2Dや3Dのキャラクターの姿をアバターとし、動画・ライブ配信を行うVTuber(ブイチューバー:Virtual YouTuberの略称)。市場規模が拡大を続けるなか、このエンタメの力を「地域創生」へと掛け合わせ、圧倒的な成果を出しているのが、株式会社uyet(ゆえっと)です。
同社の代表プロデューサーとして、VTuber事業を手掛ける金井洸樹(かないこうき)さんは、VTuber黎明期から業界に携わってきた立役者のひとり。しかし、金井さんが原点として抱いていたのは「VTuberを売る」ことではなく、「知られていない素晴らしいものを、いかに興味を持たれる形に変換して届けるか」という課題解決でした。
どんなに魅力的な地域であっても、そもそも存在や魅力を知らなければ人は動きません。株式会社uyet が手掛ける「まちスパチャプロジェクト」をはじめとする地域創生モデルは、単なる一回限りのPR案件とは一線を画す成果を上げています。地域創生×VTuberの最前線と、その成功を支えるプロデュースの裏側についてお話を伺いました。
目次
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01
VTuberと地域創生を掛け合わせるきっかけ
- 01-01 知られていないのはもったいない
- 01-02 一過性の寄附で終わらせない地域へ関わるきっかけづくり
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02
なぜVTuberなのか。ゆるキャラとの構造的違いと出力の変換
- 02-01 直接コミュニケーションが取れる強み
- 02-02 アバターが仲介することで「届く情報」へと変換される
- 03 コミュニティの相性を見極める「丁寧な文脈合わせ」
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04
地域創生にVTuberを。まちスパチャプロジェクト
- 04-01 推し活心理を地域愛へ
- 04-02 ぶいじゃっくin鉾田市全員がハッピーになる環境設計
- 04-03 一過性のPRで終わらせない岡山県新見市での関係人口創出
Profile
金井洸樹かないこうき
株式会社uyet 代表プロデューサー
VTuberと地域創生を
掛け合わせるきっかけ
知られていないのはもったいない
私が自治体や地域事業者とVTuberを掛け合わせた事業をはじめた背景には、自身のルーツにおける原体験があります。
私自身は東京都生まれ東京都育ちで、元々地域との縁は薄い人間です。ただ、母が山口県の離島出身だったため、本州から1日2本しか出ていない船で渡るその島へ、私も幼い頃からたびたび足を運ぶ機会がありました。「すごくいい場所だな」と思うのと同時に、「人口250人ほど(2026年7月時点)のこの離島を知る人はなかなかいないだろうな」とも感じていたのです。
この離島に限らず、地域は知られていないものやことが多いでしょう。どれだけ魅力的な場所でも、興味を持たれる人口が少なければ、そのまま人の流出や地域の衰退にもつながってしまう。興味を持ってもらえるツールや手段がなければ、人は出ていく一方になってしまうのではという強い危機感がありました。

一過性の寄附で終わらせない
地域へ関わるきっかけづくり
また、私自身のふるさと納税での体験も、課題意識のひとつです。これまで制度を利用するなかで、返礼品に何をもらったのかは覚えていても、寄附した自治体名を覚えていないことがありました。それも地域側からしたらもったいないことです。本来であれば、その地域を知ってもらい、覚えてもらって継続的な関わりをつくれる制度なのに、一時的に財政を潤すだけで終わってしまうのはもったいないなと。こうした課題に対し、興味を持ってもらえる手段として選んだのがVTuberだったのです。
なぜVTuberなのか。
ゆるキャラとの構造的違いと出力の変換
直接コミュニケーションが取れる強み
地域プロモーションにおいて「キャラクターの活用」というと、ご当地の「ゆるキャラ」を想起される方も多いかもしれません。ですが、両者の発信における特徴には大きな違いがあります。
かつてのゆるキャラブームの際、全国で数多くのゆるキャラが生まれました。しかし、ゆるキャラのすべてが、考案段階で「どういう年代のどういう人に興味を持ってもらい、何を届けたいのか」という対外発信の戦略まで練られて作られたケースは決して多くはないと思っています。
VTuberであればそこまで考えられているのかと問われると、当然ながらすべてがそうではないでしょう。しかし、VTuberの場合は本人の知識を踏まえた発信ができ、配信というメディアを通じてファンやリスナーの方々と直接コミュニケーションが取れる特徴があります。発信の場が確立されているからこそ、「興味を持ってほしい相手」へ確実に情報を届けられる強みがあるのです。
アバターが仲介することで
「届く情報」へと変換される
さらに、人間(実体)が直接発信する場合と異なり、キャラクターというアバターを間に挟むことで、受け手の先入観や発信側の制限(出力のギャップ)を取り払える強みもあります。生身の人間では興味を持たれにくかった情報も、キャラクターというフィルターを通すことで、リスナーへ自然と興味をもってもらえる形へ変換されるのです。

