個の幸せは、社会の変革の先に。
<広がりを生む公園の誕生>

〜thincなひと・ヘラルボニー 木村芳兼さん×岩手県盛岡市~

障害のある作家とライセンス契約を結び、アパレル、雑貨、原画の販売や、企業とのコラボレーションを展開する株式会社ヘラルボニー。「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、異彩を放つ作家とともに、新しい文化をつくるクリエイティブカンパニーです。本社のある岩手県の盛岡事業部でシニアマネージャーとして同社に参画した木村芳兼(きむらよしかね)さんは現在、2025年3月にオープンした「HERALBONY ISAI PARK」のコミュニティーマネージャーとしてチームを牽引しています。

「ISAI PARK」という名前に込められた想いや、木村さんの取り組み、木村さんやヘラルボニーが描く未来についてお話を伺いました。

誰もが来ていい
「公園」のような場づくり

2023年から岩手県盛岡市の百貨店、川徳(パルクアベニュー・カワトク)のリニューアルプロジェクトが進み、2025年3月に全館改装計画の総仕上げとして、ISAI PARKがオープンしました。

川徳(パルクアベニュー・カワトク)を描いた作品
(Photo:CURBON)

2年前に川徳の経営者が変わったのち、ヘラルボニーの双子の代表のひとり、松田文登(まつだふみと)と話をされたなかで、ヘラルボニーがリニューアル後にメインとなる1階を使わせていただけることになったんです。百貨店といえば、流行のものや最新のものを取り入れるのが当たり前の存在でしたが、川徳百貨店の経営陣の方には「もっとカルチャーを推し進めていけるようなブランドを入れていきたい」という想いがあったようです。そうしたとき、本社が盛岡市にあるヘラルボニーが想起されるのは自然なことだったと聞きました。新しいものであれば、東京に行けば出会える。しかし、地域だからこそのブランドをきちんとセレクトするのは、地元資本の百貨店にしかできないんじゃないかという考えもおありだったようです。

これはすごいことなんですよ。45年前にオープンした当初、1階のこの場所に入ったのは資生堂パーラーさんで、その後もアパレルやカフェのお店が22年間この場所を守ってきたという流れがあります。その次がヘラルボニーで、はじめて地元資本の会社が入ることになったんです。すごく意味があることなのではないかなと思っています。ISAI PARKオープンに先駆けた2025年1月、私はISAI PARKコミュニティ-マネージャーに就任しました。

オープン前に出したコピーは、「ちがいは、いろどり。」。未来を可視化した公園を目指し、「ISAI PARK」と付けました。場所自体は百貨店の1階にあり、カフェダイニングバーやギャラリーがある、ヘラルボニーの店舗となります。そのため、「STORE」のほうがしっくりくると思われる方もいるでしょう。「STORE」ではなく「PARK」にしたのは、公園とすることで、いろいろな方が来て大丈夫な場所であることを伝えたかったからなんです。

公園って、基本的には24時間365日出入り自由な寛容な場所ですよね。その「誰でも大丈夫」を名称から伝えたかったんです。また、川徳百貨店があるエリアは、江戸時代、南部藩が野菜を栽培していたエリアでもあるという歴史的背景があります。「ISAI PARK」と名付けることで、来てくださる方が体験できる場所になったらいいな。そんな想いも込められています。

私の役目は、コミュニティーマネージャーとしていろいろな方をコネクトしていくこと。今は月に1度、夜に音楽イベントのマネジメントをしています。店内にDJブースがあり、カワトク閉店後にDJの方に来てもらって開催しているんです。あとは、店の外の空き地を使ってマルシェを開くなど、地域の方を巻き込みながら文化、カルチャーをつくるのが今の私の主なミッションとなっています。

(提供:株式会社ヘラルボニー)

