仕事も家庭も分業の良さを活かす、夫婦クリエイターのリアル

~thincなひと・近藤智美さん・一宏さん×鳥取県境港市~

鳥取県境港市を拠点に、ご夫婦でクリエイターとして活動している近藤智美(こんどうともみ)さん、一宏(かずひろ)さん。智美さんがWebデザインを、一宏さんがコーディングを担当し、制作領域を夫婦で網羅できるところが強みです。

お二人がフリーランスクリエイターとして働くことになったきっかけ、夫婦で働く良さや難しさなど、リアルなお話をたっぷり伺いました。

会社員からフリーランスに転身。
異業種からクリエイターへ

お二人は、そもそもなぜフリーランスクリエイターとして仕事をするに至ったのでしょうか。ご経歴からお聞きしました。

Q.お二人のご経歴と、フリーランスクリエイターになられた経緯についてお聞かせください。

智美:私は高校卒業後、とある学生服メーカーの事務員として3年ほど働いていました。その会社を退職した際、ちょうどお隣の米子市にある高等技術専門校にデザイン科ができると知り、受けてみようと思ったんです。思い返せば、中学時代に先生に頼まれて毎号学級通信のタイトルデザインをしたり、吹奏楽部のポスターを制作したり、高校生の時には、創立記念誌の挿絵をデザインしたりと、デザイン関係のことをするのが好きだったんですよね。当時はデザインの仕事をしたいとまでは思っていませんでしたが……。この専門学校でグラフィックを学び、卒業後にデザイン会社に就職しました。

智美さんが学生時代に描いた創立記念誌の挿絵。
(Photo:Sho Nishida)

フリーランスになったのは28歳のころ。5年ほど勤めていたデザイン会社の社長が亡くなられたことを機に、そこの仕事を引き継ぎながらフリーになったという経緯でした。そこからは、広告代理店さんから仕事をいただいたり、知人やクライアントからの紹介で新たな仕事のご縁をいただいたりしながら、フリーランスデザイナーとしての道を広げてきました。

デザイナーになった当初は紙媒体の仕事が中心でしたが、趣味でアイドルのファンサイトを作っていたことがあり、「Webの仕事もできる?」と聞かれたときに「本格的にやったことはないけど、できる」と答えたんですよね。そこから独学でWebデザインの知識を増やし、できる仕事の幅を広げていきました。

今の仕事はほぼWebですから、このときに軸足を移せるきっかけを得られていて良かったなと。一時期、仕事が少なくなった時期もありましたが、おおむね順調に進んでこられたと思っています。

一宏:私も妻と同じで、最初の仕事は高校卒業後に入った運送会社の事務員と、クリエイティブ職ではないものでした。30歳前後で会社を辞めたときには、すでにフリーランスデザイナーとして仕事をしていた妻と結婚していたので、「自分もそういう関係の仕事ができれば良いな」と思ったんですよね。休職中に独学でホームページ制作の勉強をし、地元のWeb関係の会社に採用していただくことができました。

(Photo:Sho Nishida)

Q.フリーランスという働き方を志したわけではなかったのですね。

一宏:そうですね。フリーランスになることは考えてすらいなかったです。私が入社したのは、社長が東京で立ち上げたWeb制作会社で、拠点を境港に移したばかりの小さな会社でした。社員は社長とデザイナーと私の3人。私とデザイナーは同時期に採用されたのですが、これまでの経験や適性を見て私はホームページ制作やコーディングを担当することになったのだと思います。そのため、職種については自分で選んだというより、社長から言われたからというのが本当のところなんです。フリーランスを目指すようになったのは、働きだして何年か経ってからでしたね。

Q.プライベートなお話になりますが、そもそもお二人はどういったきっかけで出会われたのでしょうか。

智美:きっかけは、お互いに高校時代から続けてきたバンド活動ですね。出会ったのはライブなんです。

一宏:お互い別のバンドに所属をしていまして、私はギターを、妻はドラムを担当していました。私は今もバンド活動を続けていて、現在はベースを演奏しています。

智美:ただ、学生服メーカーの事務員として勤めていた時代にも接点があったんですよ。会社が、夫の勤め先だった運送会社を使っていたので、どこかで名前くらい見かけていた可能性もあったんじゃないかなと(笑)。

