新潟Uターンで確信。エディトリアルの俯瞰力と信頼

〜thincなひと・デザイナー滝本理恵さん×新潟県〜

東京で実績を重ね、新潟へUターンしたデザイナーの滝本理恵(たきもとりえ)さん。「東京を離れたら仕事がなくなる」という移住当初の不安は、丁寧な仕事で培った信頼や口コミの広がりに加え、オンライン化の普及でどこでも変わらず働けると実感できたことで解消されていきました。

異業種からデザインの世界へと飛び込み、エディトリアル畑で培った「情報を編集・整理する力」と「言葉で歩み寄る対話術」を武器に、現在はWebデザインから書籍執筆など、しなやかに領域を広げ、さらにはプロデュースといった「デザインプラスアルファ」の展開にも意欲を覗かせています。

出産や環境の変化を経て辿り着いたのは、「あえて厳密な計画に縛られず、予測不能な変化すらも余白として楽しむ」という生き方。AIや最新ツールとも軽やかに共存しながら、クライアントに寄り添い続ける滝本さんのクリエイティブ術と、柔軟に道を開いてきたキャリアの歩みに迫ります。

目次
  1. 01 別分野の学びからデザインの世界へ
  2. 02 新潟Uターンのリアル
  3. 03 エディトリアルで培った編集力をWebデザインや書籍の執筆に活かす
  4. 04 予期せぬ変化を楽しむこれからの展望

別分野の学びからデザインの世界へ

偶然の出会いではじまるキャリア

新潟から上京した18歳の頃、わたしはクリエイティブとは別の道に進みました。クリエイティブへの強い興味やあこがれを抱きつつも、「クリエイターは一握りの天才やアーティストの世界」と思い込み、一度は別の道を選択したのです。

転機は学生時代、テレビ番組で目にした、とあるプロダクトデザイナーの特集でした。「デザインはアートではなく、課題解決のプロセスである」。その制作プロセスと意図に触れた瞬間、「自分にもできるかもしれない」と一念発起。デザインの専門学校へ進み、グラフィックデザインの基礎を学びはじめました。

MYOKO BASE CAMPで撮影したthinc Journal取材時の滝本理恵さん
MYOKO BASE CAMP (新潟県妙高市テレワーク研修交流施設)にて撮影
(Photo:Takashi Gomi)

洞察力を育んだデッサンと
多様な現場で手に入れた広い視野

専門学校で取り組んだひとつが「デッサン」です。「絵を描く仕事ではないのに」と当時は戸惑いましたが、白黒の鉛筆一本で光と影を捉え、限られた時間の中で対象をあらゆる角度から観察するトレーニングは、予期せぬ財産となりました。そこで培われた「物事を俯瞰し、さまざまな角度から観察する洞察力と集中力」こそが、現在のクライアントワークにおける客観的で緻密なコミュニケーションの強固な土台となっています。

卒業後は小さなデザイン事務所を経て、エディトリアル(書籍・雑誌デザイン)の世界へ。しかし実務ゼロからの挑戦は想像以上に厳しく、ハードワークの中で情熱を見失い、環境を変えるために美術制作の現場へ身を投じた時期もありました。

当時は必死でしたが、グラフィックデザインとは一見無関係に思える、立体的なものづくりの現場で得た「空間を捉える視野」や「現場感」が、巡り巡って今のクライアントワークに活きているのだと実感しています。

MYOKO BASE CAMPで撮影したthinc Journal取材時の滝本理恵さん
(Photo:Takashi Gomi)

新潟Uターンのリアル

二拠点の不安を越えて
広がっていった地域のご縁

都内の会社で約7年間、書籍や雑誌を中心に実績を重ねた後、出産を機にフリーランスへとシフトし故郷の新潟へとUターンしました。移住を検討する多くのクリエイターが直面するのが、「都市部を離れたら仕事がなくなるのではないか」という漠然とした恐怖です。わたしも例外ではなく、当初は東京にレンタルオフィスを借り、二拠点生活を計画していました。

しかし、生活をはじめてみると、コロナ禍によるオンラインツールの定着で、東京のクライアントからの案件は環境が変わっても途切れることなく継続できました。さらに、同じくUターンした幼馴染の美容室立ち上げを支援し、ロゴ、ショップカード、Webまでトータルで手掛けたことをきっかけに、「誰々の紹介で」と地域でのご縁が自然と広がっていったのです。

