株式会社UPay 代表取締役CEOの上官ゆい(じょうかんゆい)さんは、 経験ゼロからアパレルショップを引き継ぎ、飲食事業への進出。事業の幅を少しずつ広げていくなかで、次の挑戦へと進みます。それが、現在の主軸事業となっている「米ストロー」の開発でした。その大きな転換点には、コロナ禍のある出来事が深く関わっています。
中国で見た「大量の紙ストロー」
コロナ禍の最中、私は子どもと一緒に夫の実家がある中国に滞在していました。実家は紙箱や紙袋などを製造する工場を営んでおり、その頃、紙ストローの開発にも取り組んでいたのです。工場には紙ストローが山のように積まれていて、最初は「紙ストローの時代が来るんだ」と思いました。ところが、よく聞いてみると、それはすべて返品されたものでした。紙ストローは使っているとすぐに柔らかくなり、飲み物の味にも影響が出てしまう。その使い心地にクレームが入り、多くが返されてきてしまったのです。私自身も試してみましたが、正直あまり良いとは思えません。脱プラスチックの流れは大切です。でも、環境のための製品が「使いたくないもの」になってしまっている現状に、大きな違和感を覚えました。
「米でも作れるのでは?」という発想
では、どうすればいいのか。紙ストローをプラスチックでコーティングして強度を増す方法も検討されていましたが、それでは本来の脱プラスチックの目的と矛盾してしまいます。素材そのものを変えるしかない。そう考えていたとき、以前ニュースで見たパスタストローを思い出しました。「パスタがストローになるなら、主食である米でも作れるのでは?」この発想が、米ストロー開発のスタートでした。

試作110回以上、
気が遠くなるような日々
サトウキビや竹などの素材でも試作を重ねましたが成形が難しく、本格的に米ストローの開発をはじめました。しかし、これが想像以上に難しかったのです。乾燥させる途中で曲がってしまう。表面がざらつく。飲み物に入れると割れてしまう。溶けてしまう。最初は実用に耐えない試作品ばかりでした。開発チームとは時折衝突しながらも何度も試作を重ね、配合や乾燥時間を調整しながら、改良を続けました。試作の回数は、110回以上。中国語も十分に話せるわけではなく、文化や価値観の違いもあり、現地の開発チームとの衝突も避けては通れません。それでも、どうしても諦めたくない理由がありました。
子どもたちに
安心なものを使わせたい
当時、私は母親になっていました。プラスチックストローは軽くて便利ですが、その軽さからリサイクルが難しく、ほとんどがゴミとして処理されてしまいます。さらに、PFAS(有機フッ素化合物)と呼ばれる体内に蓄積される合成化学物質の問題もあります。だからこそ、子どもたちが安心して使えるストローを作りたい。その想いが、開発を続ける大きな原動力になりました。
「可愛いから使う」エコがあってもいい
試作を繰り返し、ようやく完成した米ストローを見たとき、最初に思ったのは「めっちゃ可愛い!」でした。米ストローは、ピンクやオレンジなど、食品由来の着色料で彩られています。従来のエコ製品は「環境にいいから使う」というものが多い。でも私は、「可愛いから使う」そんな選択があっていいと思うのです。可愛いものは自然と人に広がります。 その結果として、環境に良い選択が広がるなら、それが一番望ましい形ではないでしょうか。

