地元が誇れるバスケチームへ
<無名クラブの大飛躍>

〜thincなひと・アルティーリ千葉 新居佳英さん × 千葉県千葉市〜

一見するとスポーツクラブのものとは思えない、スタイリッシュなブラックネイビーのTシャツやユニフォームに身を包んだ人々が、マチを行き交い、飲食店で楽しげに語り合う――。千葉県千葉市をホームタウンとするプロバスケットボールクラブ「アルティーリ千葉」の試合後、マチのあちこちで見られる風景です。

新居佳英(あらいよしひで)さんが代表取締役CEOを務める株式会社アルティーリが運営するアルティーリ千葉が目指したのは、単なるプロスポーツクラブではなく、地域活性化につなげられるブランドづくりだといいます。2020年に創設されたクラブの歩み、クリエイティブな取り組みがどうクラブ運営に寄与しているのか、取り組みについてお聞きしました。

※アルティーリ千葉について
2020年に株式会社アトラエ(代表取締役CEOに新居佳英氏)が創設。2024年には一部株式の譲渡によりアトラエの連結対象から外れ、現在は株式会社アルティーリがプロバスケットボールクラブ「アルティーリ千葉」の企画・運営を担っている。

世界中のファンを魅了する
ブランド力のあるクラブ創り

アルティーリ千葉のビジョンは「世界中のファンを魅了するクラブを創る」です。このビジョンは、私が代表を務め、アルティーリ千葉を創設した株式会社アトラエの「世界中の人々の生きがいや働きがいを創出する存在になりたい」という想いから生まれたものです。むしろ、アルティーリ千葉は、その想いの一環として立ち上げたクラブと言っても過言ではありません。世界中の方々に活力を届けられるようなスポーツクラブにしていきたいというのが、クラブ立ち上げ時から変わらない私の想いです。そのために、スポーツクラブに求められるものは何なのか。私が重要視しているのは、ファンとして誇りを持てるということです。

誇りに思ってもらうためには強いことはもちろん、「かっこいい!」「イケてる!」と思ってもらえることが大切でしょう。ただ、これまでのスポーツクラブは、かっこよさよりも親しみやすさを大切にし、カジュアルな雰囲気を打ち出すケースが多かったように感じます。

もちろん、親しみやすさも素敵ではあるのですが、アルティーリ千葉が挑みたかったことは、ブランドづくりです。クラブのファンだけではなく、地域の人たちにとっても誇らしいブランドにしたいなと。ブランドとは、約束や信用だと考えています。アルティーリブランドを、スポーツだけに留まらず多様な分野にも広げることで、地域の活性化にもつなげられる。多くの方に価値を感じてもらい、利用していただける存在になっていきたいというのが立ち上げ時に掲げたビジョンなのです。

(Photo:Hajime Kino)

2年目で平均入場者数トップに

アルティーリ千葉の創設は2020年。5年目となる今では、多くのファンの方が試合に足を運んでくださるクラブに成長しました。

もちろん、最初から大盛況だったわけではありません。新規クラブは、プロバスケットボールのトップリーグであるB.LEAGUEの3部リーグであるB3リーグからスタートします。サッカーのJ1、J2のように、バスケットボールリーグもB3、B2、B1とリーグが分かれているのです。B3リーグの試合に足を運んでくださる方は、主にチームの関係者や熱心なバスケットボールファンが中心です。特に新規クラブの試合となると、まだ地域やファンの皆さまに広く知られていないため、より集客が難しくなります。

そこで当時行ったのが、観戦を完全無料にすること。とにもかくにも、まずは来ていただかないことにははじまらないわけですから、試合観戦を無料にすることで少しでも来場のハードルを下げようと思ったのです。その際に大切なのは、来てもらった方々に「バスケの試合っておもしろいじゃん!」「アルティーリ千葉、かっこいい!また来たい!」「楽しかった!」と思っていただけるだけの魅力ある興行を行うこと。試合前やタイムアウトの演出はもちろんのこと、会場内の空間づくりといったクリエイティブにも徹底的にこだわりました。

