伝統と技術を見つめ、育て、そして世界へ
<“ つなぐ ”が創る未来>

〜 thincな人・shokolatt 鶴本さん ✕ 日本のものづくり〜

日本全国の様々な産地でものづくりブランドに携わり、その魅力を国内外に発信する鶴本さん。プロダクトを世界へつなぐこと、ブランドを創る過程での職人さんとのつながりなど、「つなぐ」をキーワードに伝統技術を革新的にブランド化する過程や背景、想いについて伺いました。


伝統を紐解き、革新に挑む

私が行っているブランディングの主な仕事は、金沢箔の総合メーカーである株式会社箔一のブランドディレクターです。浅野達也社長のビジョンをいかに社会に発信し、伝えていくかを企画・開発・発信しています。

金沢箔の雅な歴史背景や、先代の浅野邦子氏の女性起業家としてのしなやかな経営とブランド創りを、二代目の浅野達也社長が描く未来に反映させていけるように、ブランドディレクターとしてしっかりとサポートしていきたいと思っています。箔一の素晴らしい職人さん達と協働し、世界に類を見ない箔の工芸の伝統と最先端の技術を使って、世界のラグジュアリーブランドとの協働や自社ブランドの企画・開発を世界の箔一として発信していきたいです。

また、小池知事が推進する『江戸東京きらり』で、浴衣の老舗・竺仙を世界に発信するプロジェクトの、プロデューサーに任命いただきました。竺仙は、日本の織・染の技術を駆使して、江戸の美が宿る反物をもとに「反物の宝石」とも称される生地から浴衣を製作しています。皇族のご外遊時の衣装の生地としても選ばれたり、イサム・ノグチ氏や坂東玉三郎氏など、多くの著名人に愛されてきたブランドです。そこから浴衣の裾野を広げ、新たなマーケットを作るドレスを生み出す 『CHIKUSENN dress』をプロデュースさせていただきました。このドレスもまた、有名アナウンサーや女優の方々にご着用いただき、現在は外資系のラグジュアリーホテルとコラボレーションの話も進んでいます。

どのブランドもそうですが、社長や職人とじっくり話をさせていただいて、膨大なヒアリングをし、しっかりビジョンを磨き上げていくことをブラさないようにやっています。例えば「竺仙とはなんぞや」を歴史から紐解いて、「今の竺仙」ということを考えて、そこから『CHIKUSENN dress』を生み出し、ブランドを創っていく。そういうことをやっていますね。


(Photo : Takato Yokoyama)

キーワードは“ つなぐ ”

「つなぐ」というキーワードで言うと、これまで様々な産地のものづくりブランドに携わり、市場や社会、世界へつなげていくことがライフワークでした。これは今後も変わらずライフワークであり続けていくと思います。

ものづくり、ブランドづくりから派生して、新たな「つなぐ」試みもスタートしています。「消費」という言葉は「消して費やす」と書きますが、単なる消費だけでは今の世界は成立しなくなっています。これからの旅は、新たな学びや持続可能な世界への気づきを伴った体験を求めていると感じます。巡るものに敏感な海外の旅人達は、そうした意識の高い旅を求めているのではないでしょうか。

実は今、海外の方々に日本へ訪れていただき、日本全国のものづくりの素晴らしさを感じていただく旅というものを観光庁のプロジェクトで企画させていただいております。地域の普通は、外から見たらとんでもない宝物だったりするんです。自分たちが当たり前だと思っていることが外から見ると本当に素晴らしく、美意識、精神性を考えさせてくれるものだったりします。その旅では、地域のものづくりを、食彩を文化を巡り、日本の素晴らしさを感じていただき、マスターと出会う旅になります。

生まれ育った土地で感じた自然に宿る美や、初めて燕三条や高岡の工場に訪れた時に感じた驚き、新鮮な素晴らしさがこの旅の原点です。工場見学に訪れるVIPの方々が、工場の職人さん達の技に酔いしれ、地元でしか味わえない食彩・お酒を愉しみ「また来たい」と感激して帰っていく大人の修学旅行のようなものです。15年来のものづくりの仲間達、マスター達が一緒に旅を創ってくれました。これから海外からのお客様をお迎えしていく予定です。


