断らないから、仕事が広がる
<作品愛が自信をつくる>

〜thincなひと・いちごとまるがおさん 小菅慶子さん×栃木県佐野市〜

さのまる©佐野市(※佐野市役所にてブランドキャラクターのさのまると撮影)

栃木県佐野市の姉妹クリエイターユニット「いちごとまるがおさん」。姉である小菅慶子(こすげけいこ)さんは、デザイナー業から仕事の幅を広げ、現在はご当地マンガ『負けるな!ギョーザランド!!』の執筆も手掛けています。「栃木県のクリエイター」としての広がり、またひとりのクリエイターとして大切にしているスタンスについて伺いました。

地元企業×ギョーザランド
双方に利のあるコラボを

『負けるな!ギョーザランド!!』は、県外の方からも「おもしろいですね」と反響をいただいています。これはマンガという媒体だからこそなのかなとも思いますね。何かのきっかけとして、マンガは最適なツールなんだろうなと。ただ、これがPRマンガだったらこうはならなかったでしょう。栃木県の良さを押し売りするのではなく、土地神さまが都道府県の魅力度ランキングで争っているという設定のもと、面白おかしく紹介していることが、エンターテインメントとして楽しんで読んでもらえる作品になっているのだと思います。

都道府県の魅力度ランキングは実際にもあるもので、見聞きしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、実は栃木県、最近少し上がってきちゃっているんです(笑)。『負けるな!ギョーザランド!!』はランクを上げようとチャオズががんばっているストーリーなので、担当編集者さんとは「あんまり上がりすぎるのもね」と冗談交じりに話しています。上がるのは栃木県としては良いことなんですけどね。

読んで喜んでくれたり興味を持っていただけたりするだけではなく、『負けるな!ギョーザランド!!』をきっかけに、栃木県に足を運んでくださる方が出てきてくださるとうれしいなと思っています。実際の場所が出てくるマンガやアニメのファンが、その場所を訪れる聖地巡礼を、『負けるな!ギョーザランド!!』でもしてほしいですね。マンガの舞台を巡るツアーが生まれたら…とひそかに思っています。

栃木県のクリエイターとして戦略立てて打ち出してきたわけではありませんでしたが、『負けるな!ギョーザランド!!』の経験を経て、「栃木県佐野市のマンガ家」であることが強みにもなるのだと思うようになりました。

栃木県のクリエイターとして、地元企業と『負けるな!ギョーザランド!!』とのコラボレーションも行っています。印象に残っている事例のひとつが、「佐野黒から揚げ」とのコラボです。『負けるな!ギョーザランド!!』の描きおろしを描いたところ、大きなポップに仕立てていただき、イベント時に飾ってくださいました。その後は、イオンスタイル佐野新都市にある黒から揚げ売り場に常設してくださっていて、小学生から「見ました!イオンに置いてありますよね」と言ってもらったこともあります。イオンは佐野市民にとってなじみ深い場所なので、より多くの方に見てもらえる機会が増えましたね。

ちなみに、「地元を打ち出してクリエイター活動をしはじめたから、企業から声がかかるようになった」というわけではありません。コラボレーションは自分から持ち掛けることがほとんどなんですよ。これも県民性なんでしょうか、話に行くと「お声をかけていただけるのを待ってました、ぜひやりましょう!」と話が進むことが多くて。「コラボしたいな」という想いを秘めているのに、言ってきてくれない方が多い(笑)。本当に奥ゆかしいのが栃木の県民性なんだなと思いますね。

なお、コラボ活動をはじめた当初は、無償でやったものもあります。これはコラボが互いのPRになると思ってのこと。実績をSNSで発信していて、それを見た知らない方からコラボの打診が入ることもあるので、無償でも自分のPRやご当地への貢献ができたらいいかなと思っています。ただ、原稿料以外の収入にもつながるとうれしいですね。やりたいなと思っているのは、アパレルグッズなど、キャラクターイラストを使ったグッズ展開です。

(Photo:CURBON)

市長の推薦を受け
「とちぎ未来大使」に

2024年に「とちぎ未来大使」に任命され、この春から正式に活動がスタートします。未来大使は在住市町村の推薦を経て任命されるものです。私は佐野市のクリエイターとしてではなく、単に市民としてよく市の主催イベントに顔を出したりボランティア活動に顔を出したりしていました。その際に自分の仕事の話をしたことがあり、後日、それを思い出した役所の方から市の仕事を受けるようになったんです。