短期的な売上を追い求めるのではなく、4年、5年といった中長期スパンのなかでファン数の最大化を実現し、Bリーグの中でもトップレベルの人気チームになることを目標に取り組んできました。数字の面でこだわったのは、売上よりも来場者のリピート率ですね。そこを強く意識しながら、徹底的に泥臭く多くの人に足を運んでもらえるように努力したことが、今の集客力につながっているのだと思います。参入2年目にはB2に昇格。そのときには、すでにB2のクラブでもトップレベルの入場者数を記録するまでに成長していました。その辺りから、自分たちの取り組みが間違っていなかったと確信を持ちはじめました。

(提供:ALTIRI CHIBA)

目指す「ブランド像」を大事に
グッズ・演出にこだわり抜いた

クラブ立ち上げ時より千葉県に縁のある3名のプロフェッショナルなクリエイターにご参画いただき、知恵を出し合ってクラブに関するクリエイティブを練り上げてきました。先ほどお話した試合会場の演出だけではなく、クラブ名やユニフォーム、クラブカラー、グッズなど、あらゆるものをブランディング視点で考え、つくっています。

たとえば、クラブカラーであるブラックネイビーは、クールで強い印象を抱く色であるとして選びました。また、ブランディングの方向性を明確にするため、マスコットキャラクターをあえて持たないという判断をしています。もちろんファンとの架け橋としての役割を持つ、彼らの存在意義についても理解しています。その上で、将来的なアパレル展開なども含め、アルティーリ千葉らしいブランドづくりを大切にしていきたいと考えています。

このように前例にとらわれないことも、ブランドづくりにおいて重要だと思っています。千葉県にゆかりのあるお香のスペシャリストの方と組んでルームフレグランスを製作し販売するなど、他のスポーツチームではやっていないような斬新な取り組みを行っているのも、アルティーリ千葉ならではでしょう。身に着けた時、誇らしく感じていただけるようなグッズを提供したいという想いから、まるでアパレルブランドのようなデザインにし、素材にも妥協しませんでした。原価が高いため価格は多少上がりますが、高品質なスポーツウエアとして何年もご愛用いただけるものに仕上がっています。

今、私が身に着けているのは、1年目から着倒しているものなのですが、ご覧の通り今も買ったままのような質感を保っているんですよ。地元の小学校の運動会で、保護者の方がアルティーリ千葉のTシャツを着ていらっしゃったり、少し前には「選挙に行ったら、アルティーリ千葉のTシャツを着ている人がいた!」という投稿をSNSで見たりもしました。うれしかったですね。

(Photo:Hajime Kino)

試合会場に掲げるスポンサー広告は、すべてブランドカラーであるブラックネイビーに白地のみというこだわりもあります。さらに、ユニフォームについても、紺地に白文字、そして横文字のみというルールも設けました。たとえば「千葉市」さんは「CHIBA CITY」にしていただくといった具合ですね。企業のブランドカラーではなく、アルティーリ千葉のブランドカラーに合わせていただくお願いには、さすがに当初は戸惑いの声もありました。それでも、「結果的には皆さんのためになるはずです」とお粘り強く伝え、折れずにこだわり抜いた結果、今では「かっこいい」と喜んでいただけるようになりました。

ファンが誇りに思えるかっこいいチームづくりという観点でいうと、人に関するところにもこだわりがあります。それは「チームで勝つ」というチーム視点から人を選ぶことです。アルティーリ千葉は、強い個で勝つチームではなく、全員で勝つチームなんですよね。オーストラリアから招いたヘッドコーチは、「ひとりで25点取れる選手は、必要ない。アルティーリ千葉は、全員で100点を取るチームなんだ」と言います。この想いはヘッドコーチだけのものではなく、私も同様に持っているものです。個の能力ではなく「全員で勝つ」というスタイルは、アルティーリ千葉の特徴かもしれません。

プロ選手として高い能力を持つのはもちろんのこと、人柄の魅力も兼ね備えた人材を集めることを意識してきました。また、スタッフ含めチームメンバーの入れ替えが少ないことも特色です。だからこそ、特定の選手だけではなく、コーチやチームスタッフを含めたクラブ全体を応援してくださる「箱推し」ファンが生まれているのだと思います。