(提供 : shokolatt)


「つながる」ということと、「サスティナビリティ」は本当に重要だと思っています。15年前に立ち上げから関わったチタンとステンレスの金属の高級ブランドSUSgalleryはステンレスの略号「SUS」とサスティナビリティ(Sustainability)の「SUS」の2つの意味を持っています。その時代、まだサスティナビリティという言葉はほとんど使われていませんでした。

そのグループ企業は、鋼材の販売業、ステンレスやチタン製品の製造業、そしてスクラップの回収やリサイクルを行い、金属の高度な循環型産業を実現していました。しかし、この循環の価値をまだ十分に認識されていませんでした。金属は何度も溶かして再利用することができ、ゴミにならない循環型素材です。そこで私が考えたのは、チタンやステンレスを使用した高級で機能的かつサステナブルなチタンとステンレスのテーブルウエアブランド、SUSgallery。デザインやコンセプトにこだわり立ち上げたこのようなブランドは、当時は世界的にもまだ存在していませんでした。

このブランドの製品を使うことで、社会がより良くなり、自分の生活も輝かせてくれている。難しいけれど、そんな循環の中に自分の生活や仕事があり、全部がつながっていると意識していく必要があると考えています。

伝統と現代をつなぐ

日本の伝統産業は、後継者不足や時代の変遷といった課題に直面しています。多くの伝統工芸品は「伝統」という名のもと、昔ながらのデザインを踏襲していますが、社会の風習やライフスタイルが変わる中で、そのニーズは薄れつつあります。例として、五月人形は現代の住環境や価値観の変化により、新たな購入機会が減少しています。鶴本さんは日本のものづくりの伝統と現代のニーズを巧みに融合させることで、国内外から注目を集める世界ブランドを生み出しています。単なるブランディングにとどまらず、伝統と現代の市場、国内外のニーズなどをつなぐことで、持続可能なかたちで伝統を輝やかせています。伝統の価値をどのように現代に活かし、新しい価値を創造するのか。鶴本さんの成功事例は、伝統産業が現代に生き生きと存在し続けるためのヒントとなるでしょう。

次回、『ブランドの魅力の引き出し方』では、事例をご紹介いただきつつ、ブランディングにおける重要要素についてお話しを伺います。

『ブランドの魅力の引き出し方』はこちら

 

PROFILE

鶴本 晶子(つるもと しょうこ)

ブランドディレクター
金沢箔一ブランドディレクター
shokolatt 代表

大分県湯布院出身、女子美術短期大学卒業。

1992年〜
現代美術家コラボレーターとして東京、NYを拠点に世界的に活動。
2007年〜
新潟燕三条のチタンテーブルウエアブランドSUSgalleryマネージング、クリエイティブディレクター
2010年
APEC20ヶ国首脳のギフトに選出。
2015年〜
富山県高岡 NAGAE+取締役ブランドディレクター、
プロデュースした錫製品がトランプ大統領夫人へのギフトに選出。
2016年
経済産業省クールジャパン「The wonder 500」プロデューサー就任。
2020年〜
石川県金沢市 株式会社箔一ブランドディレクター、
慶應義塾大学経済研究所、インバウンド観光研究センター
一般社団法人インバウンド観光総研顧問に就任。
2022年〜
ものづくりを巡るラグジュアリーツアーの造成に着手、
企業のブランディングコンサルタント、経産省、観光庁、行政などのアドバイザー、
プロデューサーなどを務めながらジャパンブランドのプロデューサーとして活動。

[受賞歴]
2016年
ナガエプリュス ティンブレス グッドデザイン賞受賞 デザイン、クリエイティブデレクション
2017年
SUSgallery コレド室町 EuroShop//JAPAN SHOP Award 第3回ショップデザインアワード
最優秀賞受賞クリエイティブデレクション

shokolatt:https://www.shokolatt.jp/

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