組織で教わった、巻き込む力で地域を変える方法<前編>

〜 thincな人・NINE 渋谷さん ✕ 静岡県 焼津市 〜

Web制作会社で働いていた株式会社ナイン 代表の渋谷太郎(しぶや たろう)さん。その彼は「地域の仕事がしたい」と一念発起して独立し、生まれ故郷の焼津で事業をはじめました。
Uターン、Iターンで地域に拠点を構えるクリエイターが増えています。焼津のらしさを磨き、魅力ある事業者を集めるという、民間主導のいままでとは全く違う仕事をどのようして続けることができたのか。渋谷さんに、クリエイターが地域で活躍するためのヒントを伺いました

終わりを意識したら、一歩を踏み出せた。

クライアントのクリエイティブワークとまちづくりを、事業の2本柱とする株式会社ナイン。かつては社員数700名を超える大企業でデジタルマーケティング&クリエイティブ活動を支援していた渋谷さん。1人で始めた会社は、9年のときを経て少しずつナインが増えていきました。

Q. 焼津にUターンしたきっかけを教えてください。

東京のWeb制作会社で働いていましたが、37歳で独立しました。きっかけは、50歳になった高校の恩師から、定年に向けてどうやって教師生活を終えるか、終わりを考え始めたという話を聞いたことです。仕事は楽しかったですが、地域の仕事や自分で事業をやってみたいという願望があり、終わりを意識したことで早く始めなきゃと思い、思い切って独立しました。地域の仕事をするなら、自分が生まれ育った縁のある街がいいと、焼津で事業をはじめることに。活動の拠点となっている焼津駅前通り商店街は、人通りもまばらで、今はちょっと寂しいエリアです。見方を変えると、ノスタルジックでレトロな味わいがあるエリアでもあり、その魅力におもしろい人たちが気づけば、全く違うエリアに変わる可能性があると感じています。

Q. 独立して、どんなことをやってきましたか?

最初の3~4年は1人で、様々なクリエイターの方と一緒に仕事をし、企業のWeb制作や映像制作、印刷物の制作などを手がけてきました。静岡に営業をひろげるために1名採用し、業務の拡大とともに少しずつ人を増やし、現在は9名の会社となりました。私たちは、クリエイターの方と企業の抱える難しい課題を、クリエイティブな方法で解決してきました。そんなクリエイターとなら、この商店街のポテンシャルを活かし、時代に合ったコンテンツを作ることができるのではないか。そう考えて、クリエイターのコワーキングスペースとして「Homebase YAIZU」を開設しました。築80年の空き店舗だった場所を大家さんにお願いして借り、自分たちでリノベーションしました。作業スペースや設備の提供はもちろんですが、営業面のサポート、デザインやプログラムの勉強会、キャリア相談、クリエイター同士の交流会等も行っています。



「Homebase YAIZU」の次には「PLAY BALL! CAFE」というカフェもオープンさせたNINE。ワークショップやイベントを開催し、この街で何かをはじめたい人、つくりたい人をサポートしています。


行政ではなく民間主導のまちづくり。

Q. NINEが手がけるまちづくりとは?

私たちのまちづくりは、クリエイターに街中を活動の場として使ってもらうことです。これは、行政からの依頼を受けてやっているわけではなく、自分たちが面白がってやってきたことです。街のあちこちでいろんな仕掛けをしていくと、商工会議所や商店街の人たちも興味を持ってくれて、私たちの拠点に訪れてくれるようになりました。大切にしているのは「地域の人たちにノリ良く巻き込まれていくこと」(笑)。商店街の理事会があると言えば顔を出すし、「おもしろそう!」と、何でもフットワークよく参加するようにしています。コロナで多くのイベントが中止になる中で、子どもたちの思い出づくりができないかと、商工会議所の相談を受けて、巨大花火アートのデザインを担当しました。焼津市内の小中学生1万人が一人ひとり願いを書いたシールで、7メートル四方の花火アートを作成しました。
また、商店街に芝生を敷き詰める「みんなでつくる、みんなのアソビバ」というイベントを仲間とともに開催しています。商店街に人工芝を敷き詰め、ダンボール積み木、落書きハウス等、創作の余白を設けた遊びコンテンツを多数作り、1000人以上の方が来場するイベントとなりました。絵本の表紙づくり、ハンドメイド作家によるワークショップ、アーティストによるダンスペインティング等も開催しています。

Q. イベントを開催する上で、心がけていることはどんなことですか?

来場者が単なる「お客様」ではなく、イベントづくりの「参加者」になるよう運営しています。イベントづくりの当事者になった方が地域の魅力は見えるはずですから。定期的にマルシェも開催していますが、実はこうしたイベントは、買い物客よりもまちづくりに参加する人に向けて行っている側面があります。もちろん買い物客に来て欲しいんですけど、その前に商店街にお店がない(笑)。だからイベントで集まる人材や出店者に、商店街に出店するきっかけになってほしい。また、公園や道路などの公共スペースのポテンシャル、活用方法を知って欲しい。実際にアソビバを通してつながったデザイナーが商店街でコーヒースタンドを開店するきっかけにもなっています。




少し寂しい街並みとなっていた商店街に、ところどころに雰囲気のいいお店ができ始めている焼津駅前通り商店街。近くの古いビルにはセンスのいい家具屋が入るなど、レトロな街の魅力と若者の感性が融合し始めています。後編では、どのようにしてWebの世界から、地域のコミュニティづくりを続けていくことができたのか。その秘訣について伺います。

後編へはこちらから

PROFILE

渋谷 太郎(しぶや たろう)
株式会社ナイン 代表取締役
1975年、静岡県焼津市生まれ。2000年に株式会社アイ・エム・ジェイへ入社し、インターネット黎明期からプロデューサー/ディレクターとして、企業のデジタルマーケティング&クリエイティブ活動を支援。ウェブインテグレーション事業の事業部長等を経て2013年に独立し、株式会社ナインを設立。デジタルとクリエイターの力で地方創生に取り組む。
2006年にはデジタルハリウッド大学院の講師を務め、若手クリエイターの育成にも力を注ぐ。
ナイン https://nine.sc/

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