伊豆の素晴らしさを伝える、デザイン思考が持つ可能性<前編>

〜 thincな人・ジオガシ旅行団 鈴木さん ✕ 静岡県 伊豆半島 〜

都内勤務から突如フリーランスへ転身、自らが生まれ育った伊豆へと移住ー幼少期から自然が大好きで、いつかは「自然あふれる伊豆の素晴らしさを伝えたい」と思っていたという鈴木 美智子さんは、東京で培った映像・広告のスキルを活かして愛する地元でクリエイティブ活動を行っていました。

ジオガイドの友人から案内をしてもらい伊豆の大地の成り立ちを知ったことで、その想いに拍車がかかったという鈴木さん。そこで生まれたのが、伊豆の地層をそのまま“お菓子”にしてしまった画期的な製品「ジオ菓子」でした。この製品は海外からも注目を集めるとともに、その枠を飛び出した活動=「ジオガシ旅行団」となり、クリエイターとしての鈴木さんご自身の活動も多方面に広がっていきます。

本記事では、鈴木さんがどのように原体験や想いをカタチにしていったのか。世の中にどのように伝えていったのか。といったプロセスをデザイン思考の視点から紐解いていくとともに、全国各地のクリエイターがデザイン思考を活用する上での可能性についても伺いました。

「大地」の声を伝えるデザイン思考プロセス

Q.地層をデザインした「ジオ菓子」。その誕生のきっかけは?

今から10年ほど前、ジオパークを通じて伊豆の自然が持つ歴史やストーリーに感銘を受け、大地の美しさに理由がある事を知り、それをみんなと共有したい、伝えたい、という想いから構想が始まりました。ちょうどその頃に友人から「こんなん作れるよ」とお菓子を見せてもらったことが「大地をいかに面白く伝えるか」のヒントとなり、お菓子作りが上手な彼女と「伝える」ことが得意な私とでジオガシ旅行団は始まりました。

振り返れば部活で、化学実験のような食べ物作りを行っていた経験があったり、さらには子供の頃から「これを食べたらどんな味かな?食感はどんなだろうといった食べられないものに対する妄想癖があったことも影響しているかもしれません。

「食べる」という行為は全人類共通だということ。それが理由として何よりも大きかったと考えてます。五感を使った行動で、伊豆の自然の素晴らしさを知ってもらいたい。それをどのように楽しく大地の面白さを伝えるか。きっかけとして最適な手段を選びました。

ジオ菓子は実は新しいものではありません。日本には古来、景色や四季を写し取り菓子で表現するという素敵な和菓子の文化があります。その文化と、大地の面白さを伝えたいという願いのためのプラスアルファとして解説や地図をつけてガイドツール化させたというものです。イノベーションの生まれる組み合わせの一つなのだと思っております。


下田市爪木崎俵磯の柱状節理(ちゅうじょうせつり)にそっくりなジオ菓子(下田産ひじき入り)。マグマは冷えて固まるときに体積が小さく縮み、その際に5-6角形の柱状の割れ目ができ、柱状節理と呼ばれるユニークな地形が現れます。大地を美味しく楽しみながら学べるのはジオ菓子の素敵な特徴。


Q.どのような幼少時代を過ごされてデザイナーの道へと?

伊豆の小さなコミュニティの中で、動物や自然と共に過ごしていました。母親の影響も大きく、小学生の頃は図鑑を片手にキノコを採りに行き、食べられそうもない種類のものを煮て食べてみたりもしていました(笑)。※幼少期の記憶に基づく体験談。真似しないでください。

また幼稚園に入る前からとにかく本を読むのが好きだったのですが、そのせいで目が悪くなり、治療のため遠くの景色を見ながら絵を描くようにと母から言われそのまま没頭。構図にもこだわるなどして賞をいただいたりもしていました。ただ自分が楽しく、みんなも楽しくいられたらいいな、笑っていたいな、というような気持ちで描いていましたね。授業中もとにかく気になることがあると質問をするようなタイプだったので、先生方からは苦手意識を持たれていたかもしれませんね。母からも「子供らしくない」と冗談っぽく言われたのを覚えていますが、大人は何もわかっちゃないな、と自分のやり方は変えませんでした。ほんと嫌な子供ですね。

