デザイナーが挑む商店街再生
<もったいない、が原動力>

〜thincなひと・元町通り商店街振興組合理事 亀井智子さん×鳥取県米子市〜

鳥取県米子市でクリエイティブ制作を手掛ける株式会社GOOD GROW代表であり、ご自身もデザイナーとして活躍する亀井智子(かめいともこ)さんは、米子市内にある元町通り商店街振興組合の理事としても地域活性化に尽力しています。2022年のインタビューに続き、今回はデザイナーとしての視点をどのように商店街の運営に活かしてきたのか、また、商店街の理事として他のメンバーや商店主たちとどのように協力してきたかを振り返り、地域の活性化に向けた取り組みのヒントをお話しいただきました。

米子市元町通り商店街
理事就任のきっかけ

元町通り商店街はJR米子駅から、徒歩約5分の場所にあります。廃線となった法勝寺電車*が置いてある広場で有名な商店街です。商店街振興組合理事となるはじまりは、義父が商店街で経営していた学生服屋をたたみ、その場所にオフィスを構えたことです。それまではフリーランスデザイナーとして、自宅をオフィスに仕事をしていましたが、デザインを活かして地域に関われないか、というざっくりとしたイメージがあったんです。同じようなタイミングで、商店街振興組合の理事の枠がひとつ空いたことから、「理事になりませんか?」との誘いがありました。

※山陰初の鉄道で、小さな車体から「マッチ箱」の愛称で呼ばれる。



(提供:亀井さん)※商店街にある亀井さんのオフィス「Grow Spot」。

理事の定員は全部で5人。商店街で商売をしてきたベテランの方々の中に仲間入りをさせてもらいました。商店街を動かしている組織・人たちなんだろうな、というイメージはありましたが、理事という仕事がどういうものかはまったくわかっていない状態。ただ、当時の商店街はSNSなどをまだ活用していなくて、何かもったいないという想いをずっと抱いていました。理事の立場になることで、具体的に商店街に深く関わっていけそうという楽しみが大きく、お誘いいただいた時は「ぜひっ!」という二つ返事で引き受けました。2019年春のことです。

魅力を伝える情報発信

商店街は地域の人との会話や、店舗同士の繋がりがあります。おはようございますとか、お疲れ様ですとか。すごく温かい場所なんですが、そうした商店街の日常や、そこにいる人たちのことが全然知られていなかったんです。すごく魅力があるのに、知られていないことにもったいなさを感じていました。知ってもらえたら、興味を持つ人、魅力的だと感じる人がもっと増えるのではないかと思い、まずはSNSのアカウントを作成することから始めました。商店街のオフィシャルアカウントとして、八百屋さんで売られている野菜や、学生さんが歌いながら帰っていく姿など、そうした日常をアップしました。個人のアカウントでも「今日はこんなことがあった」とか、「こんな集まりがあった」とか、本当に日常の些細なことなんですけれども、積極的に情報発信をしてきました。

(提供:亀井さん)

一番驚いたのは、たくさんのご近所さんがフォローしてくれたことです。SNSを開始するまでは商店街の情報が地域の人に届いておらず、イベントやセールなどの情報も全然知られていない状況でした。投稿を始めるようになると、情報を得た人から、「知ってるよ」との声をもらうようになったのです。そこから、情報は「知ってもらいたい」という強い気持ちがないと、届かないということを実感しました。SNSは、単なる情報発信の手段にとどまらず、地域の人とのコミュニケーションのツールとしても大きな役割を果たしていると感じます。

地域の人はもちろんですが、若い人にも商店街の現状、今のリアルを知ってもらいたいという想いが強くありました。彼ら、彼女らに知ってもらえるツールはなんだろう、手段はなんだろう、と考えた時にSNSは絶対に欠かせません。若い人たちはSNSを常日頃から使っているので、映像に慣れているというか、写真慣れしているというか。あまりに美しすぎるものは逆に目に留まらないのかなと思っています。商店街には綺麗さや美しさだけではなく、昭和でレトロな雰囲気だったり、人との繋がりだったり、そういった美観とは異なる情緒があって。しわしわのおじいちゃんが笑っている顔とか、すごく映えてるって私的には思うんです。それが商店街らしさだし、それが魅力。あえて美しさだけではなく、そうしたリアルを伝え、共感してもらえる人を増やしていきたいと考えています。

一瞬で撮った写真はそれほどクオリティが高くはなかったりするんですよね。写真を投稿する際は、色味を調整したり、統一感を持たせることで、世界観を演出しています。また、ライトなコミュニケーションを取っていくことが重要です。長すぎず、短い言葉で、ぱっと伝わるような投稿を心がけています。商品を販売するのと同じですね。このエリアをどのように認知してもらうか、言い換えると売っていけばいいのか、みたいな視点でいつも情報発信をしています。デザイナーとしての視点やテクニックを最大限活かしてきました。