あるとき、調べ物をしているなかで偶然「とちぎ未来大使」という肩書を知りました。私が未来大使になれれば、『負けるな!ギョーザランド!!』のPRにつなげられるのではと思い、詳しく調べてみたところ、市長の推薦が必要だとわかりました。すでに市役所とはなじみがあったので、思い切って推薦をお願いしてみたんです。

ドキドキしながら返事を待っていると、「ぜひ推薦しましょう」と快い返事をいただきました。推薦をいただいてからはとんとん拍子に話が進み、県庁での正式な手続きを経て、とちぎ未来大使に任命されました。小中高の依頼を受けて登壇するのが現時点での活動のメインで、佐野市で栃木県のマンガを描いているクリエイターとして話をしに行っています。学生に向けて話をするのは、職業訓練校などでの講師の仕事で経験しているのですが、準備をしないと緊張してしまうため、きちんと事前準備をするようにしていますね。子どもたちに、栃木県にはおもしろいところがあると伝えたいですし、『負けるな!ギョーザランド!!』を読んでもらいたいなと思っています。

栃木県をはじめ、いろいろなイベントにも参加しています。ただ、現時点では未来大使としての依頼よりも「いちごとまるがおさん」の小菅としての依頼が大半を占めています。イベントに出るのも、栃木県や『負けるな!ギョーザランド!!』を知ってもらいたいという想いがモチベーションなんです。先日、いちご王国マルシェに参加して、似顔絵を描いたりグッズを売ったりしたのですが、来場者から「栃木県にマンガ家さんっているんですね」と声をかけていただいたんです。「そこからか…!」と思いましたね。知ってもらうためには、まだまだ外に出ていく必要があるなと思います。ネットでも営業活動はできますが、リアルの場でしか出会えない人もいるので。

SNS運用が苦手でも
実績はとにかく発信すること

栃木県民は積極的に前に出るタイプの人が多いわけではないと感じています。しかし、個人事業主として独立したことで、「待っているだけではダメだ」と思うようになりました。妹の代わりに営業をするなど、自分で仕事を取りに行く努力をしてきましたが、決して得意なわけではないんです。ただ、シンプルに人に作品を見てもらって、作品の話をするのは好きなんですね。

感想をもらうのも好きなので、営業のモチベーションは「私の作品を見てくれー!」に尽きます。見てもらえたら、絶対におもしろいはずなので。もちろん批判をいただくこともありますが、それでメンタルの調子を崩すことはないです。「そういう見方もあるんだ」とひとつの意見としておもしろく受け止めるようにしています。むしろ「そんなわけない、ここの部分まで読み切ってくれましたか?」と反論したくなることすらあるくらい、自分の作品を愛していますね。

今はネットをきっかけに活動の幅が広がるクリエイターも多く、SNSの活用も重要になっていますが、私自身はまだまだ下手だと感じています。独立時、当時1番盛り上がっていたFacebookをはじめて、次にTwitter(現X)を開設しましたが、上手く運用できているとは思っていません。ただ、とりあえず発信だけは止めないようにしています。

面倒くさがって投稿しないクリエイターさんもいらっしゃるのですが、発信だけはしておくのがいいんじゃないかなと思います。それが仕事につながるかはわかりませんが、出した実績を見てくれている方はいます。そこから問い合わせをもらったこともあるので、出すのは無駄じゃないなと。ポートフォリオを見たうえでのお問い合わせは、作風も理解してくださったうえでのものになるので、齟齬が生まれにくいのも利点です。

そして、私の基本のスタンスは「きた仕事は断らない」。これはフリーだからこそですよね。いつ依頼がなくなるかわからないのがフリーの身であり、仕事があることはありがたいこと。依頼いただけること自体がモチベーションになりますし、「頼みたい」という申し出を断るのは申し訳ないと思っています。やったことがないような仕事でも、それが次の仕事につながることもありますしね。仕事なのでお金の話も出てくるわけですが、幸い単価が著しく合わない話をいただいたことはありません。価格面はクオリティ管理で見合った仕事に調整することもできるので、単価を理由に断ることも今のところないです。

自分の作品を愛することが
折れないメンタルの秘訣

声をかけていただいたことでマンガ制作をはじめ、『負けるな!ギョーザランド!!』につながり、それが2025年夏に朗読劇として上映されることが決定しました。体験型の朗読劇になるそうで、食べ物が出てくるシーンではにおいを感じられるらしいんです。朗読劇そのものにあまり触れてこなかったので、当日になるまでどうなるのか想像がつかず、私自身も非常に楽しみにしています。

