ユニークで印象に残るWebサイトや動画制作を得意とする株式会社おくりバント。その会長を務めるのが、高山洋平(たかやまようへい)さんです。Xのプロフィールには、「日本の経営者」からはじまり、ワールドJポップ DJマリアージュ・プロ営業・プロ飲み師…と数々の肩書が並びます。東京都中野区では自身がオーナーである「BaRプードル」を営むなど、多岐にわたるフィールドで活躍しています。
2014年の創業から10年以上。どのような判断をし、事業領域を広げてきたのか。そして、「受ける仕事・受けない仕事」の基準とは。「BaRプードル」でお話を伺いました。
目次
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01
好きの延長を職にする
- 01-01 すべてが「広告」につながる
- 01-02 小さくはじめて、手応えで育てる
- 01-03 まずは「やってみる」
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02
楽しく・おもしろくが仕事のモットー
- 02-01 キャッチーな入り口、きっちりした仕組み
- 02-02 選び、選ばれる関係
- 02-03 楽しい「バズ」を生むために
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03
代理店時代から変えたこと
- 03-01 お金より楽しい方を優先
- 03-02 筆跡に残る、考えた時間
Profile
高山洋平たかやまようへい
代表取締役会長
好きの延長を職にする
すべてが「広告」につながる
キャリアのはじまりは投資用不動産の営業です。受話器に張り付いて、5年間ひたすらテレコールをしていました。28歳でWeb広告会社の株式会社アドウェイズに入社し、30歳で上海支社へ。中国語が話せないのに三国志と中国映画の知識だけを武器に5年間駐在し、その後、35歳でアドウェイズの子会社として設立したクリエイティブ専門会社が株式会社おくりバントですね。
43歳ぐらいでDJをはじめました。扱う音源は、外国人が日本語で歌う曲だけ。そうした楽曲を集め、「ワールドJポップ」と名付けました。たぶん、世界で僕しかやっていないジャンルだと思います。45歳ぐらいからは「DJマリアージュ&メアリー・スミス with DJハイセンス」というユニットで歌いはじめました。
さらに、個人事業として、中野で「BaRプードル」を昨年(2025年)開店しました。直近では、バーのお客さんからの提案をきっかけに「TAKAYAMA繊維」というアパレルブランドを立ち上げ、3種類のアイテムを合計400点ほど作りました。
こう羅列してみると活動内容は脈絡がないように見えるかもしれませんが、広告に携わる者としてはすべてつながりがあるんですよ。時代の変化を知り、知識と体験を広げ続けることが、ものづくりをする上で欠かせないからです。広告屋は全部知らないといけませんから。
小さくはじめて、手応えで育てる
こうした活動を仕事にするかどうか迷ったときは、自分なりの順序があります。最初は「やりたい」と思ったものを、ある程度のクオリティで世に出してみる。手応えを感じられたらクオリティを上げ、さらに「いける」と思えたら仕事につなげていく、といった具合です。
ある程度のクオリティというのは、自分の中で「ああ、いいんじゃない」と思えるかどうか。「面白いと思われたい」「かっこよく見せたい」といった自分なりのこだわりがクリアできたら、カジュアルにはじめてしまいます。ワールドJポップも、最初は好きで曲を集めてかけていただけでした。そこからユニットを組み、自分たちの曲やMV、中野区のシティプロモーションソングをつくる事や大阪万博でライブをするまで広がりました。
もちろん、うまくいかなかったことはいくらでもあります。でも、落ち込んでいても仕方がないですからね。何がダメだったのかを考えながら、また違うことにチャレンジしています。
まずは「やってみる」
何かをはじめるとき、周囲に話すと、大体反対されます。歌を歌いはじめたときは、「歌がうまくないんだから、できるわけがない」、バーを開業したときは「どうせすぐ飽きる」と言われました。おくりバントを設立した時も「絶対無理だ」と言われましたしね。でも意外と13年も続いているわけです。
「いいね、やってみよう!」と言ってくれる人ももちろんいますが、基本的には「そんなの意味がない」「できるわけがない」と言われるものだと思っています。何をやるにしても、絶賛ばかりだなんてことはまずないのです。ですから、「まずは、無視してやってみる」を大事にしています。

楽しく・おもしろくが仕事のモットー
キャッチーな入り口、きっちりした仕組み
周囲から反対されながらはじめたおくりバントは、広告やPR、ブランディングを主軸に、SNSの運用や映像制作を行う受託制作の会社です。お客さまは当社のクリエイティブを気に入って問い合わせをしてくれるので、「お任せします」という依頼がほとんどです。面白いもの、かっこいいものを作りたいという依頼が多く、まずは「どこをどの程度尖らせるか」から考えはじめますね。
たとえば、2025年8月に当社の代表取締役社長の西久保が手がけリリースした退職引き止めサービス「イテクレヤ」で尖らせたのはネーミングです。話題づくりを兼ねてつけた名前で、ニュースなどで注目を集めました。
ただ、サービスの構造は地に足がついたものです。もとは「退職者を減らすための面白い社内制度をつくってほしい」というクライアントからの相談でした。ですが、おもしろい社内制度だけで退職者は減らないですよね。そこで、新制度を考える前に社員の方へのヒアリングからはじめることにしました。僕たちが、形式張った人事コンサルタントとしてではなく、「それは辞めたくなるね」と共感しながらフランクに話を聞いたことで、社員の方たちも本音を打ち明けてくれたのだと思います。ヒアリングを重ねるうちに、経営層が考える離職理由と社員の本音に食い違いがあることが判明しました。それを経営層に率直に伝えることで、問題の解決につなげたのです。
この取り組みをベースにサービス化しました。ヒアリングで現状の課題を正確に把握し、必要に応じて制度も設計するという仕組みです。入り口は面白くしても、本質的な課題解決をおろそかにしたら意味がないのです。
選び、選ばれる関係
このように、広告以外の相談が舞い込むこともあります。基本的にはお受けしていますが、おくりバントでできないことは「難しい」と素直に伝え、お断りする場合もあります。たとえばECサイトの構築などです。たまに相談されることがあるのですが、デザインは得意でも決済やカート機能が絡むECサイト特有の構築となると専門外になってしまいます。あとは予算や納期で折り合いがつかなくてお断りすることがあるくらいです。
そもそも、当社がお客さまや案件を選ぶように、お客さまも当社を選んでくれています。お互いの求めるものが合致しないと一緒に仕事はできないのです。
というのも、堅いもの・無難なものであれば、今の時代AIでいくらでもつくれるので、わざわざ当社に頼む必要はないですよね。失敗を避けて「置きにいきたい」と考える方は、そもそもうちに依頼はしないのです。
だからこそ、おくりバントならではのクリエイティブが生まれているのだと思います。YouTubeで公開している営業の様子も、演出ではなくあの通りのまま。むしろ、あのフランクな雰囲気ごと期待して声をかけてくださる方が多いので、これで良しとしてもらうしかないですね(笑)。
その分、経営が順調かというとそうでもありません。もっと真面目な会社のほうが儲かると思います。それでも食べていけるくらいにはやっていけていますし、僕自身、お金よりも「かっこいいか、面白いか」のほうをずっと見ています。