Q.すごい、ご縁ですね。一宏さんがフリーランスになりたいと話されたときから、ご夫婦で仕事をする構想があったのでしょうか。

一宏:そうですね。所属先の会社ではコーディングやプログラミングを担当していたこともあり、妻が受けていた案件では、仕事の一部を分担する形で私が休日に作業するということもやっていました。そのため、そういう形がとれるのではと思っていました。ただ、最初はいい顔をしなかったですね。 

智美:フリーランスは不安定ですから、夫婦そろってフリーランスになるのはちょっとどうなのかと思ったんですよ。会社員だと月給があり、社会保険などもありますから。

一宏:その気持ちもわかりますが、当時は色々な思いもあり、会社を辞める決断をして独立することにしました。

Q.すでに夫婦共同で仕事をすることがあったということなので、ビジネスパートナーとしての不安はなかったのでしょうか。

智美:そうですね。周りからは「1日中、夫婦で一緒にいて平気なの?」と驚かれることがありますが、そこは特に懸念点ではなかったですし、実際に今も気にならないです。

(Photo:Sho Nishida)

環境の良さが地元の魅力。
人の縁から仕事を受託

鳥取県のご出身で、現在も鳥取県でお仕事をされているお二人。地元で働く理由、良さについて、どう感じていらっしゃるのでしょうか。

Q.お二人が鳥取県で暮らし、働き続ける理由は何でしょうか。

智美:そもそもの話として、都会に行ってみたいという願望や憧れがあまりないんです。最初の会社が米子市内の会社だったこともあるのか、地元で、地元のために働きたい想いが強くて。人好きではありますが、人が多いところは好きじゃないんです。今は鳥取にいながらでも東京の仕事を受けやすくなったため、東京からの仕事も増えましたが、東京に出ていきたいと思ったことは一切ないですね。つながりを大切にしたいと思っています。

一宏:私も妻と同様で、都会への憧れは特になく、地元を出ようと思ったこともなかったです。生まれ育ったところで、そのまま暮らして働いている感じですね。

Q.お二人が思う、鳥取県の好きなところ、魅力についても伺いたいです。

智美:のんびりした雰囲気、海がすぐそこにあり、大山(だいせん)という中国地方で1番大きい山が近くあることかな。海や星がきれいと言われていたり、田舎らしい良さがあるところが魅力だと思います。

一宏:海が近いので、海鮮好きの私にとっては新鮮でおいしい魚介類を手ごろな値段で買えるのが鳥取県の魅力のひとつですね。ちょうど今の時期は白いかの旬なんです。友人と島根県まで泳ぎに行ったり、船で島まで渡ってみたり、海のレジャーも気軽に楽しめます。

智美:山のレジャーも楽しいですよ。私はスキーが好きで、会社員時代には会社帰りにナイターでスキーに行っていました。

(Photo:Sho Nishida)

Q.そんな鳥取県でフリーランスとして働くなかで良かったこと、逆に困ったことがあればお聞きしたいです。

智美:県内の仕事量は決して多いとはいえないと思います。ただ、人とのつながりが強い地域なので、縁が縁を呼んで仕事につながるのは、この土地ならではの良さだと感じています。だからこそ、長く続けてこられているのかなと。

一宏:私は、鳥取県だからどうこうといったことはあまりないのかなと思います。フリーランスになって夫婦で一緒に活動をはじめ、しばらく経ったタイミングでクリエイターズマッチさんから仕事をいただけるようになりました。妻も「割と順調」と言っていましたが、私も仕事がなくて困ったことはありがたいことにほぼないですね。