朗読劇の取り組みは、私にとって他のクリエイターの方との初の協同プロジェクトでもあります。オリジナルストーリーになるため、台本は脚本家の方が書き下ろしてくださいました。こちらの要望は「マンガの世界観を残したままにしてほしい」。世界観やキャラクターを守ってもらえれば、あとは好きにしていただいていいとお伝えしています。具体的にいうと、土地神さまたちのコミカルなやり取りですね。原作は説明的なところが多いのですが、朗読劇の物語としておもしろくなるよう、脚本家の方があえて説明を減らしてくれました。朗読劇は「生もの」なので、観客をいかに飽きさせないかが重要なのだそうです。このように、マンガではない表現手法ならではの変更については、脚本家の方を信頼してお任せしました。

クリエイター同士でリスペクトし合っているので、空気が悪くなることはありません。不安や悩みを分かち合えるのも良いですね。皆さん、すごく戦略的に仕事をされているなと感じているのですが、そこまで深く聞けてはいません。手の内は明かしたくないでしょうしね(笑)。

先日、キャラクターに命を吹き込む朗読劇のキャストオーディションの募集が行われ、これからキャストを決定します。 私も審査員として参加したのですが、おもしろい人たちが集まっていて、非常にわくわくしました。キャストの決定も楽しみです。

これからも引き続き、断らずにクリエイターとして粛々と仕事をやっていきたい気持ちに変わりはありません。そのうえで、やっていて1番楽しいコンテンツである『負けるな!ギョーザランド!!』の活動を広げていけたらなと思っています。グッズ展開のほか、最近よく口にしている夢は、実写ドラマ化です。いつか実現させたいですね。

朗読劇を通じて、ほかのクリエイターさんたちと話すなかで、今は本当にクリエイターが岐路に立たされている時代なんだなと感じています。AIが進化し「自分の仕事が奪われるのではないか」と不安を抱える方も少なくありません。しかし、AIがもっと発達しても生き残れるよう、新しいものを過度に怖がらずに上手く取り入れていきたいなというのが私の想いです。そうした実績を公開し、次の仕事につなげていけたらいいですよね。

インターネットやSNSの発達も、クリエイターにとって良し悪しがあることです。インターネット上に作品を出すことは、露出を広げられるチャンスがある一方、心無い言葉をぶつけられてしまうおそれもあります。ネガティブな言葉を投げつけられたことで、クリエイティブ活動ができなくなってしまったという方もいるでしょう。

私としては、愛すべき作品を生み出したことに自信を持てば、どれだけアンチが増えても折れないメンタルを手に入れられるのではないかと思っています。生み出した作品、キャラクターは我が子です。その作品愛をぶらさないことを心がけてください。その愛がモチベ―ションになるでしょうし、嫌なことを乗り越える力になるでしょう。アンチが怖くて活動できなくなるのはもったいないです。ぜひ、あなたの生み出した作品を、あなた自身が末永く愛してあげてください。

(Photo:CURBON)

ー おわりに ー

戦略を練って営業活動をしてきたわけではなく、「実績は公開する」「依頼は断らない」のスタンスで仕事を広げてきた小菅さん。常に仕事のことが頭にあるのではなく、「人が集まらなくて困っている」と聞いたボランティア活動に「時間が空いているから」と参加するなど、日ごろからの社会参加が巡り巡って新たな仕事のきっかけになったことがあるなど、肩の力を抜いた自然体のままで仕事のご縁をつかんでいることが印象的でした。モチベーションのコントロールなど、クリエイターの方にとってヒントがたくさんあるお話だったのではないでしょうか。

PROFILE

小菅慶子(こすげけいこ)

1985年栃木県生まれ。栃木県立足利工業高等学校 産業デザイン科を卒業後、日本電子専門学校コンピュータグラフィックス科を卒業。東京都や栃木県内の会社でグラフィックデザイナーとして経験を積んだのち、2014年、妹と共にクリエイターユニット「いちごとまるがおさん」を結成。デザイナーの仕事の他、ご当地マンガ『負けるな!ギョーザランド!!』の執筆、講師業なども手掛ける。2024年4月より栃木県より「とちぎ未来大使」の任命を受け、登壇活動などにも取り組む。

いちごとまるがおさん:https://itigotomarugao.jp/
負けるな!ギョーザランド!!:https://shosetsu-maru.com/yomimono/comic/gyoza_land

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