日本のものづくりを活かした新たなブランドを、世界へ展開し続けている鶴本晶子(つるもとしょうこ)さんに、今の自分を形成する上での背景や、日本のものづくり世界ブランドを創造するメソッドなどについて、これまで伺ってきました。今回は、鶴本さんのインスピレーションの瞬間や、その発想力を育む方法について深掘りしました。
インスピレーションの瞬間
私は、情熱的に何かにパーッと興味を持つのですが、その反面ちょっと飽きっぽいところもありまして。過去を振り返ると、文学、アート、映画、音楽とあらゆるものに興味を持ち、夢中になって楽しんだり、味わったりしています。どれも専門家とまではいかないのですが、毎回本気で研究して楽しんでいます。それはもう趣味であり、ライフワークのようなもので、全ての経験が全部引き出しに入っているのかなと思います。それこそ「旅」もそうですし、「食」もそうですし、無駄なことは何もないんです。
言葉にしづらいのですが、シナプスがパパパッとつながるイメージなんです。固定観念に縛られず、気持ちや思考、体験など、常にいろいろな感性をオープンにしています。何かお題目がきたり何かに対峙した時に、例えば「今はコップを作っているから、絶対に音楽は関係ない」など狭めず感性をオープンにして、純粋に「はっ!」とアイデアが出てくる瞬間を待ちます。それは、引き出しの中に入っているというよりも、複雑系の海の中に様々なイメージ(質感、色、形)が浮いているような。何かお題目をいただいた時に、その複雑系の海の中から関連する要素がパパパッとつながって、形になるみたいな瞬間があるんです。
長野県で出土し国宝となった縄文土器「縄文のヴィーナス」にインスピレーションを得て生まれたアクセサリーブランドです。
(Photo : Takato Yokoyama)
経済産業省のプロジェクトに参画し、アドバイザーとして諏訪市を訪れました。諏訪市は縄文文化が花開いた地域です。隣接する茅野市には「縄文のビーナス」と称される国宝の土偶のレプリカが駅中にあり、訪れる度に気になっていつもじっくりと眺めていたんです。プロジェクトのアドバイスでなかなか良いアイデアが思い浮かばなかったのですが、最後に日にあずさ号で茅野駅に着いた瞬間に縄文のビーナスのアクセサリーが私の中にパパパパッと思い浮かんで、『suwa megami』というブランドが生まれました。地域に通う中で、事業者の専務の方とお話しをしたり、縄文のビーナスと心を通わせたり、そうした素晴らしい体験や経験が最後にプロダクトとして形になっていきました。
私がこれまでしてきた、「日本のものづくりでブランドを創る」ということを、次の若い世代に伝え、共に創っていきたいと考えています。日々の暮らしに目を向けること、いろいろなことに興味を持つこと、素材に触れること、そういうことが全てブランドディレクターの仕事やクリエイターの仕事につながっていくと思っていて。それを楽しめて、苦しみも味わいながら、日本のものづくりの発展のお手伝いができるなんて、なんて素敵な仕事であり、なんて素敵な人生なんでしょう。それを若い世代の方々に伝えていきたいですし、協働したいと考えています。
好奇心で磨く感覚
発想力を育むには、常に好奇心を持って、あらゆる文化や芸能、語学、伝統文化など、好奇心が赴くままに体験すること、またその瑞々しい体験をし続け、仕事、人生に活かしていくことが大切だと感じています。地方に住んでいると気づきにくいのですが、感性を磨くことで、自分たちが当たり前だと感じていることは、外から見ると実はものすごく魅力的で貴重なことだったりと、一度外からの目線を持って見ることによって、地域の素晴らしさや独自性というものが見えてきました。
伝統産業や伝統工芸、地域文化、地域産業などに関わりを持とうとされているクリエイターの方は、そういったことを気にして過ごしていただくと良いのではないでしょうか。様々なことに好奇心を持ち、自分の感覚をどんどん磨いてどんどん増やす。そしてそれをやり続ける。地獄の中を楽しむみたいな感じですね。
持続可能な未来へ、無二のものづくりの精神
鶴本さんの深い美意識、挑戦心、伝統への敬意、そして日本のものづくりを世界ブランドに創り上げる情熱から、ブランディングの真髄を学びました。これはブランディング以外でも当てはめることのできる、持続可能で豊かな未来を築く際の助けとなることでしょう。
また今回、地域の当たり前は外から見たら実はものすごく魅力的であり、外の目線を持って地域を見ることで、素晴らしさや独自性が見えてくるとお話いただきました。鶴本さんは『Rethink Creator PROJECT』で開催されるコンテストにおいて特別審査員を務めており、この視点を持ってクリエイティブを見つめています。皆さんも外からの視点でご自身の地域を見てみてはいかがでしょうか。
最後に、鶴本さんから皆さんへ
住する事なきを花と心えよ
世阿弥
風姿花伝
日本のものづくりと美意識を世界へ。
これが私のライフワークです。
混迷する時代に
自らも変化し続け進化し続けることを恐れず
関わる人々へ ものたちへ 自然へ 社会へ
愛と感謝をし 1日1日を大切に
毎日の体験を瑞々しく能動的に
大きな世界の循環の中でより良い未来に向けて
小さな役割をしっかりとやり
振り向いたら良き道ができていたら
それで良いと思います。
鶴本晶子
PROFILE
鶴本 晶子(つるもと しょうこ)
ブランドディレクター
金沢箔一ブランドディレクター
shokolatt 代表
大分県湯布院出身、女子美術短期大学卒業。
1992年〜
現代美術家コラボレーターとして東京、NYを拠点に世界的に活動。
2007年〜
新潟燕三条のチタンテーブルウエアブランドSUSgalleryマネージング、クリエイティブディレクター
2010年
APEC20ヶ国首脳のギフトに選出。
2015年〜
富山県高岡 NAGAE+取締役ブランドディレクター、
プロデュースした錫製品がトランプ大統領夫人へのギフトに選出。
2016年
経済産業省クールジャパン「The wonder 500」プロデューサー就任。
2020年〜
石川県金沢市 株式会社箔一ブランドディレクター、
慶應義塾大学経済研究所、インバウンド観光研究センター
一般社団法人インバウンド観光総研顧問に就任。
2022年〜
ものづくりを巡るラグジュアリーツアーの造成に着手、
企業のブランディングコンサルタント、経産省、観光庁、行政などのアドバイザー、
プロデューサーなどを務めながらジャパンブランドのプロデューサーとして活動。
[受賞歴]
2016年
ナガエプリュス ティンブレス グッドデザイン賞受賞 デザイン、クリエイティブデレクション
2017年
SUSgallery コレド室町 EuroShop//JAPAN SHOP Award 第3回ショップデザインアワード
最優秀賞受賞クリエイティブデレクション
shokolatt:https://www.shokolatt.jp/