通り道を観光地に。ドローンが変える地域観光の形

〜thinc なひと・Drone Grapher(ドローングラファ)田口厚さん×全国各地の絶景〜

趣味として好きになったドローンの可能性に惹かれ、会社を立ち上げた田口厚(たぐちあつし)さん。現在は、グループインした株式会社ORSODron é motion(ドローンエモーション)事業部で、地域課題と向き合い、ドローンで新しい観光体験をつくり続けています。850名以上を輩出してきた独自のドローン教育カリキュラムの設計思想など、試しながら磨き上げてきた事業の核心と今後の展望についてお話を伺いました。

Profile

田口厚たぐちあつし

「有名観光地の隣」を
ドローンで盛り上げたい

「通り道」になっている地域に気付く

私は「ドローンで地域を元気にする」というミッションを掲げています。この命題は、事業を進めるなかで気付いたことがベースになっているのです。さまざまな自治体とお仕事をご一緒するなかで、メジャーな観光地のすぐ隣が、ただの「通り道」になってしまっているという課題が見えてきました。そうしたエリアの魅力を再発見することで、地域を盛り上げていきたいという気持ちを込めています。

ドローンを使うと観光の仕方が変わります。たとえば、素晴らしい滝がある場所に行くとしましょう。一般的には滝つぼをバックに記念撮影をして15分程度で引き返すのではないでしょうか。ですが、そんな滝に私は丸一日いたことがあります。ドローンでいろいろな角度や距離から滝をじっくりと見ることで肉眼では気付けなかった魅力も発見できました。ドローンがあると1カ所のスポットでも半日以上は楽しめるんです。

静岡県での「ドローンジェニックな旅」

観光事業のなかで特に印象に残っているのが、2019年頃に静岡県で実施した「ドローンジェニックな旅をしよう!in 静岡県」です。このプロジェクトは知事直轄の公聴広報課と連携して進めたのですが、行政を巻き込む上でアプローチの工夫をしました。現場にいきなりドローンを持ち込まず、ドローンの基礎知識を共有するためのセミナーからはじめたのです。その後、「地域観光への活かし方」をグループワークで話し合い、関心を持ってくれた自治体や観光事業者とパートナーシップを築いていったのです。

企画したツアーは午前と午後にそれぞれ1カ所を巡るという内容です。ボリュームが少なく感じるかもしれませんが、交替しながらさまざまな撮り方を試していくと、半日はあっという間にすぎていきます。このような体験型コンテンツを提供することで、地域への滞在時間を延ばすことにも成功しました。

(提供:田口厚さん)美術館の庭園でドローン撮影を楽しむ参加者

参加者が教えてくれた
ドローンの新たな使い方

対局のニーズに気付いた日

この静岡県での空撮ツアーは、企画の考え方のターニングポイントにもなりました。自治体側の主な狙いはSNSでの認知拡大です。トレンドに敏感な10〜20代をターゲットに据え、自治体が招待したInstagramのインフルエンサーを交えてツアーを敢行しました。しかし、初年度はいまいちフィットしなかったのです。参加者の行動を観察して気付いたのは、「絶景の撮影」以外にもニーズがあったということ。映像の中に自分たち自身をどう写り込ませるか、という新しい撮り方の工夫を楽しんでいたのです。

それまで私は主に技術やクオリティを重視する層をターゲットにしていたため「広大な絶景をいかに高品質で撮影するか」をテーマにした空撮ツアーを企画していました。静岡県でのツアーでも同じ流れで進めていましたが、これがミスマッチだったのですね。カメラや空撮の技術習得を目的とする層のニーズに対し、SNSネイティブ世代やライト層が求めるものは「自分も写り込む、SNSで映える魅力的な写真を撮って発信したい」という体験でした。この対極にある体験ニーズの発見が、企画を大きく変えるきっかけとなったのです。

2年目はこの気付きをもとに、ロケーション選びやプログラムの内容を一新しました。撮影地は、自分を写し込んだときに映えるおしゃれな美術館の園庭などへ変更。基本操作を教えた後は、参加者が思い思いの手法で自由に試してもらうスタイルに変えたのです。これがターゲットのニーズに合致し、大盛況となりました。「ドローンにはこういう使い方があるのだな」と気付けた経験でもありましたね。

(Photo:CURBON)

定量と定性で
合格できるカリキュラムをつくる

国家資格のスクールは「塾」

もうひとつのドローン教育事業も順調です。ドローンの資格は民間資格からスタートし、今は国家資格(無人航空機操縦者技能証明)となりました。民間資格時代は、JUIDA(一般社団法人日本UAS産業振興協議会)認定スクールだった、デジタルハリウッドロボティクスアカデミーで講師を務めていました。同アカデミーは現在、国家資格のスクール(登録講習機関)として開講しており、私は民間資格時代から引き続いて講師を務めています。また、それとは別に、JUIDAが実施している登録講習機関の講師向け「講師養成講座」においても、私は講師を務めています。

私がこれまでに輩出した卒業生は850名以上になりますが、人数そのものを目標値としているわけではありません。人数よりもクオリティの高い操縦士を輩出したい想いが強く、かなり工夫してカリキュラムをつくりこんできました。国家資格になってからのスクールは、いわば塾だと思っています。減点方式の試験のため、いかに点数を落とさないかという逆算法で考えるのです。

