「好き」から多角化する事業
<日本のサウナ文化を、世界へ>

〜thincなひと・TTNE ととのえ親方/松尾大さん×全国各地のサウナ〜

サウナクリエイティブ集団[TTNE]の代表として、日本全国のサウナプロデュースに取り組む松尾大(まつおだい)さん。実は、サウナ事業以外にもさまざまな事業に取り組まれています。新ビジネスをはじめるときに大切にされていることは何なのか。また、これから取り組みたいことは。たっぷりお話を伺いました。


新事業に取り組むきっかけは
「楽しそうじゃん」

僕には「これをやろう」みたいな気持ちはあまりありません。これまでも、「楽しそうだな」と思ったら飛び込んでみて、それがビジネスになったら良いな、みたいな感覚で仕事をしてきました。ただ、サウナを含め、「健康」というキーワードは意識しているような気がします。健康だと、すごく楽しいじゃないですか。サウナ以外に、福祉やフィットネスクラブの事業もやっていて、これらも健康が共通のキーワードになるかなと思います。

そのキーワードを意識してはじめたというよりは、やっぱりノリときっかけ、タイミングですね。フィットネスクラブは、自分でも体を鍛えるのが好きですし、体を動かして変わっていく人が好きだからはじめた感じで。体力がついて疲れなくなったとか、筋肉がついたとか、そういう人を見るのが好きなんですよね。

福祉事業をはじめたのは、TTNEを一緒に手掛けている秋山大輔を紹介してくれた小橋賢児さんと障がいのある車いすユーザーの男性を含む男6人ぐらいで、ハーレーダビッドソン2台とキャンピングカーでアメリカのルート66を横断したことがきっかけです。この旅を小橋さんが撮っていたんですが、その映像がロードムービーになったんですよ。



(提供:株式会社A-Works)


障がいのある方が夢を叶える瞬間を見るのがすごく好きで、彼をアメリカに連れて行って夢を叶える瞬間という素晴らしいときに立ち会えたなと思えて嬉しかったです。その後、帰国した際に福祉業界の人から「障がいのある人に仕事を教える仕事があるよ」と言われ、やっていったのが仕事になりました。2010年ぐらいからやっているんじゃないかな。

お誘いを受けたビジネスすべてをやるわけではありません。ビジネスって、腰を上げるのがすごく大変なんですよ。だから、そこまでしてやれるビジネスなのか、やり続けられる仕事なのかを考えることを大切にしています。

僕は、売上が落ちていったときに焦らないんです。大体の人が焦って、自分が現場に行って立て直そうとすると思うんですが、僕は「ダメだったら必要とされてないんだから、捨てちまおう」という考え方なんですよね。もう、やめちゃったほうがいいじゃんって。社員にも「がんばれよ」とはあまり言わずに、「無理すんなよ」みたいな感じなんです。だから、大きな企業のリーダーシップを取るみたいなことは絶対に難しいと思います。

そもそも、いろいろな事業すべてを僕が見ているわけではないんですよ。今はサウナばっかり。複数のことができるタイプじゃないから、違う事業はチームの人がやってくれています。18年経つフィットネスクラブの経営は、ずっと一緒にやってくれているすごく優秀な人が今はメインで動いてくれていて、僕はサウナをという感じですね。SAUNACHELIN(サウナシュラン)や日本サウナ学会(後述)もそうなのですが、使命感はそこまでなくて、ただ楽しそうじゃんみたいな感じなんです。「サウナがどれだけ健康に良いのか知りてえ」みたいな感じでしかやってないな、僕は。

ただ、自分の仕事が、その人の人生の何かになってくれたら嬉しいという気持ちはありますね。それがあったら最高。…という気持ちでやってはいますが、あまり立派なことはやってないんです(笑)。

医師のお墨付きを得て
サウナをより勧めやすくなった

先ほど少し話に出した『日本サウナ学会』は、ある人から「医師を集めてサウナの学会を作ったほうがいいよ。学会として『サウナは健康に良い』と示さないと入ってくれない人もいるだろうから」と言われて作ったものです。それはそうだなと。実際、日本にはサウナにネガティブなイメージを持っている人が多いんですよね。我慢比べになってしまっていたり、サウナ後に水風呂に入ったら心臓が止まるんじゃないかとか、体に悪いんじゃないかとか思われていたり。でも、海外、例えばフィンランドではサウナに入って治らない病気は何をやっても治らないと言われるほど、サウナは健康に良いとされているんです。ただ、これを僕のようなただのサウナ好きが言っても誰も聞いてくれません。だから、サウナ学会なんです。

そこで、サウナを肯定しているお医者さんを探しました。でも、いないんですよ。これはまずいなと思いましたね。その後も探し続けていたら、1人面白そうで、かつ適している人がいるかもしれないとなり、その方をラジオに呼びました。すると、「サウナに入ったことがない」とおっしゃる。「では」ということでサウナに連れていき、サウナと水風呂と休憩という一連の流れを経験してもらいました。そして「これは体にとってどういうことなんですかね」と聞いたら、「これは体に良いかもしれない」と答えてくださったので、「じゃあ学会を作ろうぜ」と話を進めることができたんです。