智美:クリエイターズマッチさんとの出会いは大きかったですね。きっかけは、デジタルハリウッドスタジオ米子のトレーナーを務めたことでした。仕事の関係でとある漫画家さんの事務所を訪ねたとき、古い友人でデジタルハリウッドスタジオ米子の関係者に再会しまして。そこからトレーナーをすることになったのですが、それがクリエイターズマッチさんとの出会いにつながりました。

今は仕事の8~9割がクリエイターズマッチさんからのものですね。業種は多岐にわたっていて、生命保険会社から自動車メーカー、アパレルなど、大手企業の案件に携わっています。残りが、先ほどお話した地元の方からの依頼という感じです。営業はしたことがないんですよ。ありがたいことだと思います。

Q.ご縁が次のご縁につながっていくのは、信頼を得られているからだと思います。何か意識されていることはありますか?

智美:当たり前のことではありますが、丁寧に、真剣に、手を抜かずに100%やり抜くこと。言われていなくても気付いたことであればやっておくなど、常に全力で向かうようにしています。

Q.身近にクリエイター仲間はいらっしゃるのでしょうか。お関わりはありますか?

智美:少ないですがいることはいます。以前は仕事のやり取りがありましたが、最近は自分のところで完結させてしまうことが多いですね。人に頼むことには難しさがありますし、説明しなければならないのが大変で。クリエイター仲間から仕事がくるというよりは、地元で仕事をした成果物を見た方が、「このデザインをした方は誰?」と問い合わせ、そこから新たな仕事につながるケースが多いですね。

たとえば、新聞に出していた広告の猫のイラストを気に入ってくださったガーデニングショップさんから仕事の依頼をいただき、ホームページや名刺、商品ラベルの仕事を任せていただいたことがありました。すると、ガーデニングショップのお客さんである病院の院長夫人がそれらを気に入って下さり、次は病院のホームページやオープンガーデンのチラシづくりを任されることに。院長の娘さんの知人、そのまた知人の方といった具合に、数珠つなぎで仕事が増えていきました。直接誰かから紹介を受けることもありますが、このように仕事が仕事を呼んでくることが多いです。

夫婦喧嘩をしても、並んで働く。
仕事も人生も楽しみたい

最後は、夫婦で働くリアル、これからの展望についてお話を伺いました。

Q.今のお仕事環境について教えてください。

智美:自宅の同じ部屋で、私が独立したときに特注で作ってもらった大きな机で隣り合って仕事をしています。独立当時はプリンターやスキャナーが必要で、パソコンも大きかったのですが、今はそれほどスペースを取らなくなったので、ふたりで並べる余裕があるなと思って。もちろん別の部屋で作業するという選択肢もありますが、部屋が同じほうが、電気代も節約になりますからね(笑)。

(Photo:Sho Nishida)

Q.ご自宅で仕事をされているということで、具体的にどういう生活を送られているのでしょうか。

智美:私のほうが早く仕事部屋に来て、夜も遅くまでやっている感じですね。夜中もこの部屋にいて仕事していることがあります。

一宏:会社務めが長かったからかもしれませんが、私のほうが繁忙期以外は割と時間をしっかりと決めて、オンオフを区切っている感じですね。妻はフリーが長いので、そこは働き方にも違いが出てくるところなのかもしれません。

智美:子供がいるので、朝夜は家族全員で、昼は夫婦で一緒に食事をとるようにしています。お昼ご飯は夫が作ってくれるんですよ。子どもの送り迎えも、仕事の状況次第で夫に頼むことがあります。

Q.夫婦そろって同じ部屋で毎日仕事をする良さ、大変さについてはいかがですか?