コスト削減コンサルの発想で合格率を上げる

実は、フリーランス時代に企業のコスト削減のコンサルタントの仕事をしていたことがあります。削減できたコストの数10%を報酬としていただく、成果報酬型のビジネスです。クライアントの利益のためにも、そして自分の報酬のためにも、まずはインパクトの大きいコストから着手する必要がありました。そこで私は、1年分のコストをデータ化し、金額が大きい順に削減策を講じていくという仕事をしていました。

ドローン講習でも、まったく同じことをしています。試験の全体図と配点を把握し、どこで減点されやすいかという細かな情報をすべてデータ化します。3つのコースと8つの減点項目をベースに受講者のデータをまとめることで、合格者・不合格者それぞれの減点平均点などを一目で比較できるようにしました。つまり、受講者が最も苦戦している項目をランキングで表せるようにしたのです。あとは、その最優先課題から順に指導法を改善していくことで、合格率を引き上げています。

減点方式の試験において、「上手くなった」だけでは意味がなく、「減点をどれだけ減らせたか」が重要です。私のスクールでは、合格ラインに相当する過去の平均点と受講者の練習時における減点データを比較し、クリアできている項目と課題を明確にします。そうすることで、一部分にこだわりすぎて他の項目で減点オーバーとなり不合格になるというリスクを防いでいます。

(Photo:CURBON)

映像で自分を見る」定性のアプローチ

こうした「定量」に加え、「定性」の視点も大切にしています。ヒントになったのは、恩師が開催していたワークショップです。リアルタイムで作業履歴がすべて残るお絵かきソフトを使い、子どもたちに自身の制作プロセスを見せるという試みでした。例えば、「悲しいときの花」というお題では、一度描いたまっすぐな茎を折り曲げて描き直したり、花びらの色を何度も選び直してみたりといった思考の過程が現れていました。この過程を客観的に振り返ることで、自分が何を考えて最終的なアウトプットに辿り着いたのかに気付けるのです。要はメタ認知ですね。

ドローンの操縦も同じです。メジャーリーガーの大谷翔平選手が打席の直後に自分のフォームを確認するように、ドローン操縦でも映像によるフィードバックが欠かせません。左右のスティックを別々に細かく動かすので操縦は難しく、操縦者は自分の指先の動きをすべて意識できているわけではないのです。無意識の動きは言葉で指摘されても受け入れにくいものですが、映像を見れば一目瞭然でしょう。映像を通じて自分の課題を客観的に理解できれば、あとは動きを合わせていく練習を重ねるだけ。上達には「頭」と「体」の両輪が大切で、動画教材は「頭」を鍛えるのにうってつけのツールです。

客観視が大切なのは講師も同様です。自分の操作する様子を見たことがない人も多く、映像を確認してはじめて受講生への指導内容と自身の動きの矛盾に気付くなんてこともあるのですよ。同時に、講師によって教え方がバラバラであるという課題が浮き彫りになることもあります。これでは受講生が混乱してしまいますが、こうした指摘も言葉で伝えるより実際の動作を見てもらったほうが理解してもらえるのです。私の講習では、私を含む講師陣の属人性を排除するため、教え方を統一しています。感覚や経験則に頼るアナログな指導体制を、データと仕組みによって根本からアップデートしていきたいと考えています。

(提供:田口厚さん)ドローン操作を客観的に確認できる講習システム

ドローンの可能性は広大

知られざる場所を、ドローンで目的地に変える

ドローンは触れてみてはじめて分かることもたくさんあります。まずは飛ばしてみて、何に使えるのかをクリエイティブに考えていく楽しさを体験してみてほしいですね。観光業において進めていきたいのは、お城にドローンを掛け合わせることで、新しい観光のありかたをつくっていく取り組みです。お城は個人的に好きなテーマでもありますが、歴史的・観光的な価値が詰まった魅力的な場所でもあります。国宝級のメジャーなお城以外は全国にあまり知られていません。このように、知名度は低くても教育的な魅力や歴史的価値を持つ場所は全国にたくさん眠っています。そうした場所にドローンを通じて触れてもらい、かつ観光を楽しめる場所に進化させていきたいと考えています。

次の「ドローン×○○」を生む人たちへ

ドローンが課題解決できる分野は多様で、今後も活用のフィールドは広がっていくのだろうなと思っています。一方で最近感じていることは、ドローンを使って活動したいが、そこに至る道筋が見つからない人も結構いるのだろうなということ。私はそのような人たちがドローン技術を習得し、活躍できる場所をたくさん創り出していきたいと考えています。観光課題にアプローチしたいと当社に加わってくださるのもうれしいですし、別の場所であってもドローンを通じて社会課題に向き合う人が増えていくこともうれしい限りです。

私が講師を務めた就職転職フェアのセミナーでは、参加者の50%以上が50~60代の方でした。興味を持ってくれることは勿論うれしいのですが、産業の持続可能性を考えると若い年代の方の力も欠かせません。現在の法規制では個人が気軽に飛ばせる環境が厳しくなっていて、ドローンに触れる機会が少なくなっています。体験会の開催やミニドローンを使ったワークショップなど、微力ながらも普及活動は継続していきたいですね。ドローンが飛ぶ150メートル未満の空間は、可能性に満ちた未知のエリアです。少しでも興味のあるという方は、ぜひ一歩踏み出してみてほしいです。

(Photo:CURBON)

ー おわりに ー

観光事業も教育事業も「試行錯誤を繰り返しながら事業化してきた」と語ってくれた田口さん。いろいろな専門性を持つ人たちが「上空150メートル未満を自由にデザインできるツール」としてドローンに触れることで、まだ見出されていない新しい活用法が生まれてくるはずです。次なる「ドローン×○○」が誕生する日が楽しみです。

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