MYOKO BASE CAMPで撮影したthinc Journal取材時の滝本理恵さん
(Photo:Takashi Gomi)

地域ビジネスの核にある
口コミと信頼を丁寧につなぐ

地元の工務店の案件に携わった際も、多くのお客様が「口コミや紹介」で来店している実態を知り、地域ほど「人との信頼関係」がビジネスの核にあると実感しました。

特別な営業活動を行ったわけではありません。意識したのは「目の前の一つひとつの仕事を、丁寧に、責任を持ってやり切る」という極めてシンプルなスタンスです。案件が重なっても質を落とさないようオンオフの切り替えを徹底し、クライアントの期待を少し超える提案を積み重ねる。その誠実な姿勢が確かな信頼となり、自ずと次の仕事を引き寄せる良い循環を生み出しています。

エディトリアルで培った編集力を
Webデザインや書籍の執筆に活かす

イメージの言語化で想いを可視化

紙からWeb、自著の執筆まで経験へと表現の場を広げる中で、自身の強みの根底にはエディトリアルで培った「編集力」と「構成力」があると実感しています。

制作の現場でわたしが最も大切にしているのが、「イメージの言語化」です。クライアントからいただく「もっとおしゃれに」「親しみやすく」といった言葉の奥には、大切にしたい想いや漠然とした理想が必ず眠っています。けれど、それを適切なデザイン用語に変換できず、もどかしさを抱えている方が実に多いのです。抽象的なイメージのまま走り出してしまうと、途中で認識のズレが生まれ、お互いが苦しくなってしまいます。

だからこそわたしは、相手の想いを汲み取り、マインドマップや言葉で図解しながら頭の中を一緒に整理していく姿勢を大切にしています。「それも素敵ですね」と一度受け止めた上で、「この課題を解決するなら、こんな見せ方もありますよ」と多角的な視点を提示し、ともに納得のいく着地点を探っていく。単に綺麗な画面を作るのではなく、相手の心にどこまでも寄り添い、想いを可視化していく——。そんな日々の伴走のプロセスを体系化したことが、著書『言葉をイメージに変える ひらめきデザインひき出し帖』の出版企画へ繋がりました。

MYOKO BASE CAMPに展示されている滝本理恵さん執筆の書籍「言葉をイメージに変える ひらめきデザインひき出し帖」
滝本理恵さんが執筆されている『言葉をイメージに変える ひらめきデザインひき出し帖』(MYOKO BASE CAMP 妙高市テレワーク研修交流施設にて展示)
(Photo:Takashi Gomi)

ツールもAIも効率化の味方に

育児との両立で時間が限られる中、いかに効率よく成果を出すかは切実なテーマでした。現場で試行錯誤したiPadの活用ノウハウを一冊に凝縮したのが、著書『神速iPadデザイン クリエイティブワークがはかどる技とアイデア!』です。

道具を味方につけて効率を上げるというスタンスは、生成AIに対しても同じです。恐れるのではなく「無理のない範囲でいいところを取り入れるパートナー」として捉え、アイデア出しの壁打ち相手や作業時間の短縮に軽やかに共存させています。

滝本理恵さんが執筆されている『神速iPadデザイン 〜クリエイティブワークがはかどる技とアイデア!〜』
(Photo:Takashi Gomi)

予期せぬ変化を楽しむこれからの展望

AIにも真似できない人間味と
相手を好きになるデザインの真髄

キャリアを重ね、クライアント企業の担当者や打ち合わせの同席者が自分よりも若い世代になる機会が増えてきました。若い世代が繰り出す刺激的なアイデアや異なる価値観に圧倒されることもありますが、わたしはそれを面白がる柔軟さを大切にしています。

たとえ意見が衝突するような複雑な会議の場であっても、デッサンやエディトリアルで培った「全体を俯瞰する視点」が活きています。一歩引いて状況を観察することで、それぞれの背景を冷静に受け止めつつ、全員が同じ方向を向いて心地よく前進できるよう導くフラットな対話力を心がけています。