コミュニティの相性を見極める
「丁寧な文脈合わせ」
自社タレントを持たないからこそ
活動を100%尊重できる
当社は自社でVTuberを抱える事務所ではありません。自治体や企業からの依頼を受けて企画を練り、その課題に最も適したVTuberを起用して形にする役割を担っています。自社タレントを持たないからこそ、私たちはVTuberの活動を100%尊重できます。極論を言えば、自治体や企業とお付き合いできる方であれば、どのようなVTuberでも構いません。
VTuber側は企業の都合など気にせず、自分たちの好きなことややりたいことを愚直にやった結果、独自のコミュニティを形成してくれればいい。私たちは、その完成されたコミュニティと企画との相性の良さを考える立場をとっているのです。
登録者数や数値では見えない
「コミュニティの温度感」に混ざる
だからこそ、情報を保有するVTuberが5,000名以上にのぼる現在でも、データ上で自動マッチングさせるといったことはしていません。そもそも、互いの申告内容が合っているとは限らないからです。
たとえば、VTuber本人が「これが好き」「これが得意だから、こういう発信をしたい」と言っていたとしても、それがどれぐらいの熱量やレベル感の話なのかは、中身を見てみないとわかりません。一方で、クライアント側も、「この商材をZ世代に知ってもらいたいから、Z世代のファンが多いVTuberを起用してほしい」と希望されることがありますが、商材の打ち出し方がそのままの状態だと、Z世代に興味を持たれるどころか避けられるケースもあります。数値上の登録者数や人気だけで選ぶことも、「クラスで一番人気がある子だから、この話題も刺さるだろう」と思い込むようなもので、失敗の大きな要因になります。
選定の感覚は、学校のクラス内にあるグループ選びに近いです。カードゲームの話題で盛り上がるグループがあれば、アイドルの話題で盛り上がるグループもある。VTuberのコミュニティも同じで、いくら良いコミュニティであっても、脈絡のない商材を唐突にプロモーションすれば、ファンやリスナーの戸惑いを生み、ファン離れを起こすおそれすらあります。
その相性を見極めるために、私たちは実際にVTuberの配信を覗き、コミュニティのなかに混ざってみます。何の話題でどう盛り上がっているのか、リスナーとどのような関係性を築いているのかを定性的に確かめるのです。
商材のどの要素を抜き出し、ターゲットの興味関心とどう文脈をつなぐのか。知られていない前提に立ち、手作業で丁寧なチューニングを行って橋渡しをする。これがあってはじめて、双方にとって価値のある施策が生まれると思っています。

地域創生にVTuberを。
まちスパチャプロジェクト
推し活心理を地域愛へ
私たちが手掛ける代表的な地域創生モデルのひとつに、VTuberファンの「推し活心理」をふるさと納税や観光誘致につなげる「まちスパチャプロジェクト」があります。
通常、ライブ配信における「スパチャ(スーパーチャット=投げ銭)」は、ファンが配信者個人に対して応援や感謝の気持ちを込めて贈るものです。まちスパチャプロジェクトは、この「大好きな推しを応援したい」というファン心理を、自治体へのふるさと納税や地域プロモーションと掛け合わせることで、地域にもクリエイターにも還元される新しい仕組みとして構築しました。

