プラモデルを活用したシティプロモーション活動『静岡市プラモデル化計画』をはじめた静岡市。市の民間企業や学校ともタッグを組み、活動の幅を広げることで、ものづくりの魅力をより多くの人に伝えています。静岡市産業振興課プラモデル振興係の石川さんも、同プロジェクトを機に改めてものづくりの魅力を知ったひとりです。ものづくりでマチおこしを続ける石川さんたちが目指す未来についてお聞きしました。
対話から生まれる
ユニークなイベントの数々
『静岡市プラモデル化計画』3本目の柱は、コンテンツづくりです。プラモデルやものづくりに触れられる環境をつくり、魅力を知り広められる人を増やしたあとは、実際にプラモデルに触れられる場やコンテンツが必要だと考えました。
1番多いのはコラボイベントです。イベントを主催するノウハウを持っている方はなかなかおらず、プラモデルメーカーさんもイベントづくりの経験が少ないため、市とコラボしてつくっていきましょうという形で活動を行っています。たとえば、商店街でラジコンを走らせるイベントでは、メーカーさんの紹介ブースを設け、製品を知ってもらう場をつくりました。さらに、コラボ商品の企画にも取り組んでいます。プラモデルは、マチを形成しているものすべてに活用できるんです。福祉ですと、高齢者福祉センターにプラモデルづくりをするイベントを提案できます。指先を使うため、認知症予防になるんです。
市とのコラボといっても、できたばかりの部署のため、担当職員はわずか4人。それでも幅広い活動が実現できているのは、地域の方やメーカーの方との対話を重視してきたからでしょう。課題や想いを聞いたうえで、行政としてできる範囲で事業を企画することを大切にしています。係員にも「まずは話をしてください」と伝えているんです。
どうすれば課題を克服できるのか、どうすれば産業を盛り上げられるのか、やってみないとわからない部分はどうしてもあります。行政の取り組みは税金を使って行いますから、「失敗してもいい」とはいえません。でも、だからといってチャレンジしないのも良くはない。対話して感じたもの、課題を聞いて「何とかしたい」と思った想いを形にできるよう、試行錯誤しながら事業を組み立てています。
いろいろなコンテンツをつくってきた中で、新たにはじめたのが高校生を対象とした『全国プラモデル選手権大会』です。2024年12月に記念すべき第1回を開催する運びとなりました。
高校生を対象とした大会にしたいと思ったのは、成長に伴いものづくりから離れてしまう子どもたちがいることが課題だったからです。ゲームが台頭してきたといっても、小学生ぐらいまでは、親と一緒に何かをつくる経験をしている子どもは一定数います。でも、そのあとが続かないんですよね。私自身、子どもの頃はプラモデルに親しんでいたのに、成長と共に触れなくなっていたひとりなんです。ものづくりを強みとする静岡市だからこそ、中高生にものづくりをしてもらえる場を用意したいと思いました。
ただ、最初はあくまでも作品発表の場にするつもりでした。コンテスト形式になったのは、プラモデル部のある学校へのヒアリングの結果です。これはプラモデル部に限ったことではありませんが、文化部の中には、活動内容がお遊びだと見られてしまうところがあります。競い合う場ができれば、生徒たちのモチベーションが上がり、活動に光が当たるだろうと期待されたのです。
結果、全国から募集が集まり、大会当日には27校の方にお越しいただくことができました。生徒自身がプレゼンをし、技術やアイデアを競い合うだけでなく、ものづくりやプラモデルが好きな者同士が交流し、お互いの技術について教え合い、切磋琢磨できる場になりました。一次審査で作品を拝見した時から、かなりの力作ぞろいだったんです。「どんな作品に仕上がるのだろう」と私自身もワクワクしながら当日を迎え、楽しめた大会となりました。
ものづくりは面白い
ありがたいことに、静岡市の取り組みは、いろいろな方から良い反応をいただけるようになりました。プラモニュメントは、地域住民の方からもご好評いただいています。「こういうのをつくるのはどうですか?」と提案をいただくこともあります。なかなか行政だけで進められるものばかりではないのですが、興味を持って提案いただけるのは非常にありがたいです。
