フォトグラファー・KIZEN(きぜん)さんは中国・雲南省の出身で、2014年に来日しました。「アジアに生まれ、アジアに育ったこと」に強いこだわりを持ち、独特の世界観を表現した作品はストーリー性にあふれています。もともとは機械好きだったという青年がどのようにして、世界的なファッション誌で活躍するようになったのでしょうか。新進気鋭の若手写真家の誕生と成長を追いました。
フォトグラファー
KIZEN(趙 僖然)の歩み
写真というより、もともとはカメラに興味がありました。少しマニアックなのですが、まだ中国に住んでいた高校生の時はイヤホンを集めるのが趣味で、特に日本のSONYのものが気に入っていました。次第にイヤホン以外のSONY製品も集めるようになり、ミラーレスのカメラが発売されたタイミングで勢いで購入したんです。
僕らの世代は子供の頃から日本のカルチャーが身近にあって、SONYもそうですし、ポケモンだったり、ゲームだったりの影響を受けていました。一度はどういう国かを見たくもあり、高校卒業のタイミングで日本への留学に踏み切りました。日本語学校で学んでいた頃はカメラはまだ趣味のレベル。撮影のアルバイトなどを重ねていくうちに、カメラを生業にしたいと思うようになりました。中国では親が子の将来をかなり心配するので、子も安定した仕事と安定した収入への強い意識があります。理系の大学に進学を考えていましたが、フォトグラファーを目指すことを決意し、写真を生業に安定した生活を送れるようにと、写真を学ぶことができる大学に進みました。
大学時代には、ファッションデザイナーの川久保玲さん、ヨウジヤマモトさんの服を通して、ファッションフォトグラフィーの世界に触れました。自分もそういう素敵な写真を撮りたい、ファッションフォトグラファーになりたいと思ったんです。大学卒業後に広告制作会社に就職。広告のフォトグラファーになるために鍛えて、自分の写真を撮らせてもらえるようになりました。
世界的ファッション誌からのオファー
ターニングポイントになったのは世界的ファッション誌の初仕事。僕のInstagramがきっかけとなり、エディターさんに声をかけていただきました。他の作品も見たいと言われ、編集部にポートフォリオを持参したところ、それが撮影につながったんです。撮影はすごく刺激になりました。スタイリストさんがたくさんの洋服を持ってきます。その洋服、場所、モデルさんをどうやってうまく見せるのか。それこそ、今までは自分1人の世界で、自分はこう撮りたいと主張できました。しかし、この時はやはりチームがあり、ヘアメイクさんの方向性、スタイリストさんの方向性、エディターさんの方向性があり、僕がいます。そういうチームワークの大切さが撮影を通じて、再認識できました。
やはり、大切なのは日々の努力かなと思っています。社会人になってからは平日はもちろん、土曜、日曜も作品撮りをしている感じです。そうして作品を発信していくことで、撮影の依頼につながるのだと実感しています。仕事が決まる多くは、今までの実績が評価されたというより、発信した作品の世界観の表現を求められるという感じですよね。
グローバルを見据えた選択
フリーランスになる契機となったのは「行動力を発揮できる」と感じたこと。世界で色々なことにチャレンジをしたいと思ったんです。フリーランスの方が自由であり、自分が行きたい場所に行きたい時に行くことができます。日本で仕事をしていくだけならば独立する必要はありませんでした。ですが、グローバルな仕事を見据えた時、例えばイギリスの文化圏がどういう感じか知らないと、簡単な英語ができたとしても深いコミュニケーションは取れません。一度向こうに住んでみて、向こうのカルチャーを体験すれば、同じようなクライアントと仕事をする際に役立つのではないかと考えました。
今の仕事は海外からの依頼も多く、イギリスの雑誌のために日本での撮影を引き受けたりしています。それこそ母国の中国にもファッション雑誌が結構ありますので、日本のタレントさんをキャスティングした撮影なども頑張っています。
去年の10月には、上海ファッションウィークをきっかけにちょっと上海に行ってきました。
ショールームやランウェイが設けられ、1週間にわたり様々なイベントが同時進行。パリファッションウィークなどの西欧のものに近い形で開催されています。ロンドンやニューヨーク、パリ帰りの人が多くグローバル化も進んでいる。バイヤーさんも大勢来ている。新型コロナウイルスが流行したために4、5年ぐらいは中国に帰っていませんでしたが、上海は今、すごく活気があるんだなと驚きました。中国には素晴らしいランドスケープもたくさんあるので、これからはもうちょっと中国での活動を増やすことができればいいなと思っています。
ー おわりに ー
「日本文化が好き」。そう言ってもらえるのはやはり、嬉しいものです。デザイナーの川久保玲さん(コム・デ・ギャルソン)、山本耀司さん(ヨウジヤマモト)のほかにも、インタビューの合間には映画監督の宮崎駿さんらの名前がポンポンと出てきました。映像作品では『ハウルの動く城』が面白く、気に入っているそうです。
特に音楽家の故・坂本龍一さん。「音楽はもちろん、ビジュアルを含めて好き」。坂本さんの写真が掲載された雑誌を見て、撮影したフォトグラファーを羨ましいと強く感じたそうです。「あの写真は歴史の1ページ。人類の歴史を刻むような仕事をしたいですね」。ファンの顔がいつの間にか、プロの顔に変わっていました。
PROFILE
KIZEN/趙僖然(チョウキゼン)
フォトグラファー
中国・雲南省昆明市出身。2014年に来日し、日本語学校に入校。2016~2020年に日本大学芸術学部で、写真を本格的に学ぶ。制作会社を経て2023年に独立。
自然と人間の相互の因果関係をクリエティブの軸に作品制作をし、2022年に初の個展『UNNATURE』を開催。メッセージ性のある写真表現を強みとして、VOGUE JAPANをはじめ日本のモード誌や海外のエディトリアル、広告を中心に活躍中。
公式サイト「KIZEN PHOTOGRAPHY」:https://kizenphotography.com/