地域資本主義に目を向ける
<新たな挑戦の地は沖縄>

〜thincなひと・カヤック代表 柳澤大輔さん×沖縄県〜

2002年より、神奈川県鎌倉市を拠点に地域資本主義を基盤としたマチづくりに挑んできた面白法人カヤック(株式会社カヤック)。その経験を活かして、別の地域でも経済活動をしています。後編でお話を伺ったのは、沖縄県での取り組みです。すでに子会社があったなか、2024年2月に第2本社を設立した沖縄県での取り組みについて、カヤック代表取締役CEOであり、同年4月に琉球フットボールクラブ株式会社の代表取締役社長に就任した柳澤大輔(やなさわだいすけ)さんに伺いました。

スポーツチームの経営という
新たな挑戦

カヤックは、2024年2月に沖縄に第2本社を設立し、Jリーグ加盟のプロサッカークラブ、FC琉球OKINAWA(以下、FC琉球)の経営に参画しました。きっかけはM&A仲介会社からの提案です。以前より鎌倉以外でも地域に根付いた経済活動をしたいと思い、地域を探して動いていたこと、沖縄にはすでに子会社が2社あったこと、創業者のひとりの出身地であることなど、複数のご縁が重なりスタートすることにしました。

スポーツチームは地元のハブになるような存在なので、もし鎌倉にあったらやったでしょうし、やったほうがいいと思うんですよ。本来は地元に根付いた事業をしっかりと築いたうえで、スポーツチームという順序かもしれませんが、先にチームがあってもいいのかなという想いで始動させました。そこから沖縄の子会社を伸ばしたり、沖縄でのCVC活動を本格化していこうというのが当初の構想でした。

ただ、サッカーチームの経営が予想以上に困難で、まずはその立て直しに注力しているのが現状です。地域になくてはならない存在なので、責任を持って立て直し、沖縄に貢献する事業を増やしていこうと思っています。

取り組みはじめて1年ほど経って思うのは、スポーツ事業とカヤックの持つエンターテインメント性の相性の良さですね。すでに面白い企画をいくつも行っていまして、ファンの方に喜んでもらえました。ハブとしての役割を果たすには他の事業との連携が必要ですが、スポーツチームとしてファンに喜んでいただける企画や集客につながる施策、スポンサーに面白いと言っていただけるスポンサー企画やグッズの提案、イベントなどは、カヤックの企画力を活かせる相性の良い取り組みだと感じています。

そのうちの一例が、マスコットキャラ「ジンベーニョ」です。Jリーグの中でもかなり人気を集めるキャラクターに成長したんですよ。「ジンベーニョをもっと推そう」という話になり、キャラクターの性格設定を一新。SNSでの発信を強化した結果、2024年には1年でJリーグ全60クラブ中、フォロワー増加数で1位を獲得しました。沖縄県のローカル番組を冠番組として持つようになり、ラッパーデビューを果たし、公式サイトを持ち、公式Xもはじめました。Xをやっているキャラクターは多いですが、公式サイトまで持っているキャラクターは珍しいんですよ。

FC琉球のマスコット・ジンベーニョ(提供:FC琉球OKINAWA)

グッズの取り扱い店舗数も増えました。当初はスタジアムと3店舗のみでしたが、現在は15店舗まで増加。東京にある沖縄県のショップでも取り扱うようになりました。そこまで広がると、サッカーファン以外の方からも人気になるんですよね。また、Jリーグの他チームのマスコットキャラクターファンからも注目されるようになります。「ジンベーニョ『くまモン化』計画」と呼びながら、地域の代表的キャラクターに育てていけるという手ごたえを感じているところです。

キャラクター事業が上手くいくと、単純にグッズの収益が上がるようになるため、チームの経営基盤を安定させることにもつながります。さらに、人気キャラクターがいれば、スポンサー企業に対してもコラボ企画など具体的な提案がしやすくなるんです。これまでは、「地域のためにお願いします」という想いベースの営業になってしまいがちでしたが、今では「これだけのフォロワーがいます」とスポンサー企業側へのメリットも提示できるようになるのが大きい。これまでその企業を知らなかった層に知っていただけるきっかけづくりにもなるんです。

FC琉球以外では、沖縄の工芸品セレクトショップ「Dear Okinawa,」という事業を行っており、沖縄県の名産品、クリエイターの工芸品を発掘し、那覇空港内のショップで販売しています。こちらも広げていきたいですね。カヤックが得意とする力を活かして、まだまだ事業を生み出せるのではないかと思っています。

常に「異質な側」としてやってきた

沖縄県に「支社」ではなく「第2本社」として本社を置いたのは、それだけ沖縄に本気でコミットしたいという想いを形に表したかったためです。やはり、支社ですと一時的な腰掛けのように見えてしまいますからね。