楽しい「バズ」を生むために
尖ったものをつくるといっても、話題になれば何でもいいわけではありません。僕はこれまで、炎上するような悪バズりをさせたことは一度もないのです。
最近では、「ちゃんのれん組合」というラーメン店の組合で「トッピング無料Tシャツ」を作りました。そのTシャツを着て来店すれば、トッピングが無料になるという企画です。お客さまは何度も来店してくれるようになりますし、着て歩いてくれるだけでお店の宣伝になります。
こうした企画は誰も怒らないでしょう?トッピングがほしい人だけが買うだけですから。僕が好きなのは、このような誰も傷つかないバズりです。
反対に、賛否が分かれるようなもの、傷つく人がいるような広告は好きではありません。みんなが喜んでくれる企画しかしないというのが僕のやり方です。

代理店時代から変えたこと
お金より楽しい方を優先
実際、お金のことはほとんど計算していません。会長になったいま、おくりバントの数字は社長が見てくれているので、なおのこと知らないのです。毎年、決算報告書がまとまっている官報ブログで把握しているくらいですね。個人事業の方も、通帳を見て「少しずつ貯金が増えているな」程度で、あとは税理士さんに丸投げです。
もちろん、もらえるものならほしいですが、本当にお金がほしいならもっときちんとチェックして執着するはず。そう考えると、実はそこまでほしいわけではないのかなと思っています。クリエイティブは「もっといいものを作ろう」と本気で思えるのに、お金に関してはそこまで本気で向き合っていない。気づけば儲けることよりも、つくること自体を楽しむようになっちゃっていますね。
そんな僕にとって、思いがけず営業の場になっているのが、中野のBaRプードルです。勢いではじめた店ですが、いまでは仕事の相談をしに来てくれるお客さまもいます。そうしたお客さまは神ですよ。仕事をくれて、店で飲んでくれて、「高山さんどうぞ」なんてお酒もご馳走してもらえることもあるんですから。
今もお酒の原価率すらわかっていません。最悪、売上がゼロでも、どうせバーの家賃分くらいは普段から飲んでいるしなと思ってやっています。それでも、このマチのカウンターから仕事が生まれるのは、やっぱりうれしいですね。

筆跡に残る、考えた時間
自分のペースでやってこられたのは、おくりバントを立ち上げてから、代理店時代のやり方を大きくふたつ変えたからかもしれません。
ひとつは「怒らない・怒られない」を前提にしたことです。理不尽に怒るようなクライアントとはご一緒することはありません。代理店時代に散々苦い経験をしてきたので、そういった環境は避けたいと思っているんです。だからこそ、最初に「この方向性で問題ないか」と確認します。そのせいで進行が遅れることもありますが、怒られたくないですから(笑)。でも納期はギリ守るので安心してください。
もうひとつは資料です。代理店時代は企画のたびに100枚もの資料を出していました。「3日間、徹夜して100枚資料を作りました」という努力点で仕事をとっていたのです。もちろん、それはそれで大切なことです。
ですが、AIが台頭してきた今の時代ではそうした営業では勝てなくなりました。100枚の資料なんて、いまはAIで一瞬で作れますし、相手も「AIで作ったんじゃないの?」と思うようになってしまいましたし。
なので、今は企画だけで勝負しています。資料の枚数はすごく少ないですが、手書きで企画書を作成しています。手で書いた企画書には、相手のことを考えて頭を捻った時間がそのまま筆跡で残ります。そうして書いたものを、デザインツールのCanvaに貼り付けて仕上げています。
AIを使えば、誰でもそれらしいものをすぐにつくれる時代です。だからこそ、資料の厚みではなく、相手のためにどれだけ考え抜いたか。その跡が見える企画で勝負できるかどうかが、これからのクリエイティブには問われていくのだと思います。

ー おわりに ー
バーのカウンターに腰掛け、ユニットのMVを見せてくださりながら、インタビューに応じてくださった高山さん。お話される様子からも、受託仕事も個人のクリエイティブ活動も、「やりたい」を軸にされていることが伝わってきました。次回「おくりバント高山さんに学ぶAI時代のマチの歩き方」では、数々のクリエイターと仕事をしてきた高山さんの「人を見る目」や、AIの発達が目覚ましい今、そしてこれからのクリエイティブについての考えについて伺います。