ちなみに大学進学についても当初は海外で仕事をしたかったので経済系にいくことを考えていたのですが、一言も相談していなかったはずの母から「美大という選択肢もあるよ」と言われたのには驚きました。あらためて、育った環境や親の存在には感謝していますね。

美大へは最初は願書をデザイン科で出すつもりでしたが、投函直前で映像科に切り替えました。デザイナーに固執せずに「伝えたい」をカタチにしたほうがよいと思ったんです。あらゆる方法でもって「伝える」を考える。びっくりするような仕組みを入れながら、伝えていく。そんなことが以前からやりたかったことでした。

そして、卒業後は広告代理店に就き、イベント・映像・空間など、いろいろなデザインに携わりました。手に職をつけて伊豆へ戻る作戦の一つとしてWEB系制作会社へ転職したのですが、そこではWEBはツールだと気付き、どういうふうに感情を動かしているかの見せ方にとても興味をもっていました。そういった目線で考えることがなかったので、とても勉強になりましたね。そんな目線で考えていくと多くのことが気になってきて、より本質的な課題を聞き出すべくクライアントとの打ち合わせに同席したがる面倒臭いデザイナーになっていましたね(笑)

Q.実際にデザインしていくプロセスで大変だったことは?

失敗談や笑えるエピソードも沢山ありますが、特に地層を歩いたときの五感体験をどう再現するかは苦労しました。例えば、富士山スコリアというものがあります。この地層を歩いたときの、ザクザクとした感覚。この感覚を食感で表現することで、皆さんに地層の面白さを体験していただきたい。その一心で何度も試作品をつくったのはいい思い出です。おかげでスコリアの上を歩きながらスコリア焼きチョコレートを食べると感覚が麻痺します(笑)。例えば砂糖ひとつをとっても種類で仕上がりが全く変わってくる。それを試行錯誤しながら再現する過程は、さながら高校時代の化学実験(的な料理)のようでしたね。

またジオ菓子では原料に現地の特産品を使うようにしているのですが、天城にあるスコリア丘のジオ菓子の開発時に現地の黒米を泡立てようとした際、ミキサーが壊れて動かなくなってしまったことがあります。これは黒米がもち米だったからなんですが、こうしたエピソードは山ほどありますね。あとは実際の伊豆石には硬いものと柔らかいものがあるんですが、その硬い方のリアリティにこだわりすぎたあまりお客様から「噛んだ時、入れ歯が割れたかと思った・・」と切実なお声をいただいたこともあります(笑)。

他には製造コストを抑えるためにヒアリングやフィールドワークをしていった結果、全国各地の郷土菓子にそのヒントがあることに気づいたりなど、トライ&エラーや周囲の方々のご意見などを経て、現在のジオ菓子に至っています。





デザイナーがベースにもつ発想「デザイン思考」で事業をグロース

デザイン思考の世界では、考案したアイデアを実行に移す際、「Prototype(早く安く試作品を作る)」→「Test(試作品を周りの人に体験してもらいフィードバックを得て改善していく、それを繰り返していく)」というプロセスであったり、「失敗から学んでいくマインドセット」がとても重視されています。

こうしてお話を伺っていると、鈴木さんはクリエイターとして無意識にそれらを体現されていたのだな、ということがとても良く伝わってきます。また制作会社時代、クライアント担当者が抱える「本当の課題を引き出すべく営業担当に同行していたエピソードなどからも、その熱い思いが伝わってきます。

続く後編では引き続きデザイン思考の視点から、鈴木さんの考えるデザイン思考とは?や、その発展性について、より深くお話を伺っていきます。

後編はこちらから

PROFILE

鈴木 美智子(ずすき みちこ)

ジオガシ旅行団 代表
早稲田大学 人間総合研究センター 招聘研究員 / 常葉大学 造形学科 非常勤講師 / ふじのくにしずおか観光振興アドバイザー / 萩ジオパーク推進協議会アドバイザー

静岡県生まれ。多摩美術大学卒業後、東京の広告代理店でデザイナーとして活躍。2007年に南伊豆町へ移住し、2012年にジオガシ旅行団を設立。大地の成り立ちを知ることにより、恵みや文化などの魅力を再発見し、地域の誇りを育む教育、未来へつなげる保全、正しく知り身を守るための防災へ活かす道を、お菓子を通じて共有している。

ジオガシ旅行団:
https://geogashi.com/

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