最近は、商店街に興味を持ち、関わりたいと思ってくれる学生さんが増えてきました。学生さんのそうした姿を紹介した投稿もすごく人気があります。学生さん自身も商店街のSNSアカウントをチェックしているようで、質問を受けることもあります。見てもらうこと、知ってもらうこと、その情報の源をいかに多く発信し続けていくことが非常に大切だと感じています。情報発信をしようと決めて、1年続けるのは簡単です。それを2年、3年、じゃあ5年続ける覚悟を持っている人がどれだけいるでしょうか。私も最初はそこまでとは思っていなかったのですが、投稿を続けることで、認知が広がっていきました。発信をしたいという強い想いは、実際に投稿する写真や言葉からも伝わっているのかもしれません。情報発信において重要なのは、最終的には「想いの強さ」だと感じています。

日常業務をこなしながらマチづくりに関わると、とても時間が足りないんですよね。そこで、いかに効率良く動き、かつ、情報発信を続けるにはどうしたらいいかなと考えました。当初はなかった理事会の定例会議も、最近では毎月1回開催し、情報交換の場としています。また、Facebookで理事・商店街の店舗を含むグループを作成し、発信したい情報や写真があればそこで共有してもらうことを提案しました。こちらから情報を探しに行くのではなく、皆さんからいただいた情報をリアルタイムで発信する――という動きに変えています。マチづくりは半分ボランティアのような側面もあり、日常との両立が難しいので続けられない人もたくさんいると思いますが、自分が負担にならない程度に続ける、ということが大事だと感じています。すごく頑張れる時と、お仕事に集中する時とがあっていいんです。バランスですね。

(Photo:Hajime Kino)

商店街を変える一歩

山陰を代表する夏祭り『米子がいな祭』が毎年駅前で開催されます。そこにはすごいたくさんの人が集まりますが、オフィスを移転した当時は、商店街では何も行われておらず真っ暗でした。そこで、オフィスの前で子ども向けの屋台を開いたんです。その時にびっくりするぐらいの人が来てくれて、1日ですごい儲かっちゃったんですね(笑)。これは人が来ないのではなくて、人が来るようなことをしていないから、人が来ないということ。何かのきっかけがあれば来てくれるし、こうした売上も立つので、何もやらないのはもったいないなとの気持ちがありました。

今振り返ってみると、商店街の理事にお誘いいただいたのは、やはり積極的に動き出していたからではないでしょうか。たまたま義父がお店をやっていて、そこでデザイナーをやっていますというだけの立場では、きっと声はかからないでしょう。積極的な行動やコミュニケーションを取りにいく姿勢があったからこそ、理事になるきっかけにつながったのだと感じています。

理事としてのはじめての仕事は総会への出席でした。そこでは、今後の商店街の運営についてざっくばらんに話し合います。そこで「イベントをやりませんか?」と声を上げたんです。アイデアとしては、1951年から2009年まで継続的に開催されていた夏の風物詩『土曜夜市』*の復活。理事会のメンバーもすごく乗り気になってくれました。想像した以上にスムーズに進めさせてもらえると分かり、すごくありがたかったです。商店街の皆さんはとても温かく、さまざまな手助けや情報を提供してくれました。何かをはじめようとすると、ベテランの方々から「これはダメ」とか、「これはこうだから」とか、批判的な意見も出てくるのではないかと不安があったんです。ところが、実際には違いました。むしろ、ベテランの方々は、過去に上の人から批判的な意見を受けて悔しい思いをしてきた経験があり、「自分たちがそういう立場になったら協力してあげたい。そういうモチベーションだよ」と言ってくれました。私のような突然やってきた小娘に対し、惜しみない協力と応援体制を敷いてくれたんです。そういった協力体制の手厚さがあったからこそ、楽しみながら準備を進めることができました。

※2009年で継続開催が中断し、2011年、2012年に開催があったものの途絶えていた。


ー おわりに ー

亀井さんが取り組むSNSの活用は、単なる情報発信にとどまらず、商店街の魅力や世界観を人々に感じてもらうための大切なツールとなっています。デザイナーとしての視点は、商店街のレトロな美しさや地域の人々の日常を、現代的な「映え」とは異なる形で伝える力を持っています。元町通り商店街のSNSには、地域に根付いた生活の豊かさが表現されており、温かさを感じられる内容が溢れています。こうした亀井さんの活動は、地域コミュニティを新たな視点で見直すきっかけにもなるでしょう。

元町通り商店街のオフィシャルアカウントはこちら!
ぜひチェックしてみてください。
・Facebook:元町通り商店街
・Instagram:motomachisunroad
・X:@motomachi_road

PROFILE

亀井智子(かめいともこ)
株式会社GOOD GROW代表
元町通り商店街振興組合 理事

2015年にフリーランスデザイナーとして活動を開始。2019年に元町通り商店街振興組合理事に就任し、商店街の風物詩であった土曜夜市を復活させる。2024年の開催では約5,000人の集客に成功。株式会社GOOD GROWは2020年に設立。Webデザイン・広告・動画制作やSNSの運用サポートなどを行なっている。デザイン思考を取り入れた商店街活性化への取り組みや地域イベントの企画・運営などを通してまちづくり事業も展開中。2022年4月には、市や鳥取銀行、米子信用金庫が設立したまちづくりファンドの活用の第一号として、「Goods&Cafe みっくす」をオープン。

株式会社GOOD GROW:https://good-grow.jp/
元町通り商店街:https://motomachi-yonago.com/

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