資源の循環ができるストロー
また、米ストローをはじめとする米製品は、使ったあとは土に還すことができるので、地域で使われていない米をストローやカトラリーに変え、地域で使い、地域の土に戻すという新たな循環をつくれるのです。使い捨てストローなどの代替品として導入していただいたり、パッケージに入れてノベルティとして配布していただいたりと、使い方はいろいろあります。知らぬ間に使われているような存在になればいいですよね。「あれ、これ米でできているんだ」と気付いたところから、米やプラスチックの問題に想いを馳せてもらえればいいなと。ただ、まだまだ量産体制が不十分なこともあり、既存のプラ製品よりコストがかかるのが現状です。企業に導入してもらうにはコスト問題は切り離せません。その分の付加価値を提供できる製品に研いでいきたいと思っています。
次なる挑戦は「米スプーン」
米ストローの次に取り組んだのが、お米でつくるスプーンの開発です。ストローに比べ、カトラリーは日常的に使う場面がさらに多いはず。形を変えて、より身近なところでサステナブルな選択肢を増やしたいと考えたのです。現在、使い捨てスプーンの多くはプラスチックや木製ですが、そのほとんどが輸入品に頼っています。もしもお米でスプーンが作れれば、完全な「地産地消」が叶う。そう確信してはいたものの、開発には大きな壁がありました。冷たい飲み物にしか使わないストローに対し、スプーンには温かい食事にも耐えうる「耐熱性」が求められるためです。
そんな折、福岡県先進的プラスチック代替製品開発支援事業に採択されたことで米スプーンの開発により注力できるようになり、完成することができました。弊社の商品は「脱プラの製品」とプロダクトがわかりやすいこともあり、市長をはじめ、自治体の方たちからも熱い応援をいただけることが多く、ありがたいなと思っています。
子どもたちが希望を持てる社会に
私は事業だけでなく、子どもたちやお母さんたちに向けた活動も続けています。特に問題意識を持っているのが、小中高生の自殺の多さです。子どもたちは、なぜ命を絶ってしまうのか。私は、「大人に希望を見出せないから」ではないかと思っています。「こうなりたい」と思える大人。「この人になら話すことができる」「こういう生き方があるんだ」と希望を見せてくれる大人。そういう存在が身近にいないことが、大きな問題なのではないでしょうか。
だからこそ私は、子どもたちに伝えたいのです。あなたの中にどんなことがあってもいい。大人が自己犠牲を払って頑張りすぎず楽しそうに生きていれば、子どもたちは自然と未来に希望を持つはずです。そのために私は、女性活躍支援や学校での出張授業など、さまざまな活動を続けています。

人生は、自分で選んでいい
私は子ども時代にいじめを経験していて、親との関係性にも悩み、生きづらさを抱えていたことがあります。自分の人生を生きようと思えたのは、実は20代半ばになってからでした。それまでは、自分の感情より親の期待に応えることを優先することもあったのです。社会人になり、東京から九州に戻ることを決めたのも、「親のため」という気持ちがありました。でも、そのまま生きていった先、私の人生には何が残るのでしょう。そう気付けたとき、私の人生は私のもの、私は自分の望む人生を生ききると決められたのです。自分の望むままに幸せに命を全うすることこそが1番の親孝行。家族は困ったときに支え合えればいいというのが今の私の考えで、我が子にも堂々と自分の幸せを最優先してほしいと願っています。「あなたの人生の主役はあなたしかいない」 そのメッセージを届けるために、これからも挑戦を続けていきたいと思っています。

叶えたい世界を知るヒント
「感情に向き合う」のと同じくらい、伝えているのは「見て見ぬふりをしない」ことです。社会の問題に対してもそうですが、まずは自分の感情に対して、見て見ぬふりをしないこと。自分の感情と向き合うのは怖いことですが、向き合わなければ、どういう世界をつくりたいのかも見えてきません。自分の中にある「もやもや」や「怒り」は、それは叶えたい世界があるという裏返しです。では、その「世界」はどういうものなのか。ぜひ、ご自身と対話してほしいと思います。
その答えが自分の使命みたいなものとつながれば、絶対に誰かが応援してくれるはずです。「これだ」というものを見つけたら、ぜひ周りに伝えて行動し、応援してもらってください。応援があれば必ず夢を叶えることができます。

ー おわりに ー
「なかなか一歩踏み出せないのは、人間の生存本能が働いているために起こる脳が正常に機能している証拠であり、あなたが弱いわけでも、ダメなわけでもない」とメッセージを寄せてくださった上官さん。自身のもがいてきた経験からくる言葉には、覚悟のあるあたたかさがありました。「自分をわかってあげて、気持ちを大切にできる大人が増えればいいな」。子どもたちにより良い未来を残すためには、まずは私たち大人が変わる必要があると感じました。
PROFILE
上官ゆい(じょうかんゆい)
株式会社UPay 代表取締役CEO
日本赤酢協会 代表理事
サステナブル事業プロデューサー
1982年生まれ。長崎県佐世保市出身。環境分野での社会課題解決と、地域資源の再価値化を軸に活動。2015年にアパレルで起業後、株式会社UPayを設立し「もったいない」からはじまる新しいものづくりを展開している。コロナ禍をきっかけに挑んだ「米ストロー」開発では、110回を超える試行錯誤の末に、子どもたちが安心して使える100%自然由来のストローを完成させた。現在はフードロス問題に向き合う「日本赤酢協会」の活動や、次世代の命を守るための小中高への出張授業にも注力。環境・農業・教育・女性活躍の分野にまたがり、多方面から注目を集める。講演、執筆、プロジェクトプロデュース、スタートアップ支援など、多様な立場で「社会起業のリアル」を伝え続けている。
株式会社UPay:https://upay.co.jp/




