起業支援セミナーをきっかけに千葉県市川市鬼越で「Onigo」ブランドを立ち上げられた佐藤さんご夫妻。走りながら考えるその姿勢で、その後は独立しMIKAZUKI.Designを立ち上げるに至ります。オフィスを新たに構え、リアル店舗「オニゴストア」を開店するなど、次々と新たなことに挑みます。その活動は鬼越だけに留まらず市川市すべての街へ。お二人による街づくりの次の一手「市川まちガチャ」について、その想いを伺いました。
〜前編はこちら〜
「Onigo」に訪れた危機を乗り越えたのもまたご夫妻のノリだった。
自ら楽しむことから広がり、ご縁で繋いでいった「Onigo」。順調にみえていた中でも、ご時世にはかなわずピンチが訪れます。しかしながら、それを乗り越え、更に盛り上げる次の一手「市川まちガチャ」を生み出したのもこのご夫婦の「ノリの良さ」からでした。鬼越から市川へ広がった街づくりについて、これまでとこれからを伺いました。
Q.「Onigo」ブランドも順調な中、「市川まちガチャ」を展開されたその理由は?
「Onigo」が売れ始めていたんですが、ちょうどその時に世の中がコロナ禍となってしまったんです。対面販売ができなくなり、出店予定だったイベントも軒並み中止になってしまった。その状況でどうやって引き続き販売していこうか考えたときに「ガチャってよくない?」と。はじめは「Onigo」を売るためのアイデアだったんですよ。その時に私たち夫婦のいつもの悪いクセで「どうせならもっと面白いグッズを入れられるんじゃない?」となりました(笑)。地域にちなんだ商品だけでなく、例えばコロナの影響で苦労されている近隣の飲食店さんで使えるクーポンを入れられたら支援にもなって良いよね、などアイデアは膨らみ、それならば鬼越だけじゃなく市川全体でやりたいと思うようになったんです。鬼越という土地に住んだのが最初ののキッカケではありましたが、鬼越ってそもそも町名として珍しいじゃないですか。そこで市川市の全町名を調べてみたところ、結構おもしろい町名があって。それでグッズができたらいいなと考えたのが「市川まちガチャ」の原点です。鬼越でも「Onigo」への反響がこれだけあってファンになってくれる方がいるならば、町名グッズはうまくいくぞ!みんなそれぞれ自分の町名のグッズがあったらきっと嬉しいよね、と話していました。
Q.市川市全域となると活動範囲も広く大変されたのでは?
「Onigo」のためにガチャガチャの筐体を1台買ってオフィスに置く予定だったのですが、それだと市川市全域の方に知っていただくことができず、誰も買いにこれない。告知も含めてエリアを広げる必要がありました。以前からのセミナー繋がりで市川市内の情報を発信するインフルエンサーさんがいらっしゃったんですが、ためしに協力のお声がけをしてみたところ快諾いただけたんです。早速、投稿してもらうと発信力がすごすぎて多くの反響がありました。そうなると、それに応えるためにはガチャをどこに置けばいいのか・・?と更に悩むことに。そして、これもまた「Onigo」の繋がりで仲良くさせていただいていた京成電鉄の駅長さんに相談してみると、京成八幡駅(京成本線主要駅)のとても良い場所に置いてもいいよと。。街で活動していたからこそのご縁だと思えましたね。
もともとこのガチャは一ヶ月もてば充分かなと思っていたのですが、一週間でぜんぶ売り切れてしまい、手元在庫もなくなってしまった。想定外の出来事すぎて生産体制もまだ整っておらず、これはまずいと。当時はカプセルの梱包もガチャにいれる説明書きの紙のカットも、全て自分たちでやっていたんですよ。
そこで、まず生産体制を整えようと。過去にイベントを手伝って下さった方の繋がりをたどって障がい者雇用のことを知り、受け入れていただける施設を探して相談してみたところ承諾いただけました。私たちとしても以前から自分たちの活動を通じて地域で雇用が少しでも生まれれば良いなと思っていたので、予期せぬ嬉しい展開となりました。
しかしながら、こうして体制こそ少しずつ整っていきながらも、再販するとすぐに完売してしまう。そんな時期が続きました。さすがに在庫をもたなくてはとなり、そうなるとお金の計算も大切になってくるんですよね。前にもお話ししたとおり(編集部注:前編参照)デザイナーが二人の私たち夫婦は経理関係がちょっと苦手だったんですが(笑)これまたご縁があり、セミナーで知り合った方が担当してくれるといってくれて助けられました。運が良かった。。
その方からは、最初は投資が多いが希望のある事業だから黒字をめざそうと言われ、目標も立ちました。さらには主婦の方などにも声をかけ、今では6人の体制です。
Q.鬼越から市川市へ、さらにひろがるMIKAZUKI.Desginさんの街づくりに向けた今後の狙いは?