チームの理想としてイメージしているのは、マンガ「スラムダンク」の湘北高校のバスケットボール部なんですよ。実はアトラエも、湘北高校男子バスケットボール部のようなチーム(組織)を目指して設立した会社なんです。創業時にホームページに記載したのは、「エリート集団ではないかもしれないけれど、チームで戦えばエリート集団にさえも勝るパフォーマンスを出す。そういうチームをビジネスの世界でもつくりたい」。その想いは変わらず、満を持して次は本当にバスケットチームとして目指そうとつくったのが、アルティーリ千葉なんです。

これは余談になりますが、アルティーリ千葉のユニフォームを作ってくださっているのは、スラムダンクを一時スポンサードしていたDESCENT(デサント)なんですよ。今はバスケットボールラインを一切やられていないのですが、どうしてもお願いしたくて社長に直談判した結果、受けていただくことができました。おそらく、世界のバスケットボールクラブで、アルティーリ千葉が唯一デサントのユニフォームを使っているはずです。本当にありがたい限りです。

(Photo:Hajime Kino)

このように、多くのこだわりのもとで、内面も外面もカッコよく、魅力的なチームをつくり上げてきました。チームとしての強固な団結力をもとに、高いパフォーマンスを発揮することで、応援してくださるファンも少しずつ増えていきました。その結果、良い循環が生まれ、「アルティーリ千葉」というブランドが少しずつ形づくられてきているという実感があります。

創設当時から、クラブのアイデンティティを地域に浸透させる取り組みとして、モノレールやバスをジャックしたことがあります。全ての広告をクラブのシンボルマークや、"THE GREAT HISTORY BEGINS."のメッセージのみで制作したのですが、当時は認知が低かったため、地域住民の方には「これ何のマーク?」などと思われていました(笑)。バスケットボールとも書いていなかったですからね。それが今では、「朝からアルティーリ千葉仕様のモノレールに乗れて気分最高!」「アルティーリ千葉仕様のバスを見かけてテンションMAX!」といった具合に、SNSに投稿してくださる方が出てきました。商店街や千葉市内の多くの飲食店でもポスターを貼らせていただいていますし、加盟店として応援してくださっている店舗もかなり増えました。街中が応援してくださっていると思えて、本当に心強いですね。アルティーリ千葉のポスターなどを見て元気になってくださっている方を見ると、多くの方の働きがいや活力につなげたいという、我々が成し遂げたいことに近づけている感覚がしてうれしいです。

(提供:ALTIRI CHIBA)

ー おわりに ー

既存のバスケットボールファンだけではなく、アルティーリ千葉が誕生したことで、新たなバスケットボールファンも獲得しているという新居さん。取材を行ったのは、2024-25シーズンの閉幕から少し時間が経ち、10月に開幕する2025-26シーズンに向けて準備を進めている時期でした。後編「アルティーリ千葉の新挑戦」では、そんな新シーズンに向けての意気込み、「アルティーリ千葉」というブランドが目指す未来について伺います。

PROFILE

新居佳英(あらいよしひで)
株式会社アルティーリ 代表取締役CEO
株式会社アトラエ 代表取締役CEO

1974年生まれ、東京都出身。上智大学理工学部卒業後、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。人材紹介事業部の立ち上げ、関連会社の代表取締役、本社で200人以上を率いる事業責任者を経験したのち、2003年株式会社アトラエを創業。IT/Web業界に強い成功報酬型の求人メディア『Green』の運営をはじめ、組織力向上プラットフォーム『Wevox』、ビジネス版マッチングアプリ『Yenta』などテック領域の新事業を次々と立ち上げ、2016年6月にマザーズ上場、2018年6月に東証一部への市場変更を果たす。2020年にはプロバスケットボールクラブ『アルティーリ千葉』を設立しSports Tech事業にも進出。共著書に『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(英治出版)がある。

株式会社アルティーリ:https://altiri.jp/
株式会社アトラエ:https://atrae.co.jp/

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