ありがたいことに、ISAI PARKには県内外いろいろな地域の方にお越しいただいています。岩手県内の方からは、「ここにお店があって良かった」「岩手にヘラルボニーがあることが誇り」というニュアンスのお言葉をいただくこともあり、うれしく思っています。大谷翔平さんの次の次の次くらいには、「岩手県民として応援したい」と思っていただけているんじゃないかな(笑)。

県外のヘラルボニーファンの方が「ヘラルボニーの店があるから」とお越しいただくこともあります。でも、せっかく来てくださるなら、ISAI PARKだけではなく他の素敵な場所、人にも出会ってほしい。そこで、カワトクやヘラルボニーが最終目的地にならないよう、場所紹介カードを用意し、トリップできる仕組みをつくりました。そのカードで別の店に行き、そこで会話が生まれたり、友達になれたり。そんなつながりがヘラルボニーを通じて、いやむしろヘラルボニー関係なく生まれていったらいいなと思って。地域のハブのように、ISAI PARKという場所から体験を提供できたらと思っています。

(Photo:CURBON)

ISAI PARKの外には、ベンチや椅子を新たに造作しました。目の前にはバス停があり、人々が待ちあう場所として活用されています。ダウン症の方のご家族からは、「これまでは百貨店は敷居が高く、行きづらい場所だったんです」というお言葉もいただきました。「うるさくしてしまうと良くないのでは」「走ってしまったら迷惑なのではないか」という不安があったそうです。公園と名付けたことで、そうした方たちも自然といられる雰囲気をつくれているのかなと思っています。

カフェでは障害のある方が働いていて、もしかしたら「ヘラルボニーだから」許容されている部分もあるのかもしれませんが、障害のある方が働いている姿が溶け込んだカフェを運営できているんじゃないかと感じています。いろいろな方が自然とそこにいる光景をつくれていたらうれしいですね。実験的ではありますが、こうした取り組みが社会の変化につながっていく部分もあるかもしれません。

ISAI PARKができたことで、訪れる企業の方をご案内できる場所ができたことも大きいですね。これまでは本社ギャラリーしかなかったところ、ISAI PARKができたことで、いろいろなお話や体験をしていただけるようになったんです。場所ができたことで、いろいろなことが最大化できるようになったと思っています。

(Photo:CURBON)

今はまだ、
世界を変革する道の途中

ISAI PARKはビジネスですから、成長やインパクトが必要です。理想を語りながらも、売上や来客数といった数値的な目標もしっかり達成していきたいですね。そのためにも、イベントや企画を考えながらチームみんなで走っていきたいです。

カルチャーづくりは、数年ではできません。続けていける状態をいかにつくっていくかが重要で、自分自身やメンバーのコンディションを保つことが大切です。いかに働きやすい職場にするかを考え続けたいですね。「会社に来たくて、階段を飛ばしてきちゃいました!」と言える会社が理想です。

私がやりたいのは、まず岩手県で宿泊施設や福祉施設をつくること。障害の有無を問わず、多様な価値観を持つ多様な人々が過ごせる施設づくりに挑戦したいんですよね。福祉が根幹にある組織として、そういった事業もできたらいいなという個人的な想いがあります。あとは、岩手県で実践した取り組みを他地域に広げていくことにも関心があります。世田谷区や鎌倉市などとの取り組みは東京メンバーがやっていたりもするのですが、地域に溶け込んだ状態まで手が回っているものはあまりないんですよね。

特に、ヘラルボニーが契約している作家さんがいらっしゃるエリアで何かできないかなと思っています。ヘラルボニーの社員には、それぞれ担当している作家さんがいるんです。ある作家さんの作品を使った取り組みをしたい場合は、その担当社員を通すことになっているため、東京・岩手の垣根関係なくやり取りする機会があるんですよ。距離はありますが、週に1度は全社会議がありますし、出張もあるため、割と顔を合わせていると思います。