そして、どれだけ技術やAIが進化しても「これだけは絶対に真似できない」と確信しているクリエイティブの真髄があります。それは、前職の社長から教わった「相手のことを本当に好きになっちゃうくらい調べ、寄り添いなさい」という姿勢です。

クライアント企業と向き合う際、まるで自分自身がその会社の社員であるかのように徹底的に調べ上げ、愛着を持って問題解決に没頭する。この泥臭くも温かい人間味こそが、人々の心を動かすデザインを生み出す原動力です。

MYOKO BASE CAMPで撮影したthinc Journal取材時の滝本理恵さん
(Photo:Takashi Gomi)

あえて長期の計画は描かない。
変化やプロセスを楽しむ生き方

かつては明確なキャリアプランや目標を定めていましたが、出産による予期せぬスケジュールの変更や、コロナ禍での計画の中断などを経験する中で、生き方のマインドセットが大きく変化しました。

「先のことなんて、どうなるか分からない。だからこそ完璧な計画に固執せず、変化やそれに順応していくプロセス(余白)そのものを楽しみたい」

強固な枠組みを手放したことで、かえって予期せぬ素敵な「ご縁」が舞い込んでくるようになりました。移住前、「いつかやってみたい」と密かに温めていた「学校のゲストティーチャー」という夢。新潟へ移住後、自身が手掛けた子ども向けの書籍を図書室へ寄贈したことがきっかけで学校側とのご縁が生まれ、小学6年生のキャリア教育の授業へ講師として招かれることになりました。

「一生デザイナーという肩書に固執しているわけではありません。楽しくやりたいことに挑戦し続けたい」今後はモニターに向かって手を動かす狭義のデザインにとどまらず、企画やプロデュースといった「デザインプラスアルファ」の新しい領域へも柔軟に足を踏み入れていく考えです。計画通りにいかない変化さえもあえて面白がり、ゲストティーチャーの夢が叶ったときのように、目の前の小さな目標をひとつずつ軽やかに叶えていきたいと思っています。

新潟県妙高市にて撮影したデザイナーの滝本理恵さん
(Photo:Takashi Gomi)

ー おわりに ー

言葉にならない想いにじっくりと耳を傾け、解きほぐし、カタチへと落とし込んでいく——。滝本さんの歩みを紐解いて見えてきたのは、環境の変化にしなやかに順応しながらも、根底にある「人間味」と「純粋な好奇心」を大切にし続ける姿勢でした。

学生時代の課題をきっかけに、身の回りのチラシや広告を思わず集めてしまう癖がついているという滝本さん。デッサンやエディトリアルの現場で磨かれた「俯瞰する観察力」は、実はそんな日常の小さな「好き」や日常への眼差しから、育まれてきたものなのかもしれません。

フリーランスへ転身する際も、身近な友人に相談を重ねる中で「独立して働く自分」のリアルなイメージを具体化していったといいます。抱え込まず、人に問い、対話を通して自分の歩む道を整えていく。その素直で開かれたスタンスがあったからこそ、「東京を離れたら仕事がなくなるのではないか」という漠然とした不安すらも、地域での丁寧な仕事と確かな信頼を重ねる中で、自然と解消されていったのでしょう。

どこまでも相手の想いに寄り添い、真摯に向き合い続ける滝本さんの仕事術は、これからも地域や世代の枠組みを超えて、たくさんの新しい「ご縁」と「豊かな変化」を巡らせていくはずです。

この記事をシェアする

thinc について

クリエイティブに考える人のためのプラットフォーム「thinc」

「クリエイターが輝ける社会を創造する」という当社のミッションを実現するために、「Think Creative」=「クリエイティブに考えよう」という意味を込めた「thinc(シンク)」というプラットフォームを展開しています。
クリエイターが自らの能力・スキルを武器にいつでも、どこでも働くことができる「thinc Workplace」。全国各地のクリエイターにスポットライトをあて、新たな才能の発掘とキャリア形成を支援する「thinc Growth」。そしてクリエイターがより生産的な業務に専念することを可能にする「thinc Project」。
この3つの領域において、さまざまなサービスを展開してまいります。

View More

運営会社

クリエイターと、未来を変える

私たちは多くのパートナークリエイターと協力し、
クリエイティブで企業や社会の課題解決を行うためのプラットフォームをつくる会社です。

View More