静岡県焼津市で空き店舗を改装し、クリエイターのためのコワーキングスペースやカフェなどの場をつくり、はじめる人、つくる人を応援することで、静かな駅前商店街に新たな賑わいを生み出している株式会社ナイン 代表の渋谷太郎(しぶやたろう)さん。そんな地域の活動を続けていくための秘訣について伺いしました。キーワードは「らしさエコノミー」。
〜前編はこちら〜
地域には、自走するクリエイティブを。
Q. 「らしさエコノミー」を提唱されていますが、そこに込めた想いを教えてください。
地域にはそれぞれ磨けば光る原石のような「らしさ」があります。焼津駅前通り商店街の場合は、レトロな街の雰囲気が魅力です。都会的なデザインを押し付けるのではなく、らしさを引き出すデザインがあると思います。そういう「らしさ」に価値をつける仕事をしよう!という考えが元になっています。
Q. 「エコノミー」というのは、どういう意味ですか?
要するに「稼ぐ」ことを大切にしているんです。地域のことになると、行政の補助金に頼りがちですが、長く続けていくためには自立しないといけません。お金を稼ぐことはとても重要なことです。個々の活動すべてで稼ぐ必要はなく、イベント単体で稼げなくても、全体として稼げる仕組みになっていればいい。まだまだ稼げるようになっていませんが、こうした活動を通じて、多くの人と出会うことができ、たとえば地域の方からWebサイトやパッケージデザインの相談をいただくこともあります。Web制作をする際にも、最終的には自分たちがいなくてもお客様だけで回るようになることが理想です。そのものづくりが、お客様の収益につながっているかを必ず意識しています。
Q. 地域の仕事を長く続けていくコツのようなものはありますか?
稼ぐ仕組みが重要ですが、利益が出なくても、続けられる程度の赤字で留めること(笑)。後は逃げられない状況をつくることでしょうか。私にとって焼津は、生まれ育った場所であり、ここで中途半端なことはできません。新しく始めるなら、縁のある場所の方がいいと思います。そして何よりも、面倒臭いことも含めて楽しむことが大切です。カフェなどの場をつくることで、街で活動する人が集まる場所になりました。そこで、お客さん同士がつながりコミュニティができて、いろんな縁をつなげていけるのも楽しいですよ。
Q. まちづくりという違うジャンルの仕事を続けられる秘訣は?
これまでやってきたWEBデザインやデジタルマーケティングという仕事には、多くの人や利害が複雑に絡み合い、PM、チームづくり、交渉、企画等を駆使して乗り切ってきました。これらはまちづくりをはじめ、色々な仕事に通じること。プロジェクトの推進能力、交渉力、企画力、以前勤めていた会社で教えてくれたこと全てが役に立っていると思います。地域でまちづくりをすることも全く同じで、課題を抽出してチームビルディングを行い、プレゼンテーションして集客を行い、人を巻き込んでいく。役に立つことはたくさんありますね。
Q. これから新たなジャンルに挑戦したいクリエイターに、秘訣をお願いします。
新しいことを始めた時「自走できるかどうか」が壁になります。自走は最終的には不可欠ですが、始める・挑戦する段階においては、「ノリ」が大事。そして、お金の面も含め地域や周りの人を巻き込んで自動的に進んでいくようにできるかどうか。その状態にするためには、今までクリエイティブやテクノロジーの分野でそれぞれが学んできた経験も活きるはずです。
特に地域では、東京と比べても、お客さんと長い時間をかけて伴走するような仕事ができます。喜んでいる人の顔が見えるのが、地域の仕事の魅力です。新しいことをするには勇気が入りますが、一歩踏み出せばきっと新たな喜びも待っているはずです。
ー おわりに ー
こちらの質問に対して、ポンポン会話のボールを投げ返してくれる渋谷さん。ご自身もお話されている通り、地域で長く活躍する秘訣は、収益の仕組みづくりはもちろん、そのノリの良さにある気がしました。ご自身が面白がって仕事をすることで、自然と周りを巻き込んでいく。私たちが普段している仕事にも通ずるものを感じました。まちづくりを行政と行う、というと仰々しく聞こえるかもしれません。ノリよく面白がって関係性を作っていく、という捉え方をするとどうでしょう。もう少し気軽に一歩踏み出せるのでは?。渋谷さんは、セミナーでは毎回「今日僕と友達になって帰ってください」と始めるそうです。そのコミュニケーション力こそが、地域で活躍するコツかもしれません。
PROFILE
渋谷太郎(しぶやたろう)
株式会社ナイン 代表取締役
1975年、静岡県焼津市生まれ。2000年に株式会社アイ・エム・ジェイへ入社し、インターネット黎明期からプロデューサー/ディレクターとして、企業のデジタルマーケティング&クリエイティブ活動を支援。ウェブインテグレーション事業の事業部長等を経て2013年に独立し、株式会社ナインを設立。デジタルとクリエイターの力で地方創生に取り組む。2006年にはデジタルハリウッド大学院の講師を務め、若手クリエイターの育成にも力を注ぐ。
株式会社ナイン:https://nine.sc/