サウナ学会の活動をはじめたことで、サウナが健康に良いと思ってくれる人が増え、人に勧めてくれるようになったんじゃないかと思います。精神的な面、うつ病などに効くと言われてもいるので。そうやって「サウナって良いよ」と勧めてくれる人が増えたのは、すごく良いことだなと思っています。サウナ学会、SAUNACHELINなんかの活動で、日本のサウナ自体も結構変わってきたんじゃないかな。

昔もサウナブームがあったのですが、それはダイエット目的とか美容目的とか、何かを得るため、達成するために我慢するみたいな感じだったんですよね。それと比べると、今はただただ心地良いものを求めていると思うんです。「これをやったら健康になる」という何かを得る対価じゃなく、ただ心地良いという感覚が対価なものって、なんだか続いていく気がしませんか?ブームじゃなく、カルチャーになっているところがあるんだと思います。

なぜカルチャーを醸成できたかというと、簡単な話なんですよ。例えばウォシュレットもそうですよね。昔はなかったけど、1回使うともうウォシュレットがないと嫌みたいになってくるじゃないですか。それと同じで、サウナに入って水風呂に入って、休憩する。それでこんなにさっぱりするんだとわかると、昔のようにサウナにだけ入るのではなく、水風呂にも入ることがふつうになる。今では水風呂なしでサウナに入る人は少なくなってきていると思います。

あとは、ただ入ればいいという簡単さですよね。「プロサウナ―」とか言っていても、結局座って汗をかいているだけですから。そして、平等。ふつう、プロって「数字を出さないと」とか、「勝たないと」とかっていう気持ちがあるじゃないですか。でも、サウナには勝ちも負けもないわけです。そこが今の若者たちには好まれているのかもしれませんね。「お前のほうが下手」「お前はサウナ下手」「サウナが上手い」とかないですから。本当にサウナは平等だと思う。ゴルフに行けば、プロじゃなくてもどうしてもスコアが気になるものじゃないですか。サウナにはそういうことが一切ないですからね。

高級なブランド品を身に付けてマウントを取るといったこともサウナではないですし、もしあったとして、それは本当にかっこいいのかという疑問がありますよね。だって、素っ裸なわけですから(笑)。裸の人間に上も下もない。みんな平等です。

日本のサウナ文化を世界へ

日本には2万件ぐらいの温浴施設があるんです。これはものすごい数で、海外にはこんなにたくさんの温浴施設はありません。

日本でやってきた僕らの仕事を、海外の人たちが見てくれているようなんですよね。それで、最近は海外のスパ施設からサウナのプロデュース依頼が入るようになりました。この10年で、日本ではサウナ・水風呂・休憩という入り方や、サウナの気持ちよさがカルチャーとして作られてきました。元は北欧で生まれたサウナ文化を、今度は日本から持っていく、そうして、海外の方にも「サウナはこんなに心地良いものなんだ」と発信できるようになったら良いなと思っています。

もう話は進んでいて、ニューヨーク、バリ、タイ、ソウルでも仕事の話が決まっています。実は海外のサウナ室も、日本のように1枚絵で切り取ったら、特に個性も何もないサウナ室だというところがたくさんあったんですよ。特徴的なサウナ室は珍しく、だから僕らのやっていることを見て面白くなりそうだなと思ってくれているんだと思います。



(Photo:CURBON)

ー おわりに ー

「面白そう!」「楽しそう!」をガソリンにし、サウナをはじめ、幅広い事業を開拓してきた松尾さん。今後の展望をお聞きしたとき、「いやあ、本当に特にないんですよねえ」と困ったように笑いながら、出てきたのは「サウナを広めたい」という熱い想いでした。年齢や立場関係なく、平等に人が集まって話せる場。地域に観光客を呼び込むことはもちろん、地域で活動する人たちの寄合場としても、サウナは魅力的な場所なのだと感じるインタビューでした。地域を盛り上げる一手となるサウナ作り、ぜひいかがでしょうか。


PROFILE

ととのえ親方/松尾大(まつおだい)
TTNE株式会社 代表
プロサウナー

北海道出身。複数の会社を経営する傍ら、全国のサウナ施設のプロデュースを手掛ける実業家にしてプロサウナー。札幌を訪れる経営者や著名人など1000人以上をサウナにアテンドし、ととのう状態に導いてきたことから『ととのえ親方』と呼ばれる。サウナのイメージを変え、文化として根付かせたいという思いから、サウナ師匠(秋山大輔氏)とサウナクリエイティブ集団[TTNE]を設立。サウナの記念日『ととのえの日』の制定、サウナ施設を11表彰する『SAUNACHELIN(サウナシュラン)』、サウナに関する医学的な研究、安全利用に関する知識を提唱する『日本サウナ学会』の設立、サウナのプロデュースなど、国内におけるサウナのリブランディングを目指す。

TTNE株式会社:https://ttne.jp/
日本サウナ学会:https://www.ja-sauna.jp/

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