会社としても私個人としても、まだまだこれから。同志なのか、はたまた「共犯者」なのか、プロダクトや作家を通じて出会った方たちの行動がどう変わっていくのかを意識していく必要があると思っています。同志や「共犯者」と表現しているのは、ヘラルボニーのプロダクトを買ってくださるお客さんと、単なる「売り手」「買い手」に留まらない関係性を築きたいと考えているためです。プロダクトは、「買って終わり」ではなく、買ってくださった方との出会いの起点。プロダクトは、ブランドが思想を届けるための触媒であるという考え方は、私の古巣であるパタゴニアなど、思想性のあるブランドに共通するものだと思っています。

プロダクトが終点ではなく出会いの起点であるならば、ヘラルボニーのシャツを買った方が、「このシャツを着て出かけよう」というとき、その方がどういう気持ちで身にまとってくださっているのかまで理解する必要が、私たちブランドにはある。ブランドの想いに共鳴する方が増えれば、その想いを言葉にする口も、行動もおのずと増えます。そうすれば、SNSでのバズやシェアといった表層的な広がりより、もっと濃いものが広がっていくでしょう。私たちは、人の内側から湧き出る行動を信じています。そうした行動から生まれた深く濃い共感の連鎖は、マーケティングにより広げられたものとは異なるでしょう。大きなムーブメントを生むためにも、草の根の活動を大切にしたい。そう思っています。

私は今、盛岡市という地域からカルチャーをつくるというミッション実現のためにがんばっているところです。ただ、そのミッションをひとりで達成することはできません。いろいろな方に協力してもらいながら実現するものだと思っています。

私が人と関わるときに意識しているのは、相手の想いを聞くこと。地域活動をする際、「風の人」「土の人」といった表現をされることがあるんですね。風の人は通り過ぎていく立場だからこそ、好き勝手言える力を持っています。一方、土の人はその土地に根を張って耕しているからこそ、その土地にいろいろな想いを持っている。「自分が風だから」「この方は土だから」と過度に意識しているわけではありませんが、何かをしたり、誰かと誰かをコネクトしたりするときには、その方の想いを聞いたうえで進めたほうが良い付き合いができるんじゃないかと思っています。とはいえ、割と無邪気にいろいろなことを言うタイプではあるんですけどね(笑)。

タフな仕事ではありますが、実現できた暁には、未来が明るくなっていくはずだ、幸せな社会をつくっていけるはずだと信じています。ヘラルボニーでは宮沢賢治の「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という考え方を大切にしているんですが、まさしくその通りだと私自身も思っています。個人が幸せになるためには、まず世界を何とかしなければならない。これからも、私たちは一滴一滴、雫を垂らして波紋を少しずつ広げていきます。そうした活動に興味がある方がいらっしゃれば、ぜひヘラルボニーの扉を叩いてみてください。そんな方と一緒に働けるとうれしいです。

(Photo:CURBON)

ー おわりに ー

こうした会社の顔ともなるようなお話は、一般的に代表の方がされる印象が強いものです。ですが事前に、広報の方から「ヘラルボニーでは、誰でも同じように会社のビジョンやカルチャーについて語れる」と伺っており、その言葉通り、木村さんご自身の想いを乗せたうえで、ヘラルボニーという組織の想いをたっぷりと伺うことができました。個人主義が強まる流れをひしひしと感じる昨今、「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という想いのもと、活動を続ける木村さんたちヘラルボニー。共感を覚えた方は、ぜひヘラルボニーにコンタクトを取ってみてください。

PROFILE

木村芳兼(きむらよしかね)
株式会社ヘラルボニー
ISAI PARKコミュニティーマネージャー

神奈川県大和市出身。文化服装学院卒業後、27歳でパタゴニアに入社。10年間の勤務を経て、地域おこし協力隊として秋田県に移住。社会福祉法人での経験を経て、2023年にヘラルボニーに入社。岩手事業部シニアマネージャーを経て、2025年1月にISAI PARK コミュニティーマネージャーへ就任。現在は秋田県在住で盛岡本社に勤務。

株式会社ヘラルボニー:https://www.heralbony.jp/
ISAI PARK:https://isaipark.heralbony.com/

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