コロナ禍での巣ごもり需要以降、プラモデル人気が再燃したこともあり、イベントに関する企業からの問い合わせも増えています。出前授業を行っている小学校からの反応も良いですね。ものづくり産業を知る良い機会になっているようです。やはり、プラモデルはものづくりに触れる最初のきっかけとして適しているのでしょう。子どもの頃にものづくりを体験したことを機に興味を深め、大人になったときに製造業への就職という選択をする方が出てくることにつながってくれたら、とてもうれしいですね。
コロナの影響が落ち着いた後、静岡ホビーショーは会場開催を本格復活させ、来場者数も戻りました。有名企業のブースですと、入るのに1〜2時間待ちなんていうところもあります。国内だけではなく、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアからも多くの方にお越しいただいているんです。「このメーカーが好き」といった根強いファンが世界中にいるのです。
「どうやって仕事のモチベーションを保っているんですか」とよく聞かれます。私にとってのモチベーションは、ものづくりの良さを何とかして広く伝えていきたいという想いに尽きます。静岡市プラモデル化計画を担当するにあたって、小学生以来、数十年ぶりにプラモデルを買って作ってみたのですが、面白かった。大人になった今でも、やっぱり楽しいなと思えたんです。
一方で、経済白書を見ると、ものづくり産業が除々に衰退していることがわかります。「こんなに面白いのに」「ものづくりは大事なことなのに」と改めて痛感しました。だからこそ、ひとりでも多くの人にその魅力を知ってほしいんですよね。これが私の原動力です。
まいた種を育て、花を咲かせたい
プラモデル振興係の初代係長として3年目を迎えました。マチにはプラモニュメントが増え、学校での活動も広がるなど、さまざまな活動を行ってきましたが、個人的にはまだ3割といったところですね。ようやく種まきが終わった段階で、ここから成長させ、花開かすところまで、まだまだやるべきことがあると感じています。
行政ができることには限りがありますし、特定の企業とだけ連携することはできません。しかし、挑戦できる土台は整いました。これからは現状を打破するため、いろいろな企業を巻き込んで大きくしていく時期だと思っています。より多くの企業さんと「これどう?」と意見を出し合える仲を築き、活動を広げていきたいです。
中学の美術の教材に、プラモデルを使う取り組みもはじめているんですよ。これが本当に個性豊かなものができて良いんです。「静岡の中学は美術でプラモデルつくるんだよ」と認知されていくと面白いなと。今後もユーモアを含んだ企画を考えたいですね。
プロモーションにも力を入れていきたいと思っています。市内の方に「プラモデル」に親しんでもらうだけでなく、静岡市外の認知度も上げていき、来てもらって楽しんでもらうところまで持っていきたいのが、第2段階でやることかなと。
第3段階では、静岡市を訪れた方に「さすが、プラモデルのマチだよね」と言っていただけるようにしたい。世界中の方に「プラモデルのマチ」と認知してもらい、ここに来ればプラモデルの魅力を体感できる、良い思い出になるマチにしたいです。プラモデルを活用してマチを盛り上げ、地域創生につなげたいですね。
ものづくりは本当に楽しいです。その魅力を、ぜひ広く知ってもらいたい。これからも多くの人とアイデアを出し合いながら、一緒に『静岡市プラモデル化計画』の歩みを進めていきたいです。
ー おわりに ー
子どもの頃に親しんでいたプラモデル。ただ、ずっと愛好者だったわけではなく、一度離れた時期があるからこそ、その魅力に改めて気づくことができたのでしょう。そしてその経験が「ものづくりの魅力を広く伝えていきたい」という熱い想いにつながっているのだと感じました。まいた種を育て、花を咲かせるその日まで、石川さんたちの挑戦はまだまだ続きます。
PROFILE
静岡市シティプロモーション『ホビーのまち静岡』
静岡市を盛り上げるべく、『ホビーのまち静岡』としてさまざまなプロモーション活動を行う。2020年、産業振興課にプラモデル振興係を設け、地域創生プロジェクト『静岡市プラモデル化計画』を開始。博報堂ケトル、静岡博報堂と三者で包括連携協定を締結し、活動を推進。「環境づくり」「人材づくり」「コンテンツづくり」と3本の柱を立て、プラモニュメントの設置、小学校への出前授業、高校生向けの全国プラモデル選手権大会の開催など、多分野でプラモデルに関わる機会を創出している。
静岡市:https://www.city.shizuoka.lg.jp/
静岡市プラモデル化計画:https://www.city.shizuoka.lg.jp/s2746/s005065.html