ぶいじゃっくin鉾田市
全員がハッピーになる環境設計
自治体や企業の方と話す際、どうしても懸念点として挙がるのが「ネット炎上」のリスクです。誰しも意図して炎上を起こしたいわけではありませんし、未知の領域への挑戦には不安がつきものです。ですが、適切なプロセスを踏んで設計されていれば、過度に怖がる必要はないと私は考えています。
炎上が起きる原因は、本来届かないほうが良いコミュニティの目に触れる形で世に出してしまうような設計になっているか、地域の方やファン側の「大丈夫なの?」という不安やモヤモヤから生まれるものです。そこに対する手立てを事前に打っておけば問題はありません。
「まちスパチャプロジェクト」と茨城県鉾田市の取り組みでは、VTuber事務所「ななしいんく」所属の因幡はねるさんらが参加する複数年の施策において、リスクを未然に防ぐ丁寧な環境づくりを徹底しました。
2025年8月開催の炎天下で行われる野外ライブイベントにおいて、ただキッチンカーを出すのではなく、産地のものを使い、現地を訪れるファンの熱中症対策になるよう、冷やした特産品のメロンや冷やし焼き芋を提供するメニューを提案しました。
ファンからすると「気遣いを感じられて嬉しい」、VTuberにとっては「自分のファンを大事にしてもらえて嬉しい」。地域の方からすれば、「自分たちの特産品の魅力をたくさんの人に知ってもらい、喜んでもらえる」。このように、みんなが喜ぶ場をセッティングできれば炎上のリスクは限りなく抑えられると考えています。ツッコミを入れる側が野暮になるような企画にすることこそが、最高のリスクヘッジです。

一過性のPRで終わらせない
岡山県新見市での関係人口創出
私たちが目指しているのは、1回限りのPR案件で終わらせない、未来につながる企画づくりです。興味がない状態とは、日常の365日の中でその地域を思い出すシチュエーションがない状態のこと。逆に言えば、日常生活のアンテナに引っかかる仕組みを作れれば、プロモーション終了後も関わり続ける「関係人口」へと変容していきます。
岡山県新見市との「まちスパチャプロジェクト(起用:時雨ミトさん)」では、単発のPR案件がVTuber本人の熱量を引き出し、自発的な関係人口の創出へと発展しました。取り組みを通じて岡山県新見市を好きになってくださった時雨ミトさんは、取り組み後に自主的に岡山県新見市の「ふるさと市民」に登録されました。
そして、新見市から当社へ「今年もぜひお願いしたい」と2年連続でご依頼をいただいた際、そのミトさんの熱量や文脈を踏まえて企画したのが、ご本人がバスガイドを務めるバスツアー「にーみーとツアー」でした。
車内アナウンスで移動時間を盛り上げるこのツアーは、募集定員を大幅に上回る応募が殺到。ふるさと納税の寄付額増加に寄与しただけでなく、ファンの方々が「ふるさと市民」に登録したり、SNSで新見市の魅力を発信したりするなどの大きな成果へと結びつきました。

好きになれば、日頃の生活で自分のアンテナに引っ掛かることが増えます。そして、好きだからこそ、そんな出来事を誰かに話したくなるものです。VTuberもそれは同じで、最初の出会いは案件であっても、地域を好きになってもらえていれば、その後の日常生活でふと思い出す瞬間が訪れることがあります。
たとえば、案件で関わった地域があるVTuberが、別の配信でゲーム「桃太郎電鉄」のプレイをした際に、関わった市があったから物件を買い占めてみたり、ファンが買い物に行ったスーパーマーケットでその地域産の野菜を見つけ、「買ったよ」と写真をSNSに投稿したり。こうした「その後も思い出してもらえるプロモーションにしたい」という想いを持って企画を考えています。ただ、実際に何が起こるのかは想定し切れるものではないので、思ってもみない展開に驚くこともありますね。何かの折に思い出してくれる人が増えれば、それだけその地域の関係人口を増やせたことになると思っています。
「知られていない前提」に立ち、日常の中でふと思い出してもらえるシチュエーションを企画に埋め込むことで、一過性のプロモーションは持続的な「地域愛」へと昇華していくのです。

ー おわりに ー
自身のバックボーンもあり関心を抱いていた「知られていない地域のもの・こと」に、動画編集、そしてVTuberが掛け合わさったことで生まれたuyetの事業。最近ではAIを活用すれば自動マッチングも不可能ではないでしょうが、机上のデータだけでは良いコラボにはつながらないというお話が印象的でした。次回「VTuberの力で実体経済を動かす、独自のビジネス論」では、2016年末に「キズナアイ」が登場してから約10年。今では1,000億円規模を突破したVTuber市場の動向、uyet独自のビジネス戦略について伺います。