狙ってやっているわけではなく、まったく見えない中でやっていて、毎年振り返ると自分たちの見ていた目標と全然違っていたりします。去年までは自分たちがガチャ企画をやるとは思ってもみなかったですし、オフィスを構えることも全く想像していませんでした。独立しても家の中で作業していればいいと。でも、ちょっと行動してみたら一気に進んで、年末にはオフィスができていました。全部が信じられないスピードで、繰り返しになりますが本当に走りながら考えている感じですね。
今ちょうどオフィスの隣のテナント物件が空いているんですが、鬼越に私たちがいるからと外部からクリエイターさんが集まってくれたらいいよねと、夫婦で話していたりします。鬼越がちょっとおもしろい街になる。クリエイターに限らず、若いご夫婦などがきてくれてもいいですよね。最初は商店街を賑わせようなど大きなことをたくさん考えていたんですが、面白い夫婦がいて、そこに人が集うことが、私たちのできる「街づくり」なんだなと思っています。地域を盛り上げるというとまずは観光で、などと考えがちですが、SNSやオンラインを通じた、観光資源のない街でのひとつのケースとしてカタチができればいいですね。
1月には「市川まちガチャフェス」を試しにやってみようと計画していて、京葉ガスのコミュニティスペースをお借りして開催します。ガチャ交換会やワークショップのほか、クーポン協力店に惣菜を提供していただいたりと。購入者同士でのコミュニケーションも生まれますし、お客様の声も聞けるのでとても楽しみにしています。ガチャについては全種類コンプリートを狙っているという方もいて、そうした方にはうってつけの機会かもしれません(笑)。
この「市川まちガチャ」は市川市の77町名全てを出すことを目標にしています。いつかガチャというコンテンツが終わっても、地元の町名や地元愛をくすぐるようなアイデアをうまく転身させて、次に繋げていきたいですね。ガチャ企画が役目を終えても、今のメンバーで次の展望やビジネス、ノウハウを生かしたことをできれば何よりです。
そして今後も、思いついて「いける!」となったらやってみようという気持ちは変えずに、その分、協力してくれる周りのみんなを巻き込むだけの責任はとろうというのが、最大の挑戦課題です。地域のお仕事の場合どうしてもボランティア的なイメージもあり、無償でのお手伝いとか、親しい方のご相談だと断れない、などとなってしまいがち。私たち自身が手を動かす立場=デザイナーでありノウハウとスキルを売る職業なので、そこは適正に対価をいただき収益化し、メンバーに還元しつつ事業の持続性も担保して自走できるようにしていく必要性があると感じています。もう少しで黒字化できそうなので、みんなで盛り上げていきたいです。
走りながら考え、ご縁を繋いでいくこと
「Onigo」の好調なスタート直後に訪れたコロナ禍という大きな逆境。それでも「常に走りながら考える」を実践しているお二人だからこそ、ガチャという発想が生まれた。また、日頃から地域のご縁を大切にしているからこそ、小さく試したアイデアが急速に広がっていくことも経験されています。インタビュー内にもある通り、これは他の地域にも当てはめることのできる、新しい形の「地域の盛り上げ方」なのではないでしょうか。
また同時に、地域のご縁であっても、関係する人々=お仕事を依頼してくださる方や協力してくれているメンバーとはビジネスとしてしっかり向き合う。“本当に伝わるデザイン”に必要な要素を丁寧に伝え、対価をいただき収益化し、チームや事業が持続できるようにしていく。そういった形でもご縁を繋いでいく。MIKAZUKI.Design佐藤さんご夫妻が、これからどんなことを仕掛けていくのか。今後の展開が楽しみです。
PROFILE
MIKAZUKI.Design
佐藤宏昭(さとうひろあき)
山形県出身。テーマパークの話題となった広告クリエイティブに出会いデザインの道へ。美術大卒業後、都内の広告代理店でデザイナーとして勤務。現在はアートディレクター・デザイナーとして活躍する中、MIKAZUKI.Desginとして地域の街づくりも手掛けている。
佐藤弥生(さとうやよい)
静岡県出身。WEBデザイナーとして都内の制作会社での勤務を経て独立。アートディレクター・デザイナーとしてロゴやパッケージ・WEBデザインのほかアクセサリーやアパレルなど幅広く手掛ける。
MIKAZUKI.Design:https://mikazukidesign.com/
Onigo:https://onigo.official.ec/
市川まちガチャ:https://www.ichikawamachigacha.com/