一宏:業務が違うので、仕事面で言い合いになることはないです。デザインに関して不明な点があれば、隣にいる妻にすぐ聞けるのは、同じ部屋で仕事をする良さかなと思います。

智美:夫と同じく、仕事に関しては分担がきっちりされているので、特にやりづらさや不満はありません。難点だなと思うのは、夫婦喧嘩の後でも並んで仕事をしなければならないこと(笑)。口を利きたくなくても、仕事の話はしなければなりませんから、プライベートの問題を上手く切り離さないといけないんですよ。

あとは、夫婦間で交わされるような、ニュアンスで成り立つ会話をそのまま仕事の会話に持ってくることに注意しなければならないと思っています。雑談なら順序だてて話さなくとも伝わりますが、仕事の話だと食い違ってしまうおそれがあるので。

一宏:そうですね。そこは確かに気を付けているかもしれません。

智美:分業体制になる前は、私も一通りのコーディング経験があり、デジタルハリウッドスタジオ米子でも教えていたため、夫にとって困ることが何かを理解したうえでデザインできるのは、私の強みなのかなと思いますね。

(Photo:Sho Nishida)

Q.気分転換はどうされていますか?

智美:仕事がとにかく好きなので、気分転換したいと強く思うことがないです。何もなくても、ほぼパソコンの前にいて、仕事をしているか、パソコンでマンガを読んでいるかという感じですね。

一宏:バンド活動、楽器の演奏、あとはアニメを見たりなんかしています。あとは運動。

智美:最近は暑いので控えているのですが、朝に2人でウォーキングをするようにしています。夫は家でも運動をしていて偉いんですよ。

一宏:エアロバイクや、運動するゲームソフトを使って、体を動かすようにしています。

Q.お二人の今後の展望について伺いたいです。

智美:今のような環境で仕事を続けていけることが1番だと思っています。幸い、知人などの縁で安定的に仕事ができているので、これからもご縁を大切に、安定して仕事がある状態を維持できればいいなと。自分が目立つよりも、縁の下の力持ちとしてクライアントさんの気持ちに応えられるよう、丁寧な仕事を心がけていきたいですね。

プライベートでは、子どもの手が離れたらスポーツカーを買って運転したいなという夢があります。車が好きなんですよ。今はファミリーカーなので、子どもが成長した暁に実現できたらなと思いますね。

一宏:私も妻と同じく、仕事に関して新たな野望は特になく、新しい技術についていけるよう、努力を続けたいと思っています。コーディングの仕事でも、いろいろと要望が増えてきたので、応えられるだけの力を付けていきたいなと。

加えて、50代半ばになろうとしているので、人生を楽しむことにも尽力していきたいと思っています。パソコンとネット環境があれば場所を選ばず仕事ができるので、旅行をしながら仕事をするなんてこともできるな、とか。具体的に「ここに行きたい」という想いがあるわけではないのですが、「そういう働き方もいいな」と漠然と思っています。

(Photo:Sho Nishida)

ー おわりに ー

「目立つのが好きではなく、縁の下の力持ちでありたい」「野望はなく、クライアントの要望に応え続けられるよう努力を続けたい」と、ご夫婦そろって謙虚な印象だった智美さん、一宏さん。お互いの仕事へのリスペクトがあり、上手く分業できているからこそ、「夫婦フリーランス」の強みを最大限に発揮できているのでしょう。目立とうとせずとも、ひとつひとつの仕事に丁寧に向き合うことが信頼となり、途切れずにフリーランスとして仕事を続けられる基盤になっているのだと感じました。気負いのない自然体な雰囲気も魅力的なおふたりです。

PROFILE

近藤智美(こんどうともみ)

鳥取県境港市出身。米子市のデザイン会社勤務を経て、28歳でフリーランスに。2013年から株式会社クリエイターズマッチのパートナークリエイター。現在は境港市の自宅事務所でグラフィックとWEBを中心としたデザイナーとして活動中。元デジタルハリウッドスタジオ米子WEBトレーナー(2013年〜2017年12月)。株式会社クリエイターズマッチが主催する「CREATORS MATCH AWARD」にて、2019年度・2021年度にMost Valuable Creator賞を受賞。

近藤一宏(こんどうかずひろ)

鳥取県米子市出身。31歳で異業種からWEB業界へ転職。主にコーディング、WordPressによるサイト構築、PHPとMySQLによるシステム開発に従事。45歳でフリーランスへ転向し、以後夫婦でWEBサイトや各種印刷物の制作業務等に携わる。

Temple Graphics:https://templegraphics.com/

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