来であれば、老朽化した施設は取り壊し、建て直すのが一般的でした。しかし、人口減少時代を考えると、同じ数の施設を建て直す必要はないと考えています。むしろ、小さな村では、点在する施設が古びてきたタイミングで、これまでのように漠然と「古びたから立て直す・修繕する」という選択をするのではなく、シュリンクやダウンサイジングを含めたベストな手法を検討した上で、効率的に運営ができる福祉・文化・教育を融合させた総合的な施設にすることが賢いやり方ではないかと思っています。施設の手入れもしやすくなり、管理の負担も減らせますしね。今は、そうした取り組みに向かって検討委員会を立ち上げ、次の施設づくりに向け議論を進めている真っ最中です。

「健康は健康、福祉は福祉」と縦割りで考えるのではなく、それらが複合的に満たされ、村民が交流しながら生きがいを感じられる施設づくりが目標です。そうした施設ができれば、フレイル(虚弱)やロコモティブシンドローム(運動機能低下)の防止や軽減を含めた健康長寿のむらづくりの取り組みもしやすくなるでしょう。

現状、そうした施設が全国的にもないのは、行政の所管が省庁ごとに別れているからなんです。健康面は厚生労働省、幼稚園は文部科学省、高齢者住宅は国土交通省といったように、対応する省庁がバラバラなんですよ。その壁を取っ払うことで、これからの時代にふさわしい場所が作れると思っています。地域に必要な施設は、合理的で効率的な施設であり、それが地域住民に喜んでもらえるものであるはずです。こうした地域生活における殿堂を作りたい、モデルづくりに挑戦したいと思い、制度の設計を進めています。小さな村ではありますが、その挑戦が全国のモデルづくりの礎になるかもしれません。

(Photo:CURBON)

官民連携により
挑戦し続けられる村に

新庄村は、自治体だけでがんばるのではなく、官民連携により持続可能なマチづくりを進めてまいりました。国も、石破首相をはじめ、地域創生の取り組みのなかで、「官民連携をしっかりやろう」と支援の姿勢を示していますが、私は国が言い出す10年ほど前から官民連携の重要性を感じており、一般社団法人むらづくり新庄村という組織を立ち上げました。

行政がすべてを抱え込むには限界があります。地方分権とはいいながらも、国から降りてくる仕事に対して十分な財源があるわけではなく、日々の業務に追われがちなのが現状で、未来に向けたクリエイティブな取り組みを進める余裕がないのが実情です。

むらづくり新庄村では、行政だけでは手が届かない分野を柔軟に担ってもらっています。宿泊施設の運営や子どもへのクリエイティブな教育の場、テレワーク教室での人材育成など、今もいろいろな取り組みを展開しています。官民連携の走りとなる取り組みだったといえるでしょう。時代が変化していくなか、先々を考えると人材の確保が急務ですが、新庄村の職員数には限りがあり、どうしても増えていく仕事量に忙殺されてしまいます。だからこそ、むらづくり新庄村と連携しながら、独自のクリエイティブな取り組みや、新たな事業開拓に挑戦をしているのです。

DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務改善の支援やふるさと納税制度の活用など、国の制度も上手く取り入れながら、連携により成果を上げてきています。農業分野においても法人を設立し、新たな取り組みも成果が出てきています。時代を見越して、今の時代に合った課題解決を図っていくことは、今後ますます重要になるのではないでしょうか。

(Photo:CURBON)

ー おわりに ー

「健康づくり」「地域共生社会」「官民連携」など、名称にするとさまざまな取り組みがありますが、小倉村長の言葉通り、その根底にあるのは村が未来まで生き残り、村民が幸せに暮らせるための村づくりをしたいという想いだと感じるお話でした。伝統や歴史は大切にしつつ、恐れず変革に挑んでいく。新庄村の挑戦は、これからも続いていきます。

PROFILE

小倉博俊(おぐらひろとし)
新庄村村長

1948(昭和23)年、岡山県 新庄村生まれ。福岡大学卒。大学生の頃、アルバイトとして関わったことから政治の世界に興味を持つ。大学卒業後に上京、大村襄治衆議院議員(第39代 防衛庁長官)の秘書を務める。1990(平成2)年に42歳で新庄村長となり、以後4期連続16年務める。2014(平成26)年に再選、2022(令和4)年の選挙でも選出され、再選後3期連続、現在通算7期目の任期を務める。

【主な役職】
岡山県町村会           会長
全国山村振興連盟         理事
岡山県市町村振興協会       理事
岡山県後期高齢者医療広域連合   理事
岡山県市町村職員共済組合     監事
日本赤十字岡山県支部       評議員
一般社団法人岡山中央総合情報公社 理事
新庄村社会福祉協議会       会長
真庭森林組合           理事

新庄村役場:http://www.vill.shinjo.okayama.jp/

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