どうしても、外からやってきた企業という立場上、最初は「この土地にどう関わってくれるのだろう」という目で見られることがあります。それは沖縄に限らず、鎌倉でも同じでした。沖縄と鎌倉は、どちらも観光客や移住者が多く、多様な人々を受け入れてきた背景があります。とはいえ、地域にはその土地ならではの文化や人と人とのつながりの深さがあり、外からきた私たちがすぐに馴染めるというわけではありません。実際、私たちも鎌倉での活動を地道に続け、保育園など地域に根差した事業を展開し、社員が現地に住んでマチの取り組みに参加することで、少しずつ受け入れていただけるようになったと感じています。沖縄でも、そうしたプロセスを丁寧に積み重ねていくことが大切だと思っています。

FC琉球のように地元との関係が大切な仕事においては、やはり地元出身のスタッフの方が、よりスムーズに関係性を築ける場面もあると感じます。同郷に親近感を持つのはどの土地でも同じで、沖縄は特に、人とのつながりを重んじる文化を育んできたからこそなのかもしれません。ただ、僕はそういったことはあまり気にしていないですね。そもそも香港出身の帰国子女だからか、どこにいても異質な側に立っているという感覚があって。鎌倉出身でなくても鎌倉でやってきたわけで、たとえ異質な者として扱われたとしても、それを排他的だとネガティブに捉えることがないのかもしれません。

そもそもカヤックという会社自体、「よく面白法人と言えますね」と言われてスタートしている恥ずかしいネーミングの会社ですしね(笑)。今でこそ「尖っているね」と言われることもありますが、当初は「寒い」と言われることもありました。でも、当時からそれも気にしていませんでしたね。何かを言われたところで、相手を嫌いになることはないです。これは僕以上に残り2人の創業仲間のほうがそうかもしれません。2人には、誰かを嫌う概念がないのではないかな。3人ともタイプはバラバラなのですが、そこは共通しているからこそ、こうして進んでこられたのかもしれません。

(Photo:Hajime Kino)

「マチに関わりたい」人たちと
一緒に世界を広げたい

鎌倉でも沖縄でも、取り組みの話を通じて「地域資本主義とは何ぞや」をロジカルに言語化してきました。ただ、改めて思うのは、地域資本主義という言葉自体、もっとシンプルな感覚から生まれているということです。たとえば、日常で、「ここの景色が好きだから住みたいな」とか、「この人、なんか面白いから関わりたいな」と感じたりすること。そうした気持ちの延長線上に、もう少しマチに関わったり、マチづくりに参加したり、自分の住んでいる地域に愛着を持ったりして。それが単純に楽しいし幸せだという感覚を言葉にしただけなんですよ。

逆に、この感覚がまったくない人には、そもそも地域資本主義の話は響かないでしょうし、今回の僕の話にも興味が湧かないかもしれません。何となくわかるかもと共感いただける方は、すでに何かしら動かれているのではないかとも思っています。であれば、きっと何か接点があるのではないかなと。

そういう感覚が共有できる人たちと一緒に、より世界を広げ、より良くしていくことができればなと思っています。ぜひ何か一緒にできることがあれば、声をかけてもらえるとうれしいです。

カヤックの柳澤としては、今はFC琉球のJ2昇格が目下の目標ですね。私はいつも何かにどっぷり浸かって取り組むタイプなのですが、スポーツチームの経営にどっぷり浸かることで得られるものから、経営者としての力も磨かれる手ごたえがあります。スポーツは好きなものの、特別サッカーが好きだったわけもなく、「いつかサッカーチームを経営したい」と夢見ていたわけでもないのですが、いざ飛び込んでみると、沼のような魅力ある事業だなと。マチづくりも実は同じで、別に「絶対にやってやるぞ」というところからスタートしたわけではないんですよね。でも、やるからにはしっかりやりたい。

繰り返しになりますが、カヤックが今、上場企業としての今後を左右する分岐点に立っていることは間違いありません。これからも上場企業としての役目を果たせるよう、地域資本主義にどっぷり浸かって事業に取り組んでいきたいです。

(Photo:Hajime Kino)

ー おわりに ー

ひとつひとつの質問に対し、じっくり考え、丁寧に言葉を紡ぎ出す口調が印象的だった柳澤さん。一方で、やりたいことに対して語るときに宿る熱さも印象的でした。「まちのコイン」をはじめたのは、当時の株主総会でアイデアを熱く語ったところ、「柳澤さんがやればいい」と言われたことが背景にあります。その結果、誰よりも地域通貨に詳しいと自負するまでになりました。今はFC琉球をはじめ、沖縄県での事業に「どっぷり浸かっている」柳澤さんが、次に得るものは何でしょうか。地域資本主義のもと、次に取り組む挑戦も楽しみです。

PROFILE

柳澤大輔(やなさわだいすけ)

面白法人カヤック 代表取締役CEO
琉球フットボールクラブ株式会社 代表取締役社長

1974年香港生まれ。1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリや広告制作などのコンテンツを数多く発信。カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(2012年)をはじめ多数のWeb広告賞の審査員や、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議構成員(2021年〜2024年)を務める。2024年、FC琉球を運営する琉球フットボールクラブ株式会社の代表取締役に就任。沖縄県内に第2本社「面白法人カヤック沖縄本社」を設立し、FC琉球のJ2昇格を目指して挑戦中。

面白法人カヤック:https://